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ドンッと腰に手を当て、華麗に登場したつもりでいたシャルルだったが、目に飛び込んできた現場を見てすぐさま息を飲んだ。
「レオナード様!!」
それと同時に、いまわの際に立たされているレオナードと目が合う。
私とラリウスの姿を見て一瞬だけ安堵の表情を浮かべたが、一刻の猶予もない。
「まずいですね。あの魔獣は毒を保有しているようです。あのままでは数分持つかどうか…」
解説してくれるのは有難いが、呑気に話している状況でもない。こうしている間にも、レオナードの命が削られている。
「ごちゃごちゃ言っている暇はありません!あのデカブツを倒して、レオナード様を助ける!それだけで十分!」
ふんっと鼻を鳴らしながら強気に言い切ると、ラリウスは「ふっ」と笑みをこぼした。
「随分と血の気の多い聖女様だ」
「聖女が大人しいとは限りませんわよ」
「はははっ、違いない」
「さて」と剣を抜くと、その雰囲気は一変した。
「私がヤツの気を引きます。その間にレオナードを頼みます」
「分かりました」
ラリウスは素早く魔獣の後ろへ回り込むと、自分へと注意を引く。その間に、こちらも素早くレオナードの傍へ。
「これは……」
すぐに治療しようと手を翳したが、その酷さに言葉を失った。幾多の傷を治してきたが、ここまで酷い傷は見たことが無い。
私に助けられるのか……もし、駄目だったら……
(怖い)
頭が真っ白になり手が震える。
「シャルル!お願い!父様を助けて!」
リオネルの声にハッとした。
弱音を吐いている場合じゃない。助けられるのは私しかいない。私がしっかりしなきゃ……!
(絶対に死なせない!)
自分に言い聞かせ集中するようにギュッと目を瞑り、手を翳した。すぐに淡い光がレオナードの体を包み込んだ。
リオネルは祈るようにその光景を見守っている。
暫く光を浴びていると傷の方はなんとか塞ぐことができたが、内部に入り込んだ毒は簡単には排除できず、シャルルは険しい顔をしながら治療を続けている。汗が額から頬に流れて落ちてくるが、気にしている余裕もない。
そろそろラリウスも限界が近い。
──というか、一人でよくここまで持ち堪えられていることの方に驚いた。普段の彼からはその強さが全く想像が出来なかったからだ。
(これが俗にいうギャップ萌えと言うもの……)
まあ、私には少しも刺さりはしませんが、ほんの少しだけ見直したのは事実。
(……口にするのは癪なので言いませんけど)
そんな事を考えていると、シャルルの手をレオナードが掴んだ。
「もう……大丈夫だ。助かった」
そうは言っても表情は辛そうで、息もまだ整っていない。重たそうに体を起こし、ラリウスに視線を向ける。
「あいつ一人では無理だ」
「貴方もまだ動ける体じゃありません!」
「俺の心配はいらん」
レオナードは引き留めるシャルルの手を振り払い剣を握ろうとする。
「心配だから言ってるんです!周りを見てください!貴方の心配をしている者がいるでしょう!?」
この場で心配をしているのは私だけじゃない。リオネルは勿論、レオナードを慕っている騎士達もそうだ。当然ラリウスだってそう。
「ではどうしろと言うんだ!!」
苛立ちが爆発したように声を荒げた。
周りもレオナードを止めたいが、彼が出るしか方法がないと思って言葉をかけられない。
──そんな重苦しい空気の中、シャルルが口を開いた。
「私が行きます」
「は?」
驚愕なんて言葉では表せないほど、間の抜けた声がレオナードの口から吐かれた。
「貴女は馬鹿なのか!?」
「レオナード様でも馬鹿呼ばわりは許せませんわよ?」
目を吊り上げて怒りを露わにしているレオナードを目の当たりにしても、シャルルは呑気にスカートに付いた払いながら背伸びをして準備整えている。
「冗談を言っている場合じゃないだろ!」
「私は常に本気です。それに、別に私が行ってはならない理由はありませんでしょう?」
「相手は普通の獣じゃない!魔獣だぞ!」
「分かってますよ。……お小言は後で聞きますので」
それだけ伝えるとラリウスの元へ急いだ。
「シャルル!」
初めて名を呼ばれた。一瞬足を止めそうになったがグッと堪えた。名前を呼べば足を止めるとでも思ったのだろう。
(ズルい人)
クスッと微笑みながら、咆哮を響かせている魔獣を前にした。




