op
よろしくお願いいたします。
風の音がひゅるひゅると精霊機械の耳を通っていく、この蒼い空は東の果て、ウィーグラントのエンフィールド王国。
一羽の鳥、精霊機械の鳥が中空に留まっていた。
精霊機械は猛禽類のような凜々しい瞳と宝石でできた爪を備え、翼の先に青銅をまとわせていた。螺鈿細工を立体にしつらえたような、工芸品を思わせる美しさだ。
精霊機械とはその身に精霊を宿した一種の使い魔だった。
この気まぐれな気質の精霊機械は、時折こうして主の元を離れ、風を楽しんでいた。
しかし、主の大事な儀式が待っている。
そろそろ戻らねばならない頃合いであると理解していた。
精霊機械はひゅう、と風切り音をさせて急降下していく。
滑空していくと、元より視界に入っていた針のような存在がどんどん大きくなっていった。
それは白く、天を貫く塔。
その傍にはビル群がズラリと並び、住宅地とその境界を分けていた。
旅客船が鉄橋を走っており、一般道は火精車が走っている。
無機質な素材でできた看板が町を見つめており、そこを往く住人の顔は一様に元気がない。
俯いた彼らの視線の先にある地面は、アスファルトでできていた。
町を見つめる看板はTOKYO SKYTREE と記されている。
ここは押上だった。
いや、末尾には異世界の言語で『遺跡』という言葉が書かれていた。東京スカイツリーの遺跡だ。
現代人にはどこかちぐはぐに見える押上の姿だ。往来の人間はトーガのような布をただまとった者や、鎧を着たもの、剣を持つ者、制服を着た警備員のような者がいたり、広場では露店が開かれていたりする。
コンビニの姿はあるが、中で売っているものは日本ではあまり馴染みがない。
精霊機械はそうした押上の人たちを横目に、地下に入って行った。
東京スカイツリーの底に広がる地下に。
そんな精霊機械を遠くから見ている一人の少女の姿があった。
近くで大きな翼を持つトカゲが従うようにふわふわと浮いている。
白い服を着た銀髪の少女だ。年の頃は高校生くらいだろうか。
周囲一帯は森の中、鮮やかな紫色の光輪が足元で輝いている。
「待ってる……」
ぽつりと少女は呟いた。
10月17日、op改稿しました。1話~6話もまた順次直していきます。7話から読み始めてもオッケーですので、もしよろしければ気長におつきあいください。