魔法誕生
『無』から『有』が生まれないのなら、世界はどうやってはじまったのだろう?
そんな事を疑問に思う人間だった。
そんな私に、怪訝そうな顔を浮かべる大人たちもいたが、皆良い隣人であった。
あの時までは…
「やった!出来た」
勢いよく立ち上がった為、机の上の物がガチャガチャと頭に響く音を立てて落ちていく。
やってしまった。と思ったが、すぐに気にすることをやめた。
今はこの実験の成功を、いち早く誰かと共有したい。
はち切れそうな感情のまま、考えなしに小屋を飛び出す。
仕事をしている母親を見つけた少年は、勢いよく声をかける。
「やったよ母さん。ついに成功したんだ!」
「どうしたの?そんなに興奮して?」
「ついに、ついに元素と意志疎通が出来たんだ」
「いや、正確にはこちらの意図が伝わっただけなんだけど…」
「みててね」
少年が手をかざし、小さくつぶやく
「火の元素さん。小さな火を点けて」
すると、なにもないところに火が生まれた。
「すごいでしょ!元素が僕の言葉に反応してるんだ!!」
「元素にも意志があったんだ、意識があるんだ!」
「まぁ、すごいわね」
大興奮の息子とは対照的に、とても落ち着いた母親。
その反応に、少年は少しムッとした表情を浮かべる。
そんな様子に気づいてか、母親は優しく微笑みながら 息子の頭を撫でる。
すると、息子の機嫌はみるみる良くなった。
単純なものである。
機嫌を直した少年は「村の人達にも見せてくる」そう言って駆けていった。
「ちゃんとご飯までには帰ってくるのよ」
「は~い」
少年は村へ向かうと、村人たちにも同じようにやって見せた。
すると村人たちは大層驚き、望んだとおりの反応に 少年は上機嫌になる。
元素には意志がある。この発見は人々にとって大きな可能性を感じさせた。
しかし、事はそううまくはいかなかった…