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目の前で本気の土下座をして、謝っている大の大人。そりゃあドン引きしながら見つめますよね。というか目をそらしたくなりますよね。見ないでおいてあげるのが優しさですよね。
リサはそっと目をそらしました。そしていたたまれなくなって、目の前の椅子に座るように促します。最早、男が何を言っているのかなんて聞いてはいません。
そして男の方もリサに促された声なんて全く聞こえていません。ただひたすら謝ってばかりです。何なんでしょう、この部屋は。
リサの献身的?な説得により、少し冷静を取り戻した男は、なんとか土下座をやめ、リサと対等な席につきました。ただ、恐縮しきっているのは見てて顕著です。
気まずい雰囲気が流れています。沈黙に耐えきれなかったリサはそっと口を開きます。
「あ、あの~。その、あなたのお名前聞いてもよろしいでしょうか」
一番聞きたかった疑問なのです。リサは目の前の男のことも何も知らないのです。ドン引きするような姿を何度も見せられましたが、そもそも『あんた誰?』状態なのです。そして、リサは思ったのです。多分今ここでないと彼の名前を聞くことはできないと。
「わたくしとしたことがまだ名前すら言ってなかったとは、大変失礼いたしました。わたくし、『ケビン・リー・アトラス』と申します。この国の宰相をしております」