また会えるよね
「あなたは神様でしょう」
屈託のない笑顔でそう言い放った。
言われた方は驚いたような、困ったように目を大きく見張った。
「・・・何故そう思った」
「だってあなた、神様以外にしかみえないもの!」
「あ~あ、またクリスマスかぁ・・・」
足をブラブラさせながら、まだあどけなさと幼さが残る少女が行き交う人に声を掛けた。
「いつになったらわかるのかな、ここにこんなに超絶美少女がいることに・・・」
不満をあらわに顔を膨れさせ、口を尖がらせた。
「おい、お前いい加減にしろ」
「わっ!」
よほど驚いたのか、それまで座っていた街路樹が植えられていた場所から転げ落ちろかのように飛び退った。
「あ~びっくりした、なんだ、オジサンじゃん」
「誰がオジサンだ、まだ28だ!!」
苛立ったように怒鳴りつけた。
「オジサンはオジサンだよ、なに鎧に剣を身につけているの?
ひょっとしてコスプレ?」
「・・・・正式な装いだ」
地獄の底から響いてくるような、怒りとも苛立ちとも判別しにくい声で答えた。
「たくっ、狩りに行った後でこんなところでこんなクソガキに出くわすとは・・・・あとで文句を言わないと」
「誰がクソガキよ!!」
腹が立ったのか、顔を真っ赤にして怒鳴り返した。
「これでも14歳の若いピチピチの女の子よ、あんたみたいなオジサンからすれば相手にしないんだから、オジサン!」
「誰がオジサンだ!
そりゃあもうじき三十路にもなるから否定はしないが・・・・」
小声で反論した。
「それで?あんたみたいな訳の分からないオジサンがなんの用なの、オジサン」
勝ち誇ったように笑いながら、上から目線で再度追い詰めた。
「誰がオジサンだ、誰が・・・・斬ってやろうか」
怒りに震える声で、腰に佩いている剣に手をかけた。
「やだ、ちょっと待って、お巡りさ~ん!!」
「安心しろ、死した者であるお前の声など生者には届かない・・・・ってそこをどけ、陽将!!」
「いや、まあねえ・・・」
困ったように完全武装姿の武神が顔をかいた。
「一将様からの御命令をお忘れですか、なにもこんないたいけな娘に『オジサン』と言われたからと言って剣を抜くとは・・・」
「・・・・クソガキの前にお前から斬り倒してやろうか」
「やめて下さいね、いくらなんでも・・・」
困ったように笑った。
「なにやっているんです、ふ・た・り・とも」
「アヤ!邪魔するんじゃあね~!!そこのクソガキともどもそこの馬鹿を斬る!!」
「もう・・・聞き捨てなりませんよ、誰が、誰を斬るですって・・・・」
妖気とも殺意とも言い難い気配を放って、ずいと一歩前に出た。
「どの口がそんな寝ぼけたことを言うんですか!!寝言は寝てから言いなさい!!」
「あいた!耳を引っ張るんじゃあね~!!痛いだろうが!!」
「まったくもう・・・怖かったね、そこのおじさんのことは気にしなくて良いからね」
完全武装姿の武神の陰に隠れた少女に笑いかけた。
「それで、どうしてここにいるのかな?
お姉さんに教えてくれるかな?」
顔は笑っているが、目は笑っていなかった。
何かあれば即座に行動を起こす覚悟と決意をしていた。
「お姉さんって女神様?」
「めっ、めがみさまぁ!!」
「だって、すっごく綺麗だもの、憧れちゃうなぁ・・・」
眼を輝かせて、打算のない目で言い募った。
「アヤ、良かったな、女神様だとよ・・・・間違ってはいないが・・・」
「黙っていなさい!!」
一喝すると少女に向き直った。
「そっ、それで教えてくれるかな?
なんであなたはここいにいるの?」
「家族が迎えに来てくれるのを待っているの」
「病院で私が死んで、もう二十年以上になるわ・・・その前に最後に約束したの、ここでクリスマスになったら一緒にこようねって・・・」
少し寂しそうに、諦めているかのように答えた。
「それからもう二十年、もうずっと待っていたけど、そろそろ飽きちゃって・・・成仏って言うの?
それもしたいけど、わからなくなって・・・・」
「・・・・迷ったか」
「まあそれもそうですね、どうしますか」
腰に帯びている剣に手をかけて、好戦的なまなざしで背後を見た。
「斬らなくて良い、道に迷っているだけだろう?」
「・・・・あなたに任せます」
身に帯びていた殺意を綺麗になくして、そっとその場を去った。
「さて、怖い『おじさん』は去ったことだし、もう一度話を聞かせてもらおうか」
にっこり笑いかけた少女に対して、殺意を帯びた剣が首元に触れた。
「・・・・誰がおじさんですか、誰が」
「おおこわ・・・お前よりも年下の筈なんだけどなぁ・・・」
おどけたように言うと、両手を上げようとして、できなかった。
「陽将様、いくらなんでも駄目ですよ」
両眼に怒りを燃やして睨みつけていた。
「彩殿にそう言われたのではやめておきましょう・・・あとで説教ですよ」
「はいはい、わかっているって・・・で、なんでここにいるんだ?
もう死んでいるって自覚しているのに」
きょとんとした顔をしている少女に笑いかけた。
「なるほどねぇ・・・もう一度、家族に会いたいからか・・・」
腕を組んで、泣きじゃくる少女に問いかけた。
「それで、もう一度会えたら成仏するのか?」
「会えるわけないでしょう!神様でもないのに!!」
怒りに任せて怒鳴りつけた。
「そうでもないけどなぁ・・・気が付かなっただけではないのか」
「あっ・・・」
少女に似た幼い子供をベビーカーに乗せて、幸せそうな笑顔で夫婦が歩いていくところだった。
「あの夫婦はお前の弟と義理の妹にあたる人だろう?
乳母車に乗せられているのはお前の甥か姪にあたるものだろう」
幸せそうに、それでいてどこか寂しそうに男が妻であろう女性と連れ立って歩いていた。
「あの者は毎年欠かさずにずっとここに来ていた、姉との約束を忘れずにここに来ていた、子供の頃の約束をな・・・」
「忘れて、なかったんだ・・・あの子」
「ずっと忘れてなかったぞ、それに気が付かなかったのはお前だろう、クソガキ」
「しつこいわね、私には○○○っていう名前があるわよ!!」
「良い名だ」
泣きながら噛みついた少女に対して、微かに笑って答えた。
「では○○○殿、そろそろ逝ったらどうだ?
その力は貸してやる」
言って笑いかけた。
「あなたは神様でしょう」
屈託のない笑顔でそう言い放った。
言われた方は驚いたような、困ったように目を大きく見張った。
「・・・何故そう思った」
「だってあなた、神様以外にしかみえないもの!」
「たくっ、なにをどうしたらそんな言葉が出て来るのやら・・・・」
何かを呟くと、そっと目で少女を迎えに来ていた者達に指示を出した。
「また会えるよね」
「さあなぁ・・・もう会いたくねぇよ」
「また会えるでしょう、だってあなたは神様みたいな人だもの!!」
屈託のない笑顔でそう言うと、迎えに来た者達に促されて渡って行った。
「何をどうしたらああなるのやら・・・頭が痛いぜ」
その言葉を聞いたのは、少女に女神様と言われた存在だけだった。