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二話

狂ったような笑い声。頭がどうかしてしまったような考え。

間違っていることを知っていた。無駄に命を散らすことはいけないことだと分かっていた。

けれど。

それを止めたくはなかった。止めようとも思わなかった。


「滅べばいい。この世に害しか与えない人間など、滅べばいい」


この世で一番必要な種族は人間ではない。自然と共に生き、穏やかに時を生きるドラゴンだけだ。

ドラゴンが棲む、人間が到底立ち入ることのできないような場所。さらにその奥にある石でできた洞窟の中で、喉をくつくつと震わせた。


「ああ、まず滅ぼすには汚らわしい人間の姿にならなくては」


大きな体躯を小さな姿へ。太陽の光に当てれば、まるで水鏡のように反射する美しい鱗を、鱗のない貧弱な肌へ。強者であるドラゴンの姿から弱者である人間へ姿を変えて。

数日前に服は近くの町からもらってきた。寒さや暑さから守るためなどと人間はいうが、鱗に比べたら紙きれ同然である。ドラゴンの鱗は暑さや寒さにも強く、防御にだって向いているからだ。

どういう原理が働いているのか、人間の姿で服を着れば、ドラゴンに戻って服が破れるという事態は発生しない。服は自動的に鱗の一部となり、人間の姿に戻れば再び服へ戻る。

人間の姿になり、あらかじめ服と一緒にかけていた眼鏡が顔にかかる感触。それを確かめるように人差し指でくいと上げる。


「さて、どこの人間から殺してやろうか」


どこの国が現在地から近いか分からないが、まず近場の国からじわじわと殺して行くのもいいだろう。そこまで考えたところで、ふと頭に数日前に長老から聞かされた言葉が脳裏に浮かんだ。


――ラゼル様の子が覚醒したそうだ。人間とのハーフドラゴンではあるが、治癒の力を持っておられるそうだ


「忌々しい人間共が」


知らずのうちに舌打ちをする。ラゼルといえば、ドラゴンの王。ドラゴンを統べる一番強いドラゴンだったはずだ。それなのに、人間に懐柔されしまいには人間との子を作って死んだという。憧れだったはずのラゼルに失望させられた瞬間だった。

思いだしただけでも、いらいらとさせられる。歯をぎり、と噛みしめ、握りこぶしを固くしたところで、良い考えが思いつく。


「そうだ、ハーフドラゴンの実力だめしにちょうどいい。一石二鳥でもあるしな」


両方の口角を上げ、高笑いをしそうになる衝動を必死に堪えて、洞窟の入口から見える光を睨んだ。

ハーフドラゴンがいる国は長老が教えてくれた。


「ナウラル国、ロビリィ」


竜騎士として滞在しているドラゴンもいるが、巧妙に己がやった証拠を隠せばどうにかなるだろう。

一つの国の首都が地獄絵図のようになるのを想像して、目を細めてほくそ笑んだ。

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