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恋人
真冬の怪異第7話「約束」と同じ話しです。
一部修正してます。
雪が舞う夜、町の郊外にある兵営の前の街路灯の下に若い女性が傘もささず佇んでいた。
彼女は全将兵が前線に出動した真っ暗な兵営の中を覗き込み、溜め息をつくと町の中に戻って行く。
翌日の夜も若い女性は兵営の前の街路灯の下に佇んでいる。
彼女は愛しい恋人と約束したのだ此処で会おうと。
前線が崩壊し多数の将兵が町に逃げ戻って来る。
逃げ戻って来た将兵は憲兵に捕まり町の外の防衛陣地に再配置された。
防衛陣地の方を眺めていた若い女性の目に愛しい恋人の姿が映る。
恋人は彼女を見つけると駆け寄って来て抱きしめキスをした。
「待っていてくれたんだね」
「ウン!」彼女は頷く。
2人は手を握り肩を寄せ合って瓦礫の散乱する町の中に歩みだす。
2人の姿は雪降る夜の闇に溶け込むように消えて行く。
町は兵営の全将兵が出動した日の夜、敵の爆撃によって町の全住民が犠牲になっていたのだった。