44 帰還
一週間後に車は出来上がった。やはり車はまともな速度では走れず、レンタカーで借りた二トントラックで牽引する必要があった。人通りのほとんどない空き地に車を運んでからトラックを返しに行った。
車に戻ると、シートに身を沈めたまま夜を待った。運転席のシートは中古のフルバケットに交換し、シートベルトもレーシングカーのような五点式に換えてある。
「そろそろ行くか」
俺は覗視孔から外を覗き見ながら言った。車はガラスを張ってあった部分も鉄板で覆っているので、外を見るために前方に覗視孔を開けている。
深夜十二時を過ぎた。もう十分だろう。俺はヘルメットを被った。このフルフェイスのヘルメットもこっちで用意したものだ。
「分かりました。では、参ります」
数秒後、再び目の前が白く光った。急降下するような感覚。今から向こうの世界に向かうのだ。心臓が高まった。賭けだった。負ければ潰されて死ぬ賭けだ。
◆
物凄い音と衝撃があった。オートマトンに殴られたのだ。どうやらもう、向こうの世界に着いたらしい。そこから連続の衝撃。身体が前後左右に振られた。ショックでむち打ちになりそうだった。
衝撃は最初は主に前からだったが、途中で左からに変わった。殴られているうちに勢いで車がずれたようだ。
俺はヘルメットを被ったまま、シートに張り付いて耐える。まるで釣鐘の中にいて、外から撞木で叩かれている気分だった。
五分ほど殴られると、車体がゆがんできた。先にシャーシがいかれたようだ。
さらに五分ほど経つと、今度は助手席のドアが凹んできた。フロントパネルが音を立てて弾けるように割れた。ロールバーも曲がってきた。この車は長くは持ちそうになかった。
ようやく攻撃が止まった時には車は横倒しになり、曲がった鉄板が内部を圧迫して、ロールバーが俺を押しつぶさないように何とか支えているような状態だった。
フラフラになりながらもドアを開いて車の外に這い出た。オートマトンは完全に機能が停止していた。さすがにもう大丈夫そうだ。
「だ、大丈夫ですか?」
メガメーデたちが駆け寄って来て心配そうに俺に尋ねた。
「ははは。何とか生きのびた」
雄たけびを上げたい気分だった。
俺は賭けに勝った。これで皆が助かるし、テオフィリアにも会える。
勝利の余韻に浸りたいところだが、そんな暇はなかった。早く魔物の流入を止めなければならない。
俺はメガメーデに支えられながら機械室に向かった。しかし、ボタンやレバーが多すぎて、見ただけではどうしていいかさっぱり分からなかった。
仕方がないので車に戻って、横倒しになっていた車を三人(主にメガメーデの力)で元に戻した。そして俺が一人で運転席に入った。
「機械室に行ったんだけど、どのスイッチがゲートの開閉をするためのものなのか全く分からないんだ」
「そうでしょうね。私が見てみましょう」
「鉄板を張ったままで見えるのか?」
「もちろん見えますよ。私はあくまで車に付いた精霊ですから車の状態は関係ありません。ただ車からはほとんど離れられないので、車ごと機械室に移動する必要がありますが」
エンジンはなんとかかかった。今のこの車は重すぎる上に痛めつけられて瀕死の状態だが、時速三キロくらいでなら動くことが出来た。車はヨロヨロとしながら機械室に入った。
「上から三段目の、左から七つ目のボタンを押してから、その横のレバーを引いてください」
「わかった」
車の指示通りにすると、俺はもう一度運転席に戻った。
「これで魔物の流入は止まったのか?」
「はい。これでゲートは閉まりました」
「よかった……」
これで全てが終わった。俺は運転席で深く息を吐いた。
「ただ、このボタンとレバーなのですが、最近になって操作された形跡がありますね」
「え?」
「つまり、ゲートが開いていたのは、誰かが操作したということです」
「気のせいじゃないのか?」
俺は車に尋ねた。
「間違いありません」
「しかし、そんなことが可能なのか?」
その者は俺たちより以前にこのダンジョンに入り、あのオートマトンをどうにかしてここにたどり着いたことになる。
「一つだけ可能性があります」
「何だ?」
「ドワーフ帝国によってこの施設を任されていたドワーフならば当然、我々が入ったのとはまた別の安全な出入口を知っていたはずです。その子孫ならばあるいは」
「ドワーフ族は女を残して皆殺しにされたんじゃなかったのか? その女たちも子孫は残せなかったとかいう話だったはず」
「一部を除いて、と言いました。
その一部というのは、ドワーフ帝国滅亡より以前に民族を裏切り、人族側に寝返った者たちのことです。そういった者たちには、あらたに建設された人族の帝国から功績に見合った領地と身分を与えられました」
「……」
このレクリオンの地において帝国から領地と身分を保証された者というと、一つしかなかった。
「ディル家か」
そうか……。ディル家はドワーフ族だったのだな。




