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5 テオフィリア

 休暇を終えて前の場所で再び店を開くと、途端に客が殺到するようになった。どうやら口コミで広がっていたらしく、旅人や冒険者だけではなく、周辺の村からこれのためにわざわざ来てくれる客もいた。

 結局この日はホットドッグが100個ほど売れ、ジンジャエールもほぼ同じ数だけ売れた。すでに定価販売しているので1日で銅貨400枚の儲けだった。


「急にいなくなったから焦ったわ。もしかして私のせいなのって」


 営業を終えて片付けているところにテオフィリアがやって来て言った。相変わらずスタイルが良くて綺麗だった。


「いや、店を始めて10日くらい営業したらいったん休むって前から決めてたんだ」


「そう? それならいいけど」


 そう言うと彼女は急にもじもじしだした。何かを言いたそうにしている。


「この間のジュースは上手くいったのかい?」


 沈黙に耐え切れずに俺が話を振ると、彼女の表情が一瞬で明るくなった。


「聞いてくれる? トモくんが言う通りに牛乳を混ぜてからお客さんに凄い好評でね。売り上げがそれまでの3割増しになったのよ」


「それは良かったね」


「それでね。話は変るんだけどさ。あたしの店、あなたの店の隣りで営業していいかしら?」


 遠慮がちに聞いてきた。


「どうしてだい?」


「人気の店の隣につくとね。相乗効果で売り上げが上がるのよ」


「いいも何も。ここは誰の土地でもないんだから、どこで営業しようが自由だ」


「そ、そうよね。じゃあ明日から越してくるからね! よろしくね。トモくん」


 彼女は言うだけ言うと返事を待たずに、勢いよく俺の前から姿を消した。



 翌朝、テオフィリアが自分の魔動車と共にやって来た。俺の車のすぐ後ろ側に車を停める。彼女の魔動車はツタや植物の鉢で飾りつけがしてあって、とてもおしゃれだった。


「じゃあ、今日からよろしくね。トモくん」


 なぜか彼女は、かなり年上のはずの俺をくん付けで呼ぶ。


「どこに行くんだい?」


 壺を持ってどこかに出かけようとする彼女にたずねた。


「泉まで水を汲みによ」


 きょとんとした顔で彼女は答えた。何を当たり前のことを聞くのかという顔だ。


「水ならこの車のを使えばいいよ」


 俺は彼女から壺を受け取ると、シンクの蛇口から水を入れてやった。


「え、これどうなってるの? どっかに水溜めてるの?」


 彼女は水が出る蛇口を見て不思議そうにあたりを見回した。


「実は俺にも良く分かってないんだけど、ドワーフの技術で水が無限に出るようになってるらしいんだ」


 俺がそう言うと彼女は、「ああ、ドワーフかぁ」と、納得したような顔で頷いた。どうやらこの世界の人間は理解不可能な技術のものがあっても、ドワーフだと言われるとすぐに納得するようだ。


「でも助かるわぁ。坂を降りたところにある泉まで何往復もしないといけなかったから」


「いつでも好きな時に使ってくれていいよ」


「ほんとうに? ありがとう!」


 彼女は本当に嬉しそうに礼を言うと、自分の車に戻って季節の花が咲いている植木鉢をいくつも持ってきて、俺の車の周りを飾りつけしてくれた。地味だった車が、花で埋もれて急に華やかになった。


「それにしてもこの車って、面白い形をしてるわね」


「そうかな」


「まあ、ドワーフの機械って、だいたい変わってるからね」


 彼女はこの車のこともドワーフということで勝手に納得したようだった。



 彼女が言っていた通り、この日からの彼女の店は相乗効果で売り上げがずいぶんと伸びたらしい。彼女の店だけではなく、俺のホットドッグの売り上げも伸びた。10日後の今ではホットドッグは1日に140個は売れている。

 ホットドッグは時間内に作れる個数には限界があるので、1日に作れるのはそれくらいが限界だった。テオフィリアの店のジュースとホットドッグという組み合わせて買う客も多く、お客さんにとっても選択肢が広がって良かったんじゃないだろうか。


 仕事が終わってから夕食を共にするまでの時間、彼女とよく話をした。とは言え、ほとんどは彼女の話を聞くことばかりだったが。

 仕事の話から故郷にいる家族と友だちの話。今日あった面白い出来事。彼女は本当によく喋った。彼女はかなり年上の俺に対しても、まるで構えずに同年代の女友だちのように話すので話しやすかった。

 前の世界の俺は女性と話すときには意識しするせいか緊張することが多かったが、彼女の場合は歳も離れているし、美人すぎてリアリティがないためなのか、それほど緊張せずに済んでいる。


 この日も彼女との時間を終えた俺は、寝るために車の運転席のドアを開いた。この世界に来てからの俺はやけに早寝早起きになっている。

 運転席に入るとカーステレオのディスプレイの部分が光っているのに気付いた。文字が映し出されていた。

 そこには、『レベルアップします』とあった。



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