第102話『涙の理由』
雨が止んだ森に、 小鳥の鳴き声が戻ってきていた。
1.目覚め
カイルは、薄暗い天幕の中で目を覚ました。
体中に包帯が巻かれ、
右腕は黒く焦げたように痕が残っている。
カイル:「....こ...こは.....」
声を出した瞬間、胸の奥が軋む。
そこは大きな病院だった。
その痛みは、身体のそれではなく――心の方だった。
エルシアが駆け寄る。
エルシア:「良かった....気づいたのね!」
エリック:「ここは......コマディク国の大病院だよ.....」
カイル:「....あれから、どれくらい....」
イル:「二日......ずっと眠ってた。」
カイルは目を閉じる。
頭の奥に、あの光景が焼き付いて離れない。
“六枚の黒雷翼”――
泣きそうな顔で、自分を見下ろしていた師匠、エリナの姿。
カイル:《.......あれは、俺が守るって言った人の姿じゃなかった。》
ナイルが黙って、カイルの横の椅子に座った。
ナイル:「......俺たちがいなくなった後、雷は止んだ。でも、あの空の光だけは、今も消えちゃいない。」
カイル:「......ルシファーが、完全に支配したのか。」
ラミエル:「“傲慢DNA”が、彼女の精神を侵食してる。本来の雷DNAと共鳴して、制御不能 に近い状態......」
カイル:「.....俺のせいだ。」
イル:「え?」
カイル:「師匠を....“助ける”って言って、何もできなかった。俺は....ただの“憐れみ”で動いてたんだ。本当は、あの人の痛みを何一つ、理解してなかった。」
沈黙。
電球がパチパチとなる。
2.馬鹿なやつ
エリックが腕を組んで言う。
エリック:「.....なぁカイル。お前、バカだろ。」
カイル:「.....は?」
エリック:「そうやって自分のせいにするの、簡単なんだよ。でも、そんなことしても、誰も救えねぇ。お前が信じて、戦って、傷ついた。それが“無駄”だったなんて、誰が決めた?」
イル:「そうだよ。あんたの拳は届かなかったかもしれないけど、あの空を変えたのは、カイルの叫びだよ。」
エルシア:「私たちが見た“雷翼”は、怒りの力じゃなかった。 ――涙の力よ。」
カイルは、静かに拳を握る。
震える手が、炎の光に照らされていた。
カイル:「.....もう泣いてる暇はねぇな。」
ナイル:「お、やっと戻ってきたか?」
カイル:「ああ。今度こそ、“奪われたもの”を取り返す。」
立ち上がったカイルの背に、 一瞬、金と蒼の光が交錯した。
まるで“時間”が少しだけ逆流したように――
焚き火の炎が、わずかに巻き戻る。
ラミエル:「.......今の、なに?」
カイル:「わからない。けど――感じた。“クロノ”が......目覚めようとしてる。」
イル:「時間DNA.....」
カイルは、拳を見つめる。
カイル:「師匠......次は、俺が“時”を取り戻す番だ。」
外では、夜明けの光が差し込み始めていた。
風が森を渡り、雨上がりの空に虹がかかる。
カイルは空を見上げ、小さく笑った。
カイル:《.......エリナ。今度は、俺が待ってるから。》
――その瞬間、
遠くの空で、“黒い雷”が再び、鳴り響いた。
次回――
カイルたちはギルドへ戻る。
そこで一人の女性と出会う。
彼女の口から語られるのは――。




