三日月は美味しそう
パカッ、ジュワー。
ワンルーム6畳半の部屋の中に水蒸気が溢れる。
独身、彼女なし、安月給の俺が唯一できる料理であり、給料日前のご飯のお供。目玉焼き。
最近は物価が上がって卵も高くなった。ただでさえ寒い財布が大寒波だ。
山盛りに盛った白飯の上に目玉焼きを乗せる。
一丁前に醤油を垂らしたら今日の餌の完成だ。
ビール片手に…ぐいっといきたいところだが、生憎ビールすら買う余裕がない。
仕方なしにベランダにでて、少し前に植えた再生栽培のネギの様子を見ながら飯を食うことにした。
ごま油で炒めたネギをかけたら美味いだろうなと想像しながらただの目玉焼きを食う。上を見上げると新月なのか月すら出ていない。
「暗れぇなー」
誰にも拾われない独り言は暗闇に吸い込まれていった。
「お疲れ様、あがっていいよ。あと売れ残りの変な卵があるから持っていきな」
「お疲れ様です。ありがとうございます。変な卵ですか?」
「三日月たまごっつって黄身の部分が少ないアウトレット品だよ。まぁ混ぜちまえば普通の卵と変わらないだろ。ほれ」
「…菓子作りに便利そうな卵ですね」
子供の頃、母が作ってくれたメレンゲクッキーを思い浮かべたが生憎作り方がわからないのでこいつも目玉焼きだ。
「明日のポップはそれにするか…」
店長はぶつぶつ言いながらどこかへ行ってしまった。
トントントン。パカッ。
熱したフライパンに油を引いて、三日月たまごを割入れる。
「本当に三日月だ」
普通の卵の黄身よりもかなり細い線をした黄身がお見えした。
クツクツと白身が固まっていくのを眺めて、一気に水を入れる。
ジュワー。
ここで慌てず蓋を閉めて1分蒸らす。
大盛りの白飯を用意し…6畳半に水蒸気が立ち込めたところで、ゆっくりと三日月の目玉焼きを飯の上に乗せる。
最後に醤油を少し垂らしたら完成だ。
「昨日と同じメニューなのに美味そうに見えるのは形のせいか?」
6畳半にテーブルなどないので立ったまま狭いキッチンで三日月の目玉焼きに食らいついた。
「なにこれ!うっま!」
白身は淡白だが分厚くもちもち。
三日月部分はとろーり半熟濃厚でそれでいてくどくない。
普通の卵の三分の一もないのに黄身はしっかりと主張している。
気がつけば山盛りの白飯はあっという間になくなっていた。
「はぁー!腹一杯!ご馳走様でした!」




