11 源衣と能力(1)
「死にました」
「あ? なに同じこと二度言って……るんですか?」
神の宣告にエリオの拳にワケもわからず力が入ってくる。
そんな宣告をされる立場になるだなんてエリオは夢にも思っていなかった。
それを告げる男の冷淡な顔は、どことなくトコロにも共通するやる気のなさを感じさせる。
「なんで人の人生をそんな簡単に終わったなんて言えるんスか?」
すると神はなにお前勘違いしてんだ? と言いたげに手を横に振った。
「違う違う。だから-、言ったでしょ。ここに迷い込んで来たって。迷い込んで来たヤツは元の場所に戻す。これが僕の役目なんだなー。まぁ、出張所なんだけど」
「戻す?」
「うん。戻す。条件付きで」
「てことは俺、死んでないんですか!?」
「いや、死んでるけど」
……OH、意味がワカリマセーンという感じでエリオは再び頭を抱えた。
「それじゃゾンビじゃねえか……ですか」
「違う違う。死ぬ直前に戻るってワケ。実際の時間軸では死んじゃってるけど、それを一旦保留して、少し戻れるわけよ」
……そういえば、とエリオは頭の中で閃いた。
「ちょっと待ってくれよ、神様! さっきそういえば地球の神って言ってた……ましたよね?」
「うん。まぁ、地球の神のほうも限りなく代理に近い……つーか神の時間ってスパン長いから、少なくともキミらが生きてる間はずっと僕が神の座にいると思うけど、それが?」
「それで……なんですけど、オレを地球に戻してもらえないかなと」
神はいま気付いたと言いたげにポン、と手を叩く。しかしすぐに眉が曇った。
「うーん。あのね。えーと非常に言いがたいことなんだけれども、キミの命はいま、言ってみればこっちの星に所属してる感じなんだよね」
「ふわっとしてますね」
「まあそんなもんだよ。だから地球には戻れない」
地球には帰れないと言われると、少しだけ心の中で動揺がある。
「うわぁショック。実際は死ぬかどうかの瀬戸際だから、実はそこまでショック感はないんですけどね」
「これでいい?」
「はい。んで、俺は戻るんですよね。スライムにぶん殴られてる最中に」
「いや? もうスライムに取り込まれてるけど」
エリオは総毛立った。
「捕食されてる!?」
「まぁ、それはいいとしてさ。キミ、多分能力の使い方を教えてもらってないよね?」
能力?
エリオは首を傾げた。するとすぐにゲームやマンガでいう能力のことか、と合点がいった。
「ああ、そういえば源衣がどうとか。この服って凄いみたいで、殴られてもほとんど痛くなかったし、きっとこれがその能力ってヤツなんだよな……ですよね?」
サラリーマンの格好をした神はエリオを上から下までざっと見て、言った。
「いや、普通の服だけど」
「え? だって……」
眼鏡をかけ直してエリオを再度ジロジロと見た神だが、合点がいったように頷く。
「そっかぁ。なるほどね! 普通なんだよ普通! 僕らの普通!」
エリオはどこかふて腐れたように洩らす。
「……普通のどこに驚く要素があるんだよ……あるんですか?」
それを知ってか知らずか、神は人差し指を立てて自分の目の前に持っいった。
こうすると妙に似合っていて、超然とした雰囲気を発しているように見える。
「神にとっての普通ってこと」
「?」
「キミから見て僕はなに? キミはヒト。じゃあ僕は?」
「え? 神……さま」
うんうんと神が頷く。
「つまり人からすればキミの制服は神の服に見えるってこと。それをわかる眼がないといけないわけだけど。さて、てっとり早く能力の話をしてあげないとホントに死んじゃうからさ」
「ここから先は……神様」
「この戦いに3度目はないからね。次死んだら終わりだよ」
その言葉に、エリオの心臓が早鐘を打ち始めた。
「ここまできたら、やってやんよ」