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Reverse Card -リバース・カード-  作者: 火鈴あかり
Episode 02 - 服従のマリオネット
39/127

【 第二章 】 仮面の裏の彼女の素顔。(2)

 ……

 …………

 ………………


 不思議な感覚に身を委ね、感覚の変化に意識を集中させる。

 時が引き伸ばされるような不思議な感覚。だが、それもやがて終わりを告げる。


「……っ」


 スタッと響き渡る着地の音と、脚から伝わる自分の感覚に、意識を取り戻す。

 静かに目を開けてみると、眩しいほどの明かりが目に突き刺さった。


「……ここは」


 広々とした空間。四方を観客席に囲まれたこの場所は、ライブステージに似ている。

 だが、薄暗い会場にサイリウムが飛び交うイマドキのステージとは、また雰囲気が違う。

 本質を露わにするような、明るさと威厳に溢れたこの場所は、どちらかと言うと――。


「……コンサート、ホール?」


 実際に演奏会とかを見に行った覚えはないものの、こんな感じの場所だった、ような。

 それこそ、ちょっとした講演会の規模じゃない。本格的な舞台に、僕は立っていた。


 ――なんだか、不思議な感覚。


 戦場フィールドの雰囲気に飲まれないように、ひとつ深呼吸して、気持ちを落ち着ける。

 その直後、僕の背後から何かが降り立った音に振り返ると、そこには――。


「…………っ」


 ――夜空のような髪を靡かせ、ステージに降り立った少女の人形。

 現実の太陽のような輝きとは別の、落ち着いた夜の星のような煌めき。アイドル衣装のような、魔法少女のような独特な衣装を身にまとった彼女は、他でもない――アヤネのアバター。

 隙が見られない綺麗な姿に、思わず目を奪われる。


「…………、……準備は宜しいですか?」

「……?」


 僕の姿を見て何かを言いかけたものの――言葉を飲み込み、その手に武器を顕現させる。

 現れたのは、星球型の鉄球を鎖で繋いだ連接棍フレイル――“モーニングスター”。

 明確な敵意と共にこちらを睨みつける少女に、僕も同じように細剣ぶきを構える。


 それを準備完了の合図と見たのか、「それでは――」との言葉と共に、手をかざすと――。


「オープン!」

「……オープン」


 カードの展開と合図に、戦闘が始まった。



    ◆



 ――まずは速攻――ってぇッ!?

 様子見とばかりに走りだそうとした僕に向けて、鉄球の弾丸が放たれる。

 咄嗟に飛び退き、身体を掠める風圧に肝を冷やす――が、落ち着いている暇はない。


 打ち出した弾丸を追い、その鎖を手繰るように距離を詰める人形。

 怯んだ僕の隙を見逃さないとばかりに、一気に間合いを詰められ――。


「“【2】ペネト――」

「――させません」


 彼女に先手を奪われたことを後悔する。

 迎撃に放とうとした“【2】ペネトレイト”に割り込むように、その手に握る連接棍を横に振るう。


「っあッ!」


 意識を正面に奪われたからこその、奇襲。

 先程放たれた鉄球を繋ぎ止める鎖が、意識の外から脚を絡めとる。


 ――まだッ!


 バランスを崩し、宙に投げ出された身体。だが、そのまま転がるように次へと繋げる。

 なんとか態勢を整えなおそうとする僕に向けて、更なる追撃が加えられる。


 再び迫り来る鉄球の弾丸。

 この態勢じゃ避けるに避けられない――ならッ!


「“【2】アプドラフト”ッ!!」


 自分の前に設置するように、“【2】シルフ・アプドラフト”を設置する。

 上昇気流に吹き上げられるまま、上空に飛ばされる鉄球。――だが。


「――はぁっ!」

「なッ?!」


 その気流を切り裂くかのように、鎖を引き寄せるように鉄球を横に払う。

 更にそのまま勢いを乗せて、一回転からの気流を切り裂く横薙ぎへと――。


 ――マズいッ!?

 頭で判断するや否や、咄嗟に前方に設置した上昇気流に飛び込む。

 身体を風に任せ、上空へと逃げ延び――。


「……っ!」


 ――空振った鉄球が、観客席に叩きつけられる。

 だが、驚愕は一瞬。次は逃がさないとばかりに鉄球を手繰り寄せると、空中の僕に向けて、全力で鉄球を打ち出した。


「そう何度も何度も――ただ振り回されてると、思うなッ!!」


 完全に僕を捉えた一撃に手をかざし、反撃の一手へと変換する――!



「“【4】エア・ブラスト”ッ!!」



 ――鉄球の弾丸と風の弾丸が激突する。

 勢いを受け止め、飲み込み、押し返す一撃。その重い一撃を、そのまま反撃の一撃へと移し替える――!


 激突。

 鉄球を飲み込み、返す一撃だったはずの、それは――。


「えっ……!?」


 ――忽然とその姿を煙と化す。

 人形の姿と共にステージから姿を消した鉄球は、一体何処に――って、煙……?

 風の弾丸によって即座に吹き飛ばされたが、あの煙は――。


「――ッ! しまっ」

「“【4】エア・ブラスト(おかえし)”です」


 気付いた時には遅すぎた。

 自分の背後に瞬間移動テレポートした人形が、背中に風の弾丸を撃ち込む。


「……だッ、がッ?! ……いっつ、っっ……」


 不意の一撃により、空中から地面へ叩きつけられる格好となった。

 地面をバウンドし、衝撃に呻き声を漏らす。


 ――“【1】アサシン・スキル”。

 移動先が『相手の背後』という条件があるが、汎用性の高い瞬間移動テレポートカード。

 発動時に煙を発生することが特徴で、見極めやすいカード、なん、だけど……ッ!


 ――タイミングが完璧過ぎじゃないっ?!


 直撃したかに思わせるタイミング。

 地面を砕いた土煙に見せることで、僕の判断を一瞬遅らせた。


 衝撃に軋む身体を起こし、更なる追撃に意識を切り替える。

 生半可な気持ちで勝てる相手じゃない。

 神経を研ぎ澄まし、全力を尽くすことだけに集中する。


 現状、互いにコストオーバー。

 いまは、あの変幻自在な連節棍モーニングスターをいなすことに集中するしか――。


「“【0】リリース・ブラスト”」

「――ッ!?」


 次はどうするか、手段カードの尽きた白兎に向けて、無慈悲な追撃が加えられる。

 『リリース』の名を冠した、コストの代わりに【色】を消費するカード。こちらの切れる手札がないことをいいことに、一気に攻め立てるつもりだろうか。

 “【0】リリース・ブラスト”。その効果は――。


 ――消費した【色】の数だけ、追尾する魔法弾を放つ攻撃……!


 “【1】アサシン・スキル”と“【4】エア・ブラスト”で付与されたコストは、合計五個。

 つまり――。


「……ッ! っぁあああッ!!」


 だが、その思考に至ったが故に、一気に踏み込んだ。

 逃げたところで、障害物らしい障害物のないこのステージじゃ、追尾を振り切れない。


 ――……なら! 追尾する前に一気に踏み込み、駆け抜けるッ!


 前方に迫り来る、魔法の弾丸。

 凄まじい勢いで身体を射抜こうと迫る追撃。

 ――でも、これに似た経験なら、カイ相手に散々やってきた。


「……軌道が読めるなら――避けられない、ほどじゃないッ!!」


 迫り来る魔法弾から目を逸らさず、その動きを――見極める。

 一発目を横に避け、二発目を跳躍で凌ぎ、三発目の下を潜り抜ける。

 四発目を強引に左腕の籠手プロテクターで受け流し、五発目を加速して振り切る――!


 ――抜け……ッ?!


「ッ!」


 だが、まだ追撃を抜けていない。

 更なる追撃。予想の外からやってきた六発目。

 一瞬判断が遅れ、右肩を掠める。――更に、もう一発。


 ――七発目!


「はあッ!!」


 完全に身体を捉えた一撃を、右の手に握る細剣で切り捨てる。

 爆撃を受けたかのような衝撃に顔を歪め――だが、抜けたと不敵な笑みを浮かべる。


 ――今度こそッ!!


 脚に力を込め、今度は自分の番だと一気に地を蹴り、踏み込む。

 コストは【5】を下回った。今度はこっちのお返しだ。


「“【2】ペネトレイト”ッ!!」

「……!」


 全身の体重を込めた、刺突攻撃。

 コストは全部【黒】、個数はひとつ下がって【6】。――これをかわす手段は、ないッ!!


「はああッ!!」


 持てる手段を使い切った人形に向けて、全力の一撃をぶちかます。


「ッ、っぁあっ!!」


 衝撃に吹き飛ばされる身体。ここにきてやっとダメージらしいダメージを入れられた――。

 だが、その時に気付いてしまう。先の攻撃が、迂闊だったということを。

 “【4】エア・ブラスト”を放つ前に、コスト【2】の、別のカードを――。



 ――紫の気配オーラを、纏っていたことに。



「……! しまっ――あああああああああああッ!!」


 瞬間、自分にも返ってくるダメージ。

 ――迂闊、だったッ!! なんで気付かなかったんだ?!


 彼女自身から、彼女の攻撃に意識を移していたが故の、見落とし。

 とある条件を満たした際に、強制発動するトラップカード――『気配オーラ』。

 その際、属性の色の気配を発生させているため、注意していれば気付けたはず、なのに。

 いや、“【0】リリース・ブラスト”が七発だった時点で、気付くべきだった。


 今回の場合は闇属性の――“【2】トラップ:ハーフ・ダメージ”。

 受けたダメージの半分を、攻撃した相手に返すカード。全力を込めた一撃が、かえって仇となった。

 痺れるような衝撃に悲鳴を上げ、膝をつく。



 ――だが、そんな隙を見逃すわけもない。



「……ッ!!」


 放たれる鉄球。

 咄嗟に武器を捨て、腕を交差させ籠手プロテクターでブロックする。


「……がッ!!」


 全身に響き渡る、重い衝撃。結界バリアを張ったわけでもないから当然だ。

 鉄球と共に壁に叩きつけられ、意識を持っていかれそうになる。


「……っ、ぅぅ……」


 放たれた鉄球を手繰り寄せ、瀕死となった白兎を見下ろす人形。

 傍から見れば圧倒的な実力差。そう見えるかもしれない――でも。



「………………どうして、笑えるの?」



 彼女のその一言に、笑みを零す。

 こんな状況だというのに、彼女は臨戦態勢を解かない。

 それはつまり、こんな瀕死な僕を、まだ脅威だと思っているということ。


「……そんなの、楽しいからに決まってるよ」

「………………」

「……これだけ追いつめられて、次はどうやって切り返してやろうかって――!」

「………………」


 まだ喰らいついてくるつもりの白兎に、人形は顔を歪める。


「…………マモル君は、『もうダメだ』――とか、思わないの?」

「むしろ『これから』だよ。まだ、バトルは始まったばかりでしょ?」


 こんなの、まだ初期手札の応酬。

 最初の手札の良し悪しだけで、勝負を終わらせるつもりなんか――ない。


 僕の言葉を聞いて、「……そう」と答えた人形は、後ろに跳んで距離を離す。


 ――……なるほど、ね。


 その反応に不敵な笑みを浮かべると、自分のコストに目を向ける。

 先程の会話で時間が過ぎたのか、コストは【6】から【4】に下がったところ。

 つまり、距離を離したのは、僕の残った二枚の手札を警戒した、ということ、か。


 響き渡る衝撃も引いてきた。これなら十分に動ける。

 ゆっくり立ち上がると、今度こそ方針と覚悟を決める。


 考える暇も、休息も、十分にあった。だから――。



「……ここから、反撃開始だッ!」



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