【 第一章 】 その出会いは、唐突に。(4)
――意識が遠のくような、一瞬の時。
――世界の全てが過ぎ去るような、刹那の時を経て――僕は降り立った。
目を覚ました時、自分の感覚を確かめる。
普段より身軽な感覚。白い毛皮にライトアーマーを着け、ヘルムの隙間からぴょこんと長い耳を伸ばす。可愛らしい白兎の騎士の姿。――これが、僕のゲームでのアバターだ。
「……っとと」
降り立ったはいいものの、立ち上がる拍子にふらついた身体。
なんとか持ち堪えるが、やっぱり何度ログインしても、この感覚だけはどうも慣れない。
本当に大丈夫か軽いストレッチをしてみる。……うん、大丈夫みたい。
異常がないことを確認して、改めて今回の戦場を見渡した。
「ここは……ショッピング、モール……かな?」
自分の居る場所は、ガラス越しに明るい日差しが差し込む、一階の広場。
二階、三階、と見上げれば何層にもなっており、奥には様々な店舗が並んでいるように思える。もっとも、ゲーム内の戦場だから、お客さんも店員さんもいないんだけど。
どこか既視感を覚えるショッピングモール。状況把握はさておいて、まずは――。
「――“オープン”!」
その言葉と共に、五枚の手札が浮かび上がる。
――“【0】リリース・シルフィード”、“【2】シルフ・ダウンバースト”、“【2】スラスト・カッター”、“【4】エア・ブラスト”、“【2】シルフィード・バリア”。
――うん、悪くない。
後は、どうやって攻めるか。
この広場は広いし、戦いやすいけど、あのタケルのアバター……大鬼と真っ向勝負するのは、正直言って分が悪い。地の利を活かして、障害物の多い奥に逃げ込んだ方がいい、か――。
「……っと、そういえば……響さんは、ちゃんとログインできてるかな?」
当然と言えば当然だけど、僕は彼女のアバターを僕は知らない。
そもそも何処に居るんだろうか。中で観戦するとは言ってたけど。
「えっと、ログインしているメンバーはバングルメニューから確認できたよね……?」
いまのうちに詳細は確認しておこっか。間違えて戦闘に巻き込んじゃったら、不味いし。
そう思い左腕に装着したバングルに触れ、メニューを表示する。
――フィールドに存在するプレイヤー、三名。
タケルとアヤネの両名が居ることを確認する。えっと、確か詳細確認は――。
うろ覚えの知識を活かし、アヤネの名前をタップする。
――ヒビキ アヤネ。
◆ 種族/人形。
◆ 職業/歌姫。
ビジョンに表示されたのは、アヤネのパーソナルデータ。
そして隣に表示されるのは、彼女のアバターの姿。その姿に、思わず目を奪われた。
藍色から空色に変わる綺麗なグラデーションのロングヘアー。ところどころに見える白い光が、まるで夜空の星々を思い浮かばせる。
衣装も特別製。魔法少女のような綺羅びやかで、制服のようにお淑やか。清楚なイメージのトップスに、ドレスのように広がるようなスカート。幾つかの切れ目には透明感のある生地。唯一開けられた前方からは、中にミニスカートが見える。
例えるなら、精巧に作られたフィギュアのような……歌姫の人形。
その夜の星のような煌めきに、思わず目を奪われ――。
「ボケッとしてんじゃねェよォッ!!」
「――ってぇえ!?」
そんな見惚れていた僕に、オブジェクトの投擲が襲いかかる。
投げかけられた大声でハッと我に返ると、咄嗟にその身を飛び退かせた。
先程までいた場所を目掛け、ベンチが飛来する。――危なッ!? 間一髪だよッ!?
「もうバトルは始まってんだ、呑気に画面を見てるたァ、余裕じゃねェか? あァン!?」
次に飛び降りてきたのは、巨大な体躯。
ドスンという音を響き渡らせ、広場に降り立ったその人物は、赤い身体に角を生やした――大鬼。タケルのアバターだ。
威圧感に満ちたその姿を見て、即座に態勢を立て直し、武器をこの手に宿らせる。
光の粒子が集まり、形作るのは――細剣。僕の手に馴染む、羽根のように軽い剣だ。
「――それじゃあ行くぜェッ!!」
その姿を見てニヤリと笑うと、改めて大鬼が襲い掛かってきた。
――って、速……ッ!?
自分の想定を上回るスピード。
その鈍重な身体からは思いつかないほどの速度に、判断が遅れる。それが、躊躇せずに切られたカードの効果だと気付いた時には、もう目の前まで迫ってきていた。
カードの効果による加速に加え、その勢いを利用した金棒の一撃。
上半身を消し飛ばすような、重い一撃。思わず寒気を感じるが、避けるのは間に合わない――ッ!?
――炸裂。
凄まじい衝撃と共に、白兎の身体が吹き飛ばされる。
次の瞬間、壁に叩きつけられ、破片が飛び散る。土煙が辺りを舞う中――。
「………………チッ」
「はあぁッ!!」
風が煙を吹き飛ばし、白兎の姿を露わにする。
――あっぶなッ?!
未だその姿は健全。というのも、風の障壁――“【2】シルフィード・バリア”が衝撃を受け止めてくれたから。だが、全身に軋むような感覚が、その攻撃の重さを体現していた。もし直撃していたら、どうなっていたことか。
「……い、いきなり過ぎるんじゃないの……っ!?」
「ケッ、言ったろ? 『もうバトルは始まってる』ってなァッ!!」
その言葉と共に、追撃をかけるべく襲い掛かる。
先の攻撃で態勢を崩され、よろける身体。このままじゃダメだ。相手にペースを握らせたら、パワーで押し切られる。
襲い掛かる巨体に怯えず、その手に握る細剣を振りかぶる。
「――“【4】エア・ブラスト”ッ!!」
「……なッ!」
白兎から放たれる咆哮。コスト【4】、風の弾丸が大鬼の身体を貫く。
だが――。
「……はッ、ハアッ! こんな風ェェッ!!」
――重い大鬼の身体を吹き飛ばすには至らない。その場に踏み留まられる。
元々風属性のカードは、発生の早い事、汎用性の高い事が特徴で、単体のパワーは弱い。
コスト【4】とはいえ、加護の補助もない単発攻撃じゃ、たかが知れている。
早々とコスト【6】に――コストオーバーにする対価としては、あまりにも効果が薄い。
だけど、いまの一撃で、攻撃を受ける立場に綻びが生まれた。
この最大のチャンス。相手が油断する最大のチャンスに、攻撃を貫き通す。
「――はあッ!!」
地を蹴り、一気に踏み込む。
コストオーバーのこの状況、自分の身を守る手段はない、一か八かの賭け。
風に目が眩みよろけた身体に、渾身の刺突をお見舞いする――ッ!
「ぐあッ!?」
重い巨体が、揺らぐ。全体重を込めた決死の一撃に。
だが、攻撃の手を緩めない。それをすぐさま引き抜き、畳み掛けるように猛攻をかける。
「はああぁぁぁッ!!」
「っぅぅうッ!」
カードの力が込められてない、あまりに貧弱な一撃。
だが、それがどんなに弱いとしても、ノーダメージなんかじゃない。
貫き、積み重ねる。このチャンスに、この弱い一撃を、何度も。だが――。
「……舐めてんじゃァ……ねェッ!!」
「――!」
――大鬼の反撃。それを咄嗟の反応で飛び退き、回避する。
だが、それだけに終わらない。その金棒を振り上げると――地面に叩きつける。
「“【3】インフェルノ・タワー”ッ!!」
その叩きつけと同時に、僕の足元が盛り上がる。
――ッ!?
危険を察知するや否や、すぐさまその場から離れる――と、その瞬間、火柱が立ち上がる。
業火の塔。燃え上がる柱が、大鬼と僕の間を遮る。いや、これだけじゃない。
「――えッ?!」
連撃。
お返しだと言わんばかりに、連続で火柱が立ち上がる。
二発目、三発目――地面が盛り上がる予備動作があるだけ、回避は容易。だが――。
「……あっつ……それに、炎で何も見え――」
立ち上がる三本の火柱によって、大鬼の姿を見失う。
とりあえず近くにいたら熱さによって徐々に削られる、と、距離を離す。が。
「そこだァッ!!」
「――ッ?!」
火柱を薙ぎ倒し、全力で飛来する金棒の投擲。
三発の火柱。あの攻撃は誘導――と思った時には、遅い。
僕の最大の強みである脚を奪い、完全に獲物を捕えた金棒が、力任せに飛来する。避けたくても、逃げ場がな――ッ!!
「かは……ッ!」
腹部に直撃した金棒が、勢いのままに僕を巻き込み、ガラスを叩き割り、ショッピングモールの外へと吹き飛ばす。割れた衝撃で響き渡る音さえ、遥か遠いものに思える。
どこかで見た知識。――衝撃を殺すため、同じ方向に跳ぶ。というのを試してみたけど、あんまり効果あるのか実感がない。僕の知識が間違ってたのかはわからないけど、それだけ馬鹿げた威力だ、ということか。
外に弾き飛ばされ、ボールのように転げまわった僕は、よろよろとその身を起こす。
――……な、なんとか……まだライフは残っているみたい。
荒い息を吐き、それでも立ち上がる。
まだ大丈夫。そんな僕に追い打ちをかけるように、割れた場所から敵意が膨れ上がる。
「はあアァッ!!」
「……ッ!」
咄嗟にその手に細剣を顕現させ、いままさに襲い掛かってくる敵に構える。
襲いかかる大鬼、振りかぶる金棒。――それに真っ向から対峙する白兎が、交差する。
響き渡る金の音。
圧倒的なパワーで押し潰そうとする大鬼に……白兎の細剣が対抗する。
本当は力なら大鬼が圧勝。そのはずなのに、力は拮抗していた。まるで支えるように両手を添え、それでも足りない力を根性で捻り出して。
「ケッ……そんな細ェひょろい力でェ……ッ! 俺様のパワーを止められるかァ……ッ!!」
「……ぐっ……ぅっ……」
――だが、それでも。それでもまだ足りない。
籠手越しに、圧倒的な重みを感じる。本来なら、細剣の方が先に限界を迎えても不思議じゃない。しかしそれでも、どれだけ力を込めても、細剣は折れない。まるで使用者の心のように。こんな状況でも諦めない、白兎の心のように。――だから、だからッ!!
「……っああああああッ!!」
「んな……ッ!?」
受け止めていた刃がバランスを傾け、全力を注いでいた大鬼は態勢を崩す。
横に攻撃を受け流した。――でも、これで終わらない。この最大のピンチを、チャンスに。
――そしてチャンスは、絶対に見逃さないッ!!
「――“【2】スラスト・カッター”ッ!!」
「がァッ!!」
バランスを崩した大鬼の身体に、素早い二連撃が叩き込まれる。
この程度じゃ、まだまだ致命的なダメージには成り得ない。けれど、これ以上の追撃は不可能と判断するや否や、大きく飛び退いて退避――。
「逃がすかァッ!!」
「――ッ?!」
――させるまいと、かざされた大鬼の手に瞠目する。
あの光――“【3】サラマンダー・バーン”ッ!?
「……ッ! “【0】リリース・シルフィード”ッ!!」
「消し炭になりやがれェッ!!」
――大爆発。
炎の砲弾と、咄嗟に発動させた風の一撃。
“コストにかかわらず発動できるが、代償としてコストに残された『色』を使用する”“【0】リリース・シルフィード”。
その効果はコストの数だけ威力が増す、コストオーバーというピンチの時こそ本領を発揮する、一発逆転の切り札。
お互いの力と力がぶつかりあい――そして、至近距離で爆発を引き起こした。
「――がッ……つぁッ……いったた……」
爆発に身体が吹き飛ばされ、地面をバウンドする。
凄まじい衝撃に脳が揺らぐ。衝撃に痛むような感覚を覚えるが、まだ決着はついていない。
なんとかその身を起こすと、この場に広がる爆炎の向こうを見る。
煙で何も見えない。けれど、あの大鬼が、この程度でやられるはずがない。
――僕のコストは【6】で、残ったカードはたった一枚。コストの代わりに使える『色』も失った以上、もうブラフにもならない。
こんな状況だったらどうする? コストが消えるまで逃げ回る?
「…………あ、ははっ……いつもの僕だったら、そうしてた……かもねッ!」
自傷気味に笑い、そして、次の瞬間――迷わずに煙に突っ込んだ。
確かに、普段のカイとのバトルならなんでもあり。逃げ回ろうが何しようが、自由だ。
だけど今回に限っては特別だ。なにせあの子が――何処かにいるんだからッ!
あの子は僕達のバトルに、期待していた。誰かが見ている時に、そんな逃げ回るような格好悪い真似、したくない。どうせなら――ッ!
「こんな時くらい、玉砕覚悟で突っ込んでやる、ってねっ!」
――どうせゲームのフリーマッチ。負けて失うものがないのなら。
こんな時くらい、ただ見栄のためだけに突っ込むってのも、悪くないよねっ!
煙の中。薄っすらと見える、巨体の影。
その姿を捉えると、煙に紛れその姿を隠し、その背中に奇襲を掛ける――ッ!!
「はあッ!!」
「……!」
ガキィン、と響き渡る、金の音。
今度は先程とは逆の状況。攻める白兎と、受け止める大鬼。
だが、目の前の大鬼は、僕の姿を見てニヤリと笑う。
「どうしたァ、てめェからわざわざ来るたァ、気でも変わったかァッ!?」
「ははっ、そうかも、ねッ!」
「がッ!」
しかし、力で負けている僕の攻撃じゃ、受け止められた後は簡単に流される。
だからこそ、即座に刃を引き、地面に降り立つと、がら空きの足元に足払いを入れた。
――が、それは当たったものの、転ばすには至らない。体重差、それと、威力の問題。
お返しとばかりに振るわれた叩きつけを、即座にバク転によって回避する。
「てめェのコストは【6】! こんな状況で攻めてくるたァ、らしくねェなァッ!!」
辺りに渦巻く煙が邪魔だと言わんばかりに、金棒の一振りによって吹き飛ばす。
再び日差しが舞い降り、戦闘の痕跡が残るこの場を露わにする。
「それを言っちゃ、そっちも同じ条件でしょ?」
「てめェのコストは全部【黒】ッ! 手品の種は尽きてんだ、よォッ!!」
地を蹴って跳躍からの叩きつけ。
それを飛び込んできた下を前転でくぐり抜け、即座に反転。今度は逆に僕が地を蹴る。
「同じ手は何度も通じねェッ!!」
響き渡る金属音。
相手もこちらの行動を読んでいたのか、息が合ったかのように交差する。
どちらも譲らない攻防。もちろん単純な力の差では、大鬼の方に分がある。
だが、このスピードに無理矢理対処する状況は、相手にとって相当負担なはずだ。
一発一発は軽い。だが積み重なれば、大きな痛手となる。
だからこそ、攻撃の手を緩めない。
コストの均衡が取れている、ペースを握っているいまこそが、攻め時。
これがコストの差があれば、話は別だった。だが、コストの数値が同じだからこそ、互いにリロードのタイミングを合わせるために、カードを迂闊に切れない。
だが、互いにライフが減りつつあるのは、感じている。
この手札では決定打に成り得ない。だからこそ、次に場が動き始めるのは――。
「「――“リロード”ッ!」」
――次のカードが補充されるタイミングだ。
コストが切れたと同時に、響き渡る宣言。
だが、互いに攻防の手は緩まない。このタイミングだからこそ、戦いは一層苛烈になる。
――もっと。もっとだ。
頼れるのは己の四肢と、得物だけ。
だというのに、目にも留まらぬ怒涛の猛攻が、徐々に大鬼を追い詰める。
――もっと速く。もっと強くッ!!
ガキンガキンと響き渡る金属音。
こんな速度じゃ貫けない。この硬い守りを。だから――!
「はあああああああああッ!!」
金属音は、響かない。そこにあるのは、確かな手応え。
その速度が、大鬼の巨体を貫いた。
「やっ――ったあっっとっとッ!?」
だが、喜びに浸かるのもつかの間、気を抜いた拍子に瓦礫の破片に脚を躓かせる。
――しま……ッ!?
この最悪なタイミングで、補充される手札。
盛大に転びながら、新たに四枚のカードが補充され――。
「吹き飛びやがれェッ!!」
「――っぅッ!?」
――同時に、この場の時が、動き始める。
轟音。
大鬼の振るった金棒が大地を穿ち――だが、そこに白兎の姿はない。
しかし、大鬼も驚きはしない。何故なら――。
「……三度もやられりゃ学習するよなァ、ウサギ野郎ッ!!」
空を見上げ、遥か上空に浮かぶ白い影を捉える。
――間一髪で発動させた、“【3】エスケープ”。その指定先は――遥か上空。
例えば“地上でなければならない”といった、こういうテレポート系のスキルにはある制限が、このカードには一切ない。だからこそ出来た芸当。
この身に風を感じながら、遥か真下にいる大鬼を見つめる。
――さすがに気付かれちゃった、かなぁ。
……さて、どうしたものか。この手札で、この状況。
決着を着けるのはもちろん、着地の方法も考えなきゃいけない。自分から飛んで落下死とか笑い話にもならな――。
「――ッ!?」
同時に下から飛んできた炎の弾丸に、驚愕する。
――“【2】サラマンダー・ブラスト”? にしては、大き過ぎ――ッ!?
「ああもうッ!! 滞空時間が……いや、その前に耐えられればいいけどッ!!」
まるで覚悟を決めたかのように、何も握っていない左手をかざす。
「――“【2】ペネトレイト”ッ!!」
威力が足りないことはわかっている。
それでも多少なりと効果があることを祈って、風の刃を手のひらから飛ばした。
“ペネトレイト”の効果は、単純に刺突攻撃。
それの他に、重要なポイントがある。それは――。
――“貫通”すること。
大きな炎の弾丸、いや、砲弾を前に、穴を開けられるかどうか。
祈り、信じて、放たれた刃。それは間もなく着弾し――炎の砲弾に小さな穴を開ける。
「通れえええええええええぇぇぇぇッ!!」
身体を縮め、その小さな穴に身を潜り込ませる。
業火が身を焼き、白い毛を焦がし、ライフを奪う。だが、それさえも一瞬の出来事。
次の瞬間には通り過ぎ、その目を見開いた。
――よかった、生きてるッ!!
そした下には、大鬼の姿。あれが渾身の一撃だったのだろう。
地面はもうすぐ。コストが減るのが間に合わなければ、その時点でジ・エンドだ。
――頼む頼む頼むッ、間に合ってくれええぇぇぇッ!!
祈りと同時に両手をかかげ、大鬼に向けて最後の一撃を放つ。
「――“【4】シルフッ!! テンッ、ペスト”ォッ!!」
「っぅううううッ!? あああああああああああああああッ!!」
吹き荒れる暴風が、上空から大鬼の下に降り注がれる。
渾身の一撃をすり抜け、飛来した白兎による、会心の一撃。
強力な暴風がその身を切り刻み、積もり積もったダメージが、その巨体を――吹き飛ばした。
そしてその暴風は発生源を――落下する白兎の身を支え、受け止める風のクッションへと。
受け止めるにはあまりにも軽すぎる身体を吹き飛ばし、落下の勢いを同時に殺した。
そして、結末は――。
「あいったたたた……うぅぅ、十分勢いは殺した、と思ったんだけど……」
ある程度の高さから、コンクリートの地面に尻餅をつけば、そりゃ当然か、と一人笑う。
そんな僕の前に浮かび上がる、『YOU WIN』の文字。あまりにも実感がなくて唖然とする。
「……勝ったんだ」
そういえば、と辺りを見渡すと、光の粒子となって消える大鬼の姿があった。
その姿を見て、ようやく胸に訴えかけるものがある。勝った、勝ったんだ、と。
ゆっくりと立ち上がり、その事実に呆然とする。そして――。
「………………ったあああぁッ!!」
――感情のままに叫んだ。
本当に勝てたんだ、あの、大鬼に。
物凄い接戦だった。正直負けるかとも何度も思った。
もう一度やれって言われたって無理だからね!?
思いっきり叫んだ後は、疲れたかのようにその場にへたり込んだ。
「……そういえば、響さんはちゃんと試合を見れてた、かな?」
流石にこれだけドンパチやってれば、気付いてないってことはないと思うけど。
そう思い、改めてショッピングモールに目を向ける。
――破れたガラスの一階から、視線を二階……そして三階へと……って、あれっ?
三階にいた、何者かの人影に目が止まる。
ここからじゃ見えにくいけど、あの特徴的なシルエットは……。
と、思っていると、向こうもこちらの視線に気付いたのか、その姿を消した。
――ログアウトした、のだろうか。
「……さて、それじゃあ僕もそろそろ帰ろっか。――“Reverse”!」
いつまでもここにいても仕方ないしね。
壮絶な戦いの後だけに、なんだか名残惜しい気持ちを胸に――この世界を後にした――。