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七話

「ウィーテっ!!」


ウィステリアの瞼が七年ぶりに開き、名前を呼ばれた方へゆっくりと視線が動く。そしてアリエと目があった。アリエはウィステリアと同じ色の瞳を潤ませ、駆け寄ってくる。アリエたちの両親も涙ぐみながら、そのあとに続いた。


「ア、リエ。おかあ、さん。おとうさ、ん」


意識は七年間あったとしても、体を動かしたり、声を出すのは七年ぶりだ。声はちゃんと出ているものの、ときどき掠れたり、声帯が声の出し方を忘れてしまったかのように途切れてしまっていた。トウィンカの治癒能力で目覚めたとしても、こればかりはどうしようもなかった。しかし練習すれば、すぐに元に戻るだろう。

ウィステリアの腕が震えながらもゆっくりではあるが、アリエの方へ差し出される。アリエは両手でその手を握りしめた。


「おはよう」


「起きるのが遅いのよ、ウィーテは。今日はもう夜よ?」


アリエはあえて七年という言葉は使わず、怒ったような口調でウィーテに返事をする。ウィステリアは苦笑しながら、アリエに謝っていた。そして両親とも無事に話せたことに喜び、次いでトウィンカに目を向ける。


「あなたは……」


「私はトウィンカ。アリエの友達よ。ウィンって呼んでね」


「アリエの友達……。こちらこそ、よろしく。私のことは、ウィーテって呼んで」


ウィステリアの声はアリエと似た響きを持っていた。見た目も声も瓜二つである。けれどウィステリアの方はアリエとは違い、おっとりとした雰囲気を持っていた。話し方も幾分、ゆっくりである。


「ウィンはね、ウィーテを助けてくれたのよ」


「ウィンが?」


「ええ。ウィンは、ハーフドラゴンで、治癒っていう珍しい能力を使ってウィーテを目覚めさせてくれたのよ」


「ハーフ、ドラゴン」


聞き慣れない言葉だからなのか、それとも頭の中で言葉を反芻しているせいなのか、その言葉をゆっくりと呟く。数秒して、大きな瞳をはっとした表情でさらに大きく見開けた。


「サフィア、サフィアが私を、助けてくれたの。サフィアは?」


ウィステリアはおっとりとした口調で、しかし少し焦りを含んだ声でサフィアの名前を何度も呼ぶ。その姿はまるで母を探す子のようだった。ウィステリアの実の両親やアリエはその姿に、驚きながらも納得の表情を見せる。七年間、唯一言葉を交わせたのはサフィアだけだったのだ。ウィステリアはドラゴンの子が、母にお腹の中で魔力をもらうようにサフィアからずっともらってきた。ウィステリアは魔力をくれたサフィアを第二の母と感じているのかもしれない。

トウィンカにはサフィアを探すウィステリアの姿が、どこか微笑ましくみえた。


「ウィーテ、サフィアはすぐそばにいるよ」


トウィンカはウィステリアと視線を合わせ、次いでサフィアに視線を持っていく。ウィステリアはその視線を追いかけるように瞳を動かし、サフィアの姿を自身の瞳に映した。

どうやらウィステリアは自分が誰かに抱かれていることすら気づいていなかったらしい。そしてその誰かが、サフィアであることも。

サフィアは瞳から一粒の涙を流し、震える声でウィステリアの名を呼んだ。サフィアの流した涙はウィステリアの頬へ落ち、ウィステリアの流す涙と一緒になって、流れ落ちる。


「サフィアっ、やっと会えた」


互いに涙を流し、サフィアがウィステリアを大切な宝物のように抱く姿はまるで、本当の親子のようだった。

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