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トーキョー【A9】遺跡  作者: 小宮祭路
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14 新たな問題

 エリオはかなり長い時間洞窟をさまよった。ゾンビはもう慣れっこになり、かなりの数を葬って、他にも素早く巨大な白い蜂などを相手にしたが、これといってエリオの生命を脅かすような存在とは出会わないで済んでいた。

 どうもこの階にはあのスライム以上の存在はいないらしい。

 すると途端に腹が減ってきた。

「う……マジかよ」

 召喚された部屋にバッグを置いてきてしまっている。少々小腹を満たせるものがそこに入っていたのだが、返す返すもスカイツリーでご飯を食べ損ねたのは大きかった。

 この階にいるのはスライムとゾンビ、そして白い蜂だけで、スライムは消えてしまうし、ゾンビはそもそも食べるという選択肢に上げられないし、蜂に関してもどんな毒を持っているか知れたものではなかった。

 エリオは制服のお腹をさすり、わずかばかり空腹に作用しないかと考えたが、少し腹が温かくなっただけで何も変わらない。

 そして考え込む。

「この階には食糧がない。水分もない。おまけに今のところ階段的なものも見つかってない」

 実は紫の泉はそこここに点在しているのだが、その毒々しさから罠だとしか思えず、口を付ける気にはなれなかった。

 地上に出るためにも上の階を目指したいところだったが、階段らしきものも見つからず、頭のなかで地図を描くことはできるものの、なんともこの歪な形をしていて、とりとめもつかない。

「まあ空腹はなんとかなるとしても、水がないと死ぬよなぁ……はぁ」

 エリオは後頭部をポリポリとやりながら、溜息をついた。

 今ある問題点は食糧と水分の確保、それができたのちの脱出が目標だ。

 そんなことを考えていると、ヒタリ、ヒタリという音が聞こえてきた。

 この湿った足音、何度も相手にしたゾンビだ。

「グエ……ェェェェエ」

「はぁ……またか。ん? なんだコイツ」

 しかし、少し状況が違っていた。敵はゾンビの形をしているが、スライムのように全身が緑に統一されて、粘液じみた光沢を放っている。

 強いていうならスライムゾンビといったところだろうか。

「なるほど、ゾンビを捕食したあと、なんらかのきっかけでスライムがゾンビの特徴を持ったと」

 そう考えるより他はない。

 それにいまのエリオにとって、敵というのは大した問題ではなかった。

 

 ないはずだった。

 

 足に力を込め、スライムの横まで瞬間的に移動する。

 まるで神の力を得たような全能感がエリオの中に湧き出していた。

 スライムは突如として真横に出現したエリオに反応することができない。

 

 そこでエリオの腹が鳴った。

 ぐるるるるぅ……。

「やっべ、腹へっ」

 腹へった、と余裕を持って言うつもりだった。

 エリオはこの階の敵全てを見下していた。自分の状況を鑑みずに考えれば、それは合っていただろう。

 エリオは神ではない。エリオはただエンフィールドに召喚されただけの学生だ。

 人の身で、神の力を持つ制服から力をただ借りているのにすぎない。

 それを一瞬、忘れてしまっていた。


 しかも、エリオの動きを察知することができず身の危険を感じたスライムは、自分の全てをなげうって捨て身でエリオに殴りかかっていた。

 そして、その攻撃が制服を簡単に撃ち抜き、腹に痛烈な衝撃を感じる。

「おぐっ!?」

 最初に相手したスライムより威力の低い攻撃だったが、充分にエリオを吹っ飛ばす強さを持っていた。

「おうっ! ぬおっ!」

 エリオは床に叩き付けられ、二度三度バウンドしながら、先ほどまでずっと感じていた身体の熱が引いていることに気付いた。

 冷たい……というか身体をエネルギーで覆うことができていない。

 だが、最初の戦闘で修羅場を越えただけのことはあり、すぐに体勢を立て直した。

「おい、ざけんな! 力なくしたら死ぬぞ!」

 エリオは数時間ぶりに戻って来た死の恐怖から力を身体に再び巡らせる。

 そのときに一瞬頭を掠めるものがあった。

(もしかして……腹が減ると力が発動しない?)

 仮説にすぎなかったが、腹が減るのを気にして一瞬気が散り、ダメージを受けたことは間違いない。

 そして身体にまとった気持ちの力を使うことができなかった。

 幸い打ち所がよかったせいで、頬と制服に覆われた右の二の腕から出血が見られる他、大きなダメージはない。

 死の危険を感じたことで力の増幅を感じるが、エリオはこれをずっと使い続けるのは危険だと思い始めた。

「すぐに終わらせねーと、な!」

 エリオは再びゾンビのスライムに肉薄すると、拳を無造作に突きだした。

 グボッ、とスライムの胸を貫き、生命を奪ったのを感じる。

 ゾンビスライムは形を残さず消えていった。

 

 倒せる。

「倒せはするけど……コレ、使い続けてると大事なところで力が使えなくてミスするかもしれない。つう……あ、頭のキズもまた開いちまったな。取りあえず敵がいないときは気を張るのはやめておこう」

 エリオの頭からは血が流れ出していた。最初のスライムと戦ったときについたものだ。そして今回の頬のキズ、右の二の腕。

 そして、いくらほとんど消耗しないといっても何度も戦闘をしてきたこと、慣れない経験だらけで、力を抜くと急に疲労が襲ってきた。

 疲れが身体を苛んで、遂には自然に膝が笑い出し、腰がストンと落ちてしまう。

「やべぇ……こんな、疲れてるとは、思わなかった。そりゃそうか。俺の中身はフツーの一般人だもんな。神の服を着て云々だとか言われても……」

 そしてエリオは言葉を止めた。

「そうなると、気持ちってMPなのかな? まあ、いいや、別のことを考えよう」

 ポケットに入れていたスマホのことを思いだして、エリオは時間を確認する。押上についたのは大体午後の一時前後だった。

「七時……か。もう大分長い時間うろついてんだな。そりゃ、腹の減りも尋常じゃねえわけだ」

 となると、とエリオの頭の中にもう一つの考えが浮かぶ。

 考えというより、それは自分を生かすためになによりも必要なことだ。

「そうだよ……休むだけじゃダメだ……。疲労を感じて能力が使えなくなるんじゃ、寝床を確保しなきゃいけねえってことじゃねえか……」

 エリオは新たな問題に頭を抱えた。

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