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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

発物注意

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 へえ、今年の1月ってけっこう彗星が見られたときが多いんだねえ。

 彗星は昔、雪玉のようだとたとえられてきたけれど、最近だと、岩石の比率が高めなことが分かってきたらしい。雪玉は雪玉でも元となる石があって、そこへ雪がたっぷりくっつけられていった、攻撃力高めなやつだ。

 はじめは凍り付いているけれど、太陽へ近づくにつれ核が活動を開始。そこから発せられるガスが太陽側からのプラズマなどに押されて、長い尾として観測されるようになる……とは多くの人が聞いていることと思う。


 中身が動き出すことによって、普段の様子から大きく姿が変わる。これは生き物に関しても同じことがいえるだろう。

 活動と冬眠、といった極端なものばかりじゃない。我々が汗を流すこともまた、内で発生した熱に対し、身体が起こす反応のひとつ。

 脳からの命令を受けて、血液より汗腺へミネラル分と水分が取り込まれて表出する。このときミネラル分は血液中に再吸収され、水分がメインとなって外へ出るもの。だが汗腺が衰えているとミネラルも戻ることなく、一緒に外へ出てしまい身体がミネラル不足に陥る。

 自律神経に負担をかける一因にもなり、夏バテにつながるのではないかという見方もあるな。その状態もまた、普段と異なる異状に違いない。

 私たちもいつ、このようなバッドステータスを食らうか分からないもの。そのレアケースとしての話のひとつ、聞いてみないかい?


 その日の朝、いつもの集合場所へ行くと友達はすでに来ていた。

 自由登校をするときは、いつも彼と待ち合わせをしてからいくのだが、先に待っていた彼の様子が……いや、腕がおかしい。

 やけに、てかりを放っている。近づいて声をかけると、今日は「防ぎ」の日だというんだ。


「風邪気味で、せきやくしゃみが出るときはマスクをつけるのがマナーだろう? この腕も同じように、ちょっとカバーをかぶせているんだ。余計なものが出入りしないようにさ」


 彼が腕に着けていたのは、ラップとセロテープの中間のようなもので、遠目には光を反射するくらいでしか、違和感を覚えないだろう。

 また妙なファッションでも取り入れたのかなと、私は余計な詮索はせずに、いつも通りに二人して登校していく。

 出発した当初はさほどでもなかったが、道のり半ばあたりから少し風が出てきたなあ。

 進む方向に対して、右から左へ吹き寄せる強いもの。つい、顔を腕でガードしたくなるくらいだったが、友達はむしろラジオ体操で身体をひねるかのような格好で、腕を極力隠す動きをみせる。

 このような風が、特にまずいらしい。例の警戒しているものを運んでくる恐れがあるから、と。学校へ着くまでに4回ほど同じように風が吹き寄せ、そのたび友達はガードの姿勢を取り続ける。

 はためにはおかしなポーズだったけど、昇降口をくぐるときにはもう、その両腕はやたらと白く濁っていたんだ。もちろん、あのテープ越しになのだけど、私は同じような風を受け続けても、さほど汚れてはいない。

 風があの汚れとなるものを、ダイレクトに運んできたとは考えづらいだろう。となると、やはり友達のいう「内から出るもの」も関係してくるのだろうか……。


 教室へ行っても、授業が始まっても、友達はずっと腕にカバーをしたままだった。

 どうせなら、もっとしっかりした袖なり腕のカバーなりをしたほうがいいんじゃないか、とも提案してみたが、友達は「これじゃないとダメだ」という。

 できる限り透けているものかつ、このテープの材質じゃないと合格ラインに達しないのだとか。

 その合格ラインとは、何なのか。それは太陽が高く昇った頃合いになって、ようやく判明する。


 冬場かつ、今日はいっとう寒くなるとの予報だった。

 それがいま、正午を迎えて陽がたっぷりと地上へ差すばかりか、じりじりと照り付けるような暑さを浴びせてくるんだ。

 暖房どころか、寒さを想定した厚着も、この場においては無用の長物。まさかこの時季、下敷きをうちわ代わりにあおぐ姿を見るとは思わなかったが。

 その中にあって、彼はただ一人。神妙な面持ちで席へ座っていた。

 しきりに自分の両腕を見やっている。ときおり指でテープ越しに腕のあちらこちらを押してみるなど、落ち着かない様子だった。

 そして最後の授業コマの終わり際に。彼の両腕のテープが限界を迎える。


 あらわになった腕のそこかしこからは、ミルクを思わせる白い液体が漏れ出した。

 飛び散りはしない。はがれたテープに名残惜しくひっついて、納豆か何かのように長々しく糸を引いた。それが無数になのだから、はた目に異様な感じではあったが、みんなも落ち着いてそれを見やることはできない。

 それぞれの服の下から、にわかにシミが出てきたかと思うと、生地のすき間から同じように白いものがにじみ出てくるのだから。

 私も他のみんなに比べると量は少なかったが、シャツの両肩からちょびっと這い出して来る気配があって、息を呑んだよ。

 みんなが騒ぎ始めたけれど、白いもののせり出しはほどなく止み、まるで溶けるように生地の表面で乾いていったんだ。

 ちょうどそのとき、あのテープをしていた友達が腕へ張り直していたんだよね。白いものもろとも肌へ被せる形で。自然とあの白いものたちも腕とテープによって、挟まれるかっこうになった。


「あのような陽気だと、あいつらが動き出す恐れがある。放っておくと良からぬことにつながるかもだしね。ああしてガードしているのさ」


 帰り際にそう話してくれた友達だけど、それを察し、あまつさえほぼコントロールできるお前は何者なんだ?

 そう尋ね返す私に、彼は適当にはぐらかしてきてさ。白いやつの正体はよく分からないけれど、私たちの身体は、いつの間にかあのような物を飼うこともあるんだろうかと考えるようになっちゃったよ。

 これもまた放っておくと、本格的なバッドステータスになるんだろうか。


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