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9、お昼ご飯

 僕は葉山さんと一緒にユイを学生食堂まで連れて行った。

「ここか!? まあまあ広いな!」

「ユイ、声のボリューム下げて。目立っちゃうよ」

「分かった」


「葉山さんは、何食べる?」

「私はきつねうどん」

「僕はA定食かな。ユイは?」

 僕がユイにたずねると、ユイはチケット売り場の脇のショーケースをじっと見てから答えた。


「私はA定食、B定食、C定食にうどん? とやらを食べようと思う」

 ユイはそう言うと、胸を反らして仁王立ちになって微笑んだ。

「えっ!!」

 葉山さんはユイの大食漢ぶりに驚いている。


「了解。じゃあ、チケット買うね……」

 僕がチケットの自販機にお金を入れようとすると、葉山さんが首を振った。

「今日は私におごらせてください!」


 葉山さんはそう言うとにっこりと笑って、ユイと僕の分のチケットも買ってしまった。

「……ありがとうございます」

 僕が礼を言うと、ユイも続けて礼を言った。

「助かる」


「でも、なんで葉山さんがおごってくれるんですか?」

 僕が聞くと、葉山さんは顔を赤くして俯いた。

「あの、それには理由があって……まず、席をとってから話しませんか?」

「ああ、そうですね」


 僕と葉山さんが話している間に、ユイがキョロキョロと食堂を見渡していた。

「席なら、あそこが空いて居るぞ!」

「じゃあ、あそこにしましょう」

 僕はユイの提案に従った。

「ええ」


 僕たち三人は、四人がけの席を占領した。

「ユイ、券売機の向かい側に料理を出してくれるところがあるから一緒に行こう」

「うむ、了解した」

「私はここで席をとっておきますね」

「ありがとう、葉山さん」


 僕は葉山さんの食券を預かって、ユイと一緒に料理を受け取りに言った。

「おねがいします」

「よろしく頼む!」

 僕たちが食券を出すと、直ぐに料理が運ばれてきた。


「じゃあユイ、こぼさないように二回に分けて運ぼう?」

「いや、大丈夫だぞ?」

 ユイは器用に四つのトレーを両手で持つと、スタスタと歩き出した。


「うわ、スゲー量! 一人で食うのか?」

「あ、転校生だ。目立つよね」

 歩いていると、脇から他の学生達の噂話が聞こえた。


「よし! 席に着いたぞ!」

「ユイさん、器用ですね」

「そうだね、ユイ」

 ユイは四つのトレーを自分の席と空席に置くと、椅子に腰掛けた。


「じゃあ、これは葉山さんのきつねうどん」

「ありがとう、晴人君」

「……!」

 葉山さんの口から、僕の名前が呼ばれるなんて。僕はドキドキした。

「いただきます」


 僕はA定食の生姜焼きを一口食べて、葉山さんに尋ねた。

「ところで、なんでおごってくれたの?」

「ユイさんに、お礼をしたくって」

「私にか? 何かしたか?」

 ユイはよく分からないと言った表情で、B定食をパクパクと食べていた。


「この写真、ユイさんですよね」

「あ! これ、朝の痴漢じゃないですか!」

 僕は葉山さんがスマホで開いたSNSの画面を見て、硬直した。


「私だが、なぜ食事をおごってくれたのだ?」

「この痴漢、私も被害に遭ったことがあるんです」

「ええ!?」

 僕が驚くと、ユイは言った。

「やっぱり殺しておけば良かったか!?」


「殺すなんて物騒なこと……でも、半殺しくらいしても良かったかも」

 葉山さん、結構恨んでいるみたいでちょっと怖いと僕は思った。

「私、痴漢のせいで電車通学から、自家用車通学になっちゃったから」

 そうだ。葉山さんはこの学校で一番のお嬢様だった。


「そうか、それで痴漢を捕まえた報償として食事が与えられたのか」

「……うん」

 葉山さんは嬉しそうに頷いた。


「あの、これからも仲良くしてもらえるかな? ユイさん、晴人君」

「喜んで! こちらこそよろしくね」

「うむ。気を遣わずとも良いぞ!」

 ユイと握手をした葉山さんは、憧れの人を見るみたいに、ユイを見つめていた。


「そろそろ昼休みが終わっちゃう」

「そうだね、葉山さん。ユイも食べ終わった?」

「ああ、美味かった」

 ユイは四つのトレーを見事に空っぽにしていた。


「じゃあ、教室に戻ろう。食器はあっちに返すんだよ」

 僕と葉山さんは、ユイのトレーを一個ずつもって、両手が塞がった。

「悪いな」

 ユイも両手に一つずつトレーを持って、返却口に歩いて行った。


 こうして、なごやかなお昼は終わりを告げていった。


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