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道標
真冬の怪異第1話「標」と同じ話しです。
一部修正してます。
雪降る夜、1台な馬橇が極寒の地を進んでいた。
馬橇に乗っている行商人はこの地に不案内で道に迷い、日が暮れる前に着く筈だった町に向けて夜道を進む。
道が二股になっている所で行商人は途方にくれる。
「町は何方だろう?」
「何処に行くんだい?」
行商人に脇から声が掛けられた。
声のした方に目を向けると男が立っていた。
「町に行きたいのだが、どっちに行けば良いのだね?」
男は右腕を伸ばし片方の道を示しながら答える。
「町はこっちだ」
「助かった、ありがとう。
あんたも町に行くなら乗せて行くよ」
「否、俺が行きたいのはそっちじゃ無い」
「そうか、それじゃ此れを受け取ってくれ」
行商人は荷台に積まれた箱の中から火酒の瓶を取り出し男に渡す。
「ありがとう」
行商人は男に手を振り町に向けて馬橇を走らせた。
降り続いていた雪が止み極寒の地が朝日に染まる。
二股の道の脇に立ったまま凍りついた罪人の死体が道標の代わりに置かれていて、右腕が町の方向を指し示し左手には火酒の瓶が握られていた。




