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トーキョー【A9】遺跡  作者: 小宮祭路
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15 寝床とサイネウス

とはいえ、この階を見回っても階段がなければ水飲み場もない。

「学校の水飲み場が恋しい……」

 そして寝床の確保はもっと厳しい。

 この洞窟に休める場所なんかどこにもなかった。

 どこからともなくゾンビやスライムや蜂が襲いかかってくるのだ。

 どこか見えない場所に入るしかない。

 だが、そんな場所がどこにあるというのか、どこを見渡しても岩、岩、岩である。

「くそっ!」

 エリオは怒り任せに思いっきり壁をぶん殴った。ズン、という音が小さなフロアに響き、上からパラパラと砂埃が落ちてくる。

「やべぇ、つまんないところで力は使っちゃいけないよな……っておい……壁に穴が空いたぞ」

 自分の殴りつけた壁に穴がぽっかりと口を開いていた。数十センチの隙間から、小さな部屋が見える。

「そ、そっか。力はこういうところでも作用すんのか……改めてすげぇなこの制服……。なんか感謝しとこ」

 エリオは感謝もそこそこに、穴の空いた先を覗き込んだ。

 大きな穴ではない。人が一人入れる程度の穴だ。こちらも自然に発光している。

 あと数回殴ればこの部屋とそちらの小さな部屋を一つの部屋にすることができそうだ。

「んっ? み、水のにおいがする!」

 そして穴の下部には水が溜まっていた。紫色の水ではなく、無色をしているように見える。

「でも……量が少なすぎるな」

 身をかがめて舐めることはできるだろうが、エリオはまだそこまで渇きを感じていなかった。

 最終手段としてこの場所を覚えておこうとエリオは心に刻んだ。

 結局この場所では水があるということを確認しただけで、エリオは別の場所に移った。

「はー、またここに戻ってくるとはね」

 ここはエリオが最初に落とされた場所だった。出口が一つしかなく、通路が長い。つまりもし敵がやってくれば気付きやすい場所だった。

「うおりゃっ!」

 エリオはいま部屋のフタになるようなものが作れないか試行錯誤していた。

 部屋は無残に拡張され、エリオの足元には木っ端微塵になった岩がたくさん転がっている。

「スライムが殴りかかったくらいで壊れないような重量のある扉がほしいよなあ。扉っつーかフタでいいんだけど」

 エリオは足元の石や砂利となった元・壁を見ていった。こんなものは役に立たない。

「中途半端な岩じゃ一発で砕かれるわけだし……やべぇ、打つ手がねぇなあ。例えばこうして、石だとか砂利を思いっきり圧縮したら、強い岩になるだなんてことはないよなあ」

 エリオは石と岩を思いっきり手の中で、こねた。

 まるで粘土のような強度で岩が変幻自在に手の中で形を変えていく。

 力を抜けば、また元の硬い岩だが、その感触がおかしくて、エリオは作業に没頭し始めた。

 すると、徐々に岩が色を伴い始めた。

 黄、紅、蒼、白。

「ん? なんだ!? なんだこれ!!」

 エリオはいつの間にか夢中になっていた。こねればこねるほどに岩や石が宝石のような輝きを放ち……。透明度を増し、いつの間にか七色に輝いていた。

 それはまるで、エンフィールドの話を聞いた時に見たサイネウスそのもののように見える。

「おおおおお! すっげー!」

 エリオは興奮したものの、サイネウスの使い方を知らないことを思い出した。

 しかし、エリオはもうそれくらいでへこたれるような男ではない。

 誰も自分を見ていない。自分だけの世界だ。

 恥ずかしいミスだっていくらでもできるだろう。

 エリオは息を吸って、自らの神の制服の力を使うように、サイネウスに力を込めるようなイメージで願いを込める。

「我、石壁をここに顕現せり!」

 エリオの言葉に呼応するよう、サイネウスが光り、力が放出されるのを感じた。


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