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トーキョー【A9】遺跡  作者: 小宮祭路
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12 源衣と能力(2)    

 白い部屋の部屋主が机に肘を載せて頬杖をし始めた。

 これで神と言われても納得はできないのだが、命を扱う話を当たり前のようにしていることからも、やはり人間とは異質な存在なのだと改めてエリオには思われた。

 自分のテンションと神のテンションで全く開きがあるのだから。

「緊張感ないのか……ないんですか?」

「うーん。正直ここにいるときは羽伸ばしてる感じ。んでさ、能力の話でもしよっか」

 能力、と言われればやはり心は沸きたつ。

 死ぬ寸前じゃなければもっと楽しんで神の話を聞けただろう。

 ましてこの神の軽い感じ。

 だが、エリオはこんな態度でも神の言葉に頼るしかない。

「お願いす……します」

 エリオのその様子に神は苦笑した。

「じゃあ、いこうか。キミの能力の発動の仕方だけど、とっても簡単だよ」

 簡単、と言われると何故追い詰められたときにそれが発動できなかったのか、と思うが、エリオは黙っていた。

 神は片手で頬杖をついたまま、目をつぶり、もう片方の人差し指でひゅるりと弧を描いてみせる。

「気持ちを身体にまとえばいいのさ」

「気持ち……?」

「それだけ」

「それだけ!?」

 神は片目を開けてエリオを見る。

 その瞳が当初の神の印象と大分変化していることにエリオは気付いた。

 神のなにが変わったわけではない。

 エリオの受け取り方が変わったのだ。

「っつっても、それだけじゃわからないんだ……です、神様。俺は攻撃されてる間、死にたくないって思ってたんだ」

 エリオは自分の拳に目をやった。

「でも、最後に諦めたんじゃない? またさ、傷つきたくはないと思っていたから一撃で死ぬようなダメージはなかったでしょ? ただ、敵を強いと思っちゃったんだよ。見た目か、出現の仕方か、はたまた攻撃方法かはわからない。キミは敵を過剰評価した」

 いや、そんなの当たり前じゃないか、とエリオは思う。

 彼の気持ちを知ってか知らずか、だから、と神は続ける。ニヤリと凄絶な笑みを浮かべて。

「キミの戦った相手なんて、羽虫にも満たないザコだっていうのに」

「あんた、俺の戦った相手を知って……?」

「いいや。知らないね。そうじゃない。はき違えるな少年」

 エリオは目の前の男に強烈な違和感を覚えた。

 彼の瞳に捉えられるような、自分という存在を握られているような。

 そんな浮遊感、不安感。

 だからといって神が自分を害するという気はしない。

 暖かい安心感は残っているのだが、それがそのまま不快感につながっている……この部屋にいる限り、自分の命が彼に委ねられているのだということを初めてエリオははっきりと認識した。

「前提が逆だよ。神の衣を着た人間が、地上にいるものに害されると思うかい? こちらが耐えられるかではない。相手がこちらに攻撃できるか? と考えるんだよ」

 エリオはわからない、と応えたかった。現に、ダメージは受けていたのだから。

 しかし、神の表情はその疑問は愚問に他ならないといっているようにエリオには思えた。

「……びっくりした……。神様。あんたって……すごいんだな」

 すると、神は表情を崩す。

 周囲を取り巻いていた不安感が一瞬でなくなった。

「いーやぁ? 僕がすごいってことは、ない。サラリーマンだし。それにキミはそっちの口調のほうがアレだね。えーとキミっぽいね。もうそれでいいや」

「は? あ、すいませ……」

 エリオは謝りかけたが、神がそれを制止する。

「ん、まぁいいよ。キミはキミの魂の形があるわけだし。さぁ、取りあえず能力のことはわかったかな?」

 いや、全然わかんねぇ……。

 エリオはその言葉が喉まで出そうだったが、いままで神の言ったことや、その態度から想像をしてみた。

「つまり、俺が負けるわけがない、と思って戦えば勝てるってわけ?」

「えぇ?」

 エリオの答えを聞くやいなや、神は苦いものを思いっきり噛んだような酷い顔をした。

 エリオは外れを踏んだように息をゴクッと飲む。

「キミさー、なにを聞いてたのさー、もう」

「え? いや、だって殺された相手にどうやって心理的に優位に立てって言うんだよ」

 困った顔で神は両手を広げる。

「いや、外れってワケじゃないよ」

「じゃあ」

「でもかなり取りこぼしてる。もったいない」

 もったいない? エリオは首を捻る。

「それでも能力は発動するだろうけどね。ま、若いから仕方ないかな」

 といって天井を仰ぐ神。

 そしてしばらくそうしていると、突然神は噴き出した。

「ぷふっ、あははは! まぁ、でもそれでいいや。そうであるべきだ。キミはバカだけど、悪いヤツじゃない」

 エリオは緊張感を解いた神のそうした仕草に親近感を覚えながらも、自分をバカにしているように聞こえるのだけは見逃せなかった。

「バカは余計だ!」

「うん。決めた。面白いからもう戻りなよ」

 神から放たれた言葉はエリオを思うさま突き放す答えだった。

 一瞬エリオの呼吸が自分でも止まるのがわかる。

「ちょ! 待って! 戻る?」

「神から特別講習で能力の話なんて聞けるヤツはそうそういないわけで。ホラ、頑張って来なよ」

 神は音もなくエリオの目の前に立ち、彼の頭に手をやった。

 エリオは驚きを表現する時間さえ自由にもらえない。

「頑張れよ、若者」

 その声が真っ暗闇の中で響いて、エリオはなんだよ畜生と思いながら再び死地に立つ。

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