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六話

アリエの案内の元、ウィステリアの部屋へ向かった。向かったのはトウィンカとサフィア、アリエのみだ。部屋は全員が入れるほど大きくはないというのも要因ではあるが、トウィンカの治癒能力を使う条件も一つの要因でもある。

アリエは軽くノックをして、ウィステリアに声をかけながら部屋の中に入った。続いて、トウィンカとサフィアも中に入る。部屋の窓付近に置かれた質素ながらも良い素材を使っているベッドに横になっていたのは、アリエと瓜二つの顔をしたウィステリアだった。似てないところを探す方がこれでは難しいだろう。


「ウィーテ、ただいま」


アリエがウィステリアの頬にキスをし、再び話しかける。


「やっとお話しができるようになるわよ」


アリエの言葉には色んな意味が含まれているのを、トウィンカは感じ取った。


「よろしいですか?」


再会の挨拶を済ませたあと、サフィアがアリエに声をかける。


「ええ、よろしくお願いします」


アリエの了承を得て頷くと、サフィアが壊れ物を扱うようにウィステリアを両手で抱きかかえた。なんの重たさも感じさせない所作でお姫様抱っこをするサフィアが、絵本で見た王子様のようにみえた。竜騎士に所属していながらも、鋭利さは感じさせない柔らかい雰囲気のサフィアが、儚げなウィステリアを抱きかかえる姿は見ていて憧れてしまう。思わず自分の二の腕をみてしまった。ドラゴンは擬人化時でもドラゴンのときと同じように強い力を持っている。それはサランやレイン、目の前にいるサフィアを見ていればわかることだが、トウィンカはなぜか人間並みの力しかない。つまりチョウィンカが擬人化時に使えるのドラゴンの能力は聴力と視力だけだ。しかも集中しているときのみに限る。自分の出来なさ加減に項垂れていると、それに気づいたサフィアに苦笑されてしまった。


「トウィンカ様はそれでよろしいのですよ。我々がお守りすべきドラゴンなのですから」


「それ、サランたちにも言われた」


「でしょうね」


「納得できないなあ、もう」


周りにいるドラゴンは声を揃えて、守られていればいいと言う。でもトウィンカはそれだけでは駄目だと思っていた。いくら治癒能力という特殊能力があって、守られるべき存在であっても、最低限身を守る強さは必要だと思うのだ。

けれどトウィンカはハーフドラゴンだ。ハーフドラゴンはトウィンカが初めてということもあり、治癒能力以外の力がどれだけあるかは現段階では不明だ。だからこれからずっと訓練を続けても擬人化時では使えない場合もある。ため息をつかざる得ない状況だった。


「でも今うだうだいってもしょうがないし、行こう」


「ええ」


「はい」


トウィンカたちはウィステリアの部屋をあとにすると、サランたちが待っている家近くの広場へと移動した。

あたりはすっかり日が沈み、王都よりは少ないが転々と設置されている街頭のみが頼りの光である。ここが王都なら店などがあり賑わっている時間帯だが、ここは村だ。食事をとるのは各自家庭でと決まっているから、誰も外に出てくる気配がなかった。あまり一目につきたくなかったトウィンカたちにとっては好都合でもある。

村で一番大きな広場につくと、ウィステリアを抱いていたサフィアが中心へと移動した。アリエは両親たちがいる広場の隅っこへと移動する。トウィンカはサフィアから数メートル離れた位置で心を落ち着かせるように深呼吸した。


「落ち着いてください。ウィンなら大丈夫なはずです」


「今までの練習の成果、俺達に見せてくれよ?」


「うん、任せて」


サランとレインの応援に頷き、魔力を全身へ偏りなく流していく。頭の中でなりたいドラゴンの姿を想像して、その姿形へと人間の体を作り変えていった。つるつるな肌を柔らかな羽が生えた体へ、背中にはなかったはずの翼を、そして擬人化時よりも何倍も大きな体へ。

変化が終わると目を開けて確認した。目の高さの位置は先程よりも遥かに高くなっている。サランとレインの方へ振り向けば、二人とも微笑みを向けてくれた。無事、ドラゴンの姿になれたのだろう。

ウィステリアとの間が数センチの距離まで歩き、治癒能力を発動させる。治癒能力に関しては父、ラゼルのおかげなのかほかのドラゴンの能力と違ってドラゴンの体であれば自由自在に発動させることができた。ただし魔力操作は下手なままではあるが。

手の平へ魔力を集め、治癒能力へと変化させる。白くぼんやりとした光が両手の平を包み込むと、それをウィステリアの頭から足のつま先までゆっくりと当てていった。ウィステリアの体は白くぼんやりとした光を吸収していき、つま先まで当て終えるころには、両掌から光が消えていた。

魔力操作がまだ下手なせいで大量に魔力を使ってしまい、多少の眩暈を覚える。それにいち早く気がついたサランはトウィンカの元までかけよってきた。


「誘導しましょうか?」


「大丈夫、自分で戻れるよ」


心配かけた自分も悪いとは思うが、サランが相変わらず過保護だなあと苦笑をもらしてしまった。サランがそれを見てため息をはいていたのを一瞥しながら、人の姿へと戻る。人の姿で十六年間過ごしてきたこともあって、ドラゴンの姿になるときよりも、楽に戻ることができた。


「それよりも、ほら」


視線をサフィアの腕の中にいるウィステリアに向けた。七年目を覚ますことができなかったウィステリアのまぶたがぴくぴくと動きだし、ゆっくりと開かれていく。

そこにあったのはアリエと同じ綺麗な藍色の瞳だった。

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