廃屋
真冬の怪異第18話「炬燵」と同じ話しです。
一部修正してます。
「ネエ!」
「何だ?」
「道間違えて無い?」
「ウン、僕もそう思います」
「あの二股か?」
「多分ね」
俺はサークルの後輩、友紀と忠宣2人とスキー場に向かっている筈だったのだが、先程の二股で間違った方へ進んでしまったようだ。
「ナビが付いていれば間違わなかったのに」
「そう言うなよ。
バイト先の社長に頼み込んで配送車を只で貸してもらえたんだから」
二股の所では此方の道の方が広かったから此方が本道だと思ったのだが、進めば進むほど悪路になって行く。
「この道行き止まりじゃ無いよね?」
「分からん」
「先輩、あそこに家がありますよ」
忠宣が前方を指差す。
家の前に車を停め中を伺う。
「何かスゲー襤褸屋だけど人住んでいるのか?」
「そこに車が止まっているから廃屋では無いんじゃないの」
友紀が家の脇の空き地を顎で示した。
屋根にスキー板を4組載せた乗用車が空き地に止まっている。
「車が止まっているって事は人がいるって事だから、道を教えてもらいましょ」
「そうだな」
俺は車を乗用車の脇に移動させた。
「ごめんください」
「何方かいらっしゃいませんか?」
玄関の引き戸を開け忠宣と交互に声を掛けるが物音ひとつしない。
「出かけているのかな?」
「でも靴がありますよ」
下を見ると靴が4足並んでいる。
「オイ! 友紀!」
忠宣の声で顔を上げると友紀が家の中に上がり込んで奥に入って行くのが見えた。
「ごめんくださ〜い
何方かいらしゃいませんか〜?」
声を掛けながら奥に進み障子を開けた友紀が、俺達の方へパッと顔を向け嬉しそうに話す。
「この部屋に炬燵があるよ」
そう言い部屋の中に入って行く。
俺達も友紀に続き部屋の中に入る。
「炬燵点いたよ」
「電気が来ているって事は廃屋では無いのか?」
「でもおかしく無いですか?」
「どうした?」
「押入れの中空っぽです」
「温かーい」
押入れの中を覗き込んでいる俺達の耳に友紀の声が響く。
「おかしいですよね。
それに乗用車の人たちがいません」
「2人共炬燵に入りなよ、温かいよ」
「そうだな、日が暮れて来たから詮索は後にして此処で一泊させて貰おう」
「そうですね、それじゃ車に積んである毛布と食べ物を取って来ますか?」
「そうしよう、オイ! 友紀! お前も手伝え」
「ヤダ! 炬燵から出たくない」
「チッ、仕方ねえな、じゃ旅館に電話しといてくれ。
忠宣行くぞ」
「ハイ」
車から毛布と食物を抱えて戻って来ると友紀がいない。
「アレ、何処行った?」
「トイレじゃないですか?」
炬燵の脇に毛布を放り出して炬燵に足を入れた忠宣がそう返して来た。
「そうかもな、俺も小便してくるわ」
廊下の奥にある便所の戸を叩き中に声を掛ける。
「友紀いるか?」
返事が無いので戸を少し開け中を覗く、友紀はいなかった。
障子を開けながら忠宣に声を掛ける。
「友紀、便所にいなかったぞ」
あれ? 返事が返って来ない。
部屋の中に忠宣の姿は無かった。
2人共何処に行ったんだ?
取り敢えず炬燵に足を入れる。
フゥー温かい。
炬燵の上に放り出されていた煎餅の袋に手を伸ばそうとした時、突然、炬燵の中に引きずり込まれた。
そして俺は2人が何処に行ったのか知る。
「助けてくれー! 炬燵に食われるー!」
山奥の廃屋に炬燵が置かれている。
炬燵は次の獲物が来るのを静かに待ち続けていた。