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トーキョー【A9】遺跡  作者: 小宮祭路
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9 死/認識

鳩尾を殴られると息が止まって足にも来ますよね。

「はーっ、はーっ」

 ゴツゴツとした冷たい岩壁を背に、エリオは乱れた呼吸を直していた。

 迫ってくるゾンビたちを睨み付けながら、まず考えたのはどうやってゾンビの動きを止められるか、あるいは殺せるか。

 制服で攻撃をガードできるというのは強力なアドバンテージだ。

 もしそこにデメリットがあるとするなら、攻撃されることに慣れたとき。

「さて、どうやって料理してやろうかね」

 苦い顔で呟きながら、ポケットに残されているこぶし大の石を確認する。

 そのまま武器として殴り続けることもできるし、投げてもいい。落ちた石は拾うこともできる。

 ただ……。エリオはゾンビの拳で破壊された岩をちらと横目で見た。

 それが自らの頭と重なって見える。 

 拾っている間に追いつかれたときにもし頭を殴られれば死んでしまうだろう。そこはひとつのミスで終わりだ。

 さきほどのようにゾンビがつんのめるような運の良いことなんて、そうそう起こらないとエリオは自分に言い聞かせた。

 

 そこで1つ思い出した。

「そうだ、泉……」

 泉にゾンビを落としたらどうなるのか。

 紫色の毒性を感じさせる水質だから、なんらかの変化が起こるかもしれない。

 もしなにも起こらなかったとしても、這い上がるときにしこたま殴ってやれば倒せるかもしれない。

「うし、じゃあ行きますかー」

 エリオは腕を回し、のろのろと迫ってくるゾンビたちを誘導して出口を開けさせた。

 すでにエリオはゾンビの動きに慣れて来ている。

「泉の場所に戻るぞ、のろまども」

 彼は来た道に背を向けて、ゾンビの注意を引きつけながら歩いた。

 さながら引率の先生のような余裕さだ。

(少なくともダメージを負わないで済む方法を知っているといないのとじゃ、全然違うもんな)

 あと少しで泉の部屋に戻れるというところでバガァッ!! という突然の打撃音がエリオの耳を打った。

 視界が影で覆われる。

「マジかよ……」

 エリオは忘れていた。

 こうして戦っていれば、その音を察知して別の敵が来ないとも限らない。

 最初の懸念が頭から吹っ飛んでいたのだ。

 打撃を受けたのはエリオではなく、ゾンビたちだった。

 一撃で一体ずつ、猛然としたスピードで視界から消え、壁に叩きつけられる。

 そして敵はエリオの頭を飛び越え、ゾンビたちに覆い被さった。

 大きさはこの通路を通れる程度……3メートルはあるだろうか。

 しかし、その形状が異彩を放っている。

「スライム……? いや、これはなんだ? っていうか、ゾンビを食ってる!?」

 つるつるとした人型の身体を覆うように幅広の草が身体にまとわりついている……、草を着た人型のスライムだ。

「でも、今はチャンスだ、このまま泉の方に逃げないと、コイツに襲われる!」

 エリオは全力で泉の部屋に逃げ帰った。

 今度はゾンビたちのやってきた道に進もうとしたのだが、何かの着地するガンッ!! という音がエリオの背後で轟き、動きを止めざるを得なくなる。

 エリオの身体に明らかにさきほどよりも大きな影が落ちて、背筋がゾクッと悪寒に震えた。

 ゆっくり振り返ると、先ほどのスライムが巨大化してエリオを見下ろすように立っている。

「おいおい、デカくなってんじゃねえよ……栄養補給でもしたってのか?」

 エリオのことなど意にも介さず、スライムの口部分がバクン、と開く。

「キィッ!!」

「ぐあっ!!」

 ゾンビの雄叫びとは違い、耳の奥を叩き付けるような音の波を発した。

 エリオは強烈な音に三半規管をやられて方向感覚を失い、よろめいてしまう。

 そして、ゾンビを吹っ飛ばす目にも止まらないスライムの攻撃がエリオに放たれた。

「くそっ、たれぇ!!」

 エリオは咄嗟にその攻撃を手を使わず、身体を自ら投げ出すことによって胸で受ける。

「っ!?」

 ゾンビの攻撃を受け止めることはできた制服だったが、スライム相手には分が悪かったようで、壁に激突した。

 

 マジか……。詰んでるにもほどがあるじゃねーか。

 やっとゾンビへの対策が立ったかと思ったら、ゾンビを遙かに凌駕する新手が出て来て攻撃も食らっちまう。

 まあ、身体のダメージを見るに、制服が相当軽減させてるみたいだから、運がいいのか、悪いのか……。

 制服がなければ、苦しまないで死ねたかもしれないよな……。

 

 ゾンビ相手はまだなんとかなったが、スライム相手には逃げることしか頭に浮かばない。

 もうエリオに打つ手はなかった。

 制服がダメージを軽減してくれたとはいえ、もう身体に力が入らなかった。

 ゾンビのように一撃でズタズタにされなかったというだけで、気を張り続けていたエリオの体力は既に底をついていたのだ。

 だが、逆に心は澄み切っていた。

「一日中、死にたくねぇ、が頭ン中をぐるぐる回ってる。こんなのは初めてだ……はは、でも死ぬのかもな」

 スライムが、ズン、ズン、と足音を立ててエリオに迫る。

「でも、できることなら、最後まで足掻かないとな……。まだ王様にキッチリと話を聞いてねぇ。それに、まだ俺自体やりたいことがある」

 スライムがエリオの頭をむんず、と捕まえて、壁に叩きつけた。

「あがっ!!」

 岩の直撃を受けた頭部から血がぶしゅっと出血して、エリオの視界が真っ赤に染まる。

「い、いてえ……こ、はは、こ、これは死ぬ……ってことか。やべぇ」

 そして、エリオを壁に縫いつけたまま、スライムはエリオの胸を滅多打ちにした。

「死……死にたくねぇ、死にたくねえ!!」

 手始めに5発。次の10発、そして乱打が段々見えなくなってくる。

 その度にエリオはえづき、漏らした息にはいつしか血が混ざってきていた。

 しかし、もしスライムに知恵があれば不思議だと言っただろう。

 まだエリオの身体はその形を悠々保っており、制服も全く破れることなく、綺麗なままなのだ。

 衝撃により内臓と、先ほど傷ついた頭だけが大きなダメージを負っている。

 叫びも空しく、エリオは意識を手放していたが、スライムはこれでエリオが死んだと思い、食らうことにした。

 スライムは身体全体をエリオに覆い被せ、飲み込んでいく。

 エリオの身体がずぶずぶとスライムの中に入り、消化されようとしていた。

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