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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
43/44

43話 後始末

 中庭に行ってみると見張りは一応一人いたが、こちらに気付く前にガーリヤの魔術で気を失った。

 かえって入り口を探す手間が省けたクルリ達は地下へと進む。

 すると何やら大声が響いてきた。



「まだ動かないのかこの馬鹿者が!」

「しかしビルズフル様、この馬車は何分古いもので……一応修理はしたのですが

 直すのにもう少し……」

「早くしろ! くそっ新しく買えば良かったか」

 急な馬車の故障にイライラするビルズフル。

 中庭の真下の地下道の入り口の広場は広く、百人程のハンター達があくびをしながら待っている。

 その前で使用人たちが忙しく最後の荷造りを確認している。

「くそっ! 何で急にこんな事に……今までうまく行っていたのに……!」


「お前を操っていた魔族がいなくなったからだよ」

 地下広場は声が響く、唐突にビルズフルは独り言に返されぎょっとするがすぐさま言い返した。

「誰だ貴様は! 魔族だと!? 何を訳の分からない事を!」

「自覚は無いか記憶を改竄されたか、まあどっちでもいいが」

 ウェルの興味のなさそうな声にイラつくビルズフル。

「侵入者だ! 見張りは何をしていた!?」

 ぞろぞろと入ってくるクルリ一行にビルズフルの言葉を待たずしてもうハンター達は臨戦態勢に入っている。

 ウィーグが前に出て声をあげ告げる。


「ビルズフル様、貴方の悪事は全て露見しています。大人しく縛にいてください」

「貴様は確かスィラーンの……! そんな人数で何とかなるとでも思っているのか」

「とっととあきらめなさい!」

 便乗してリディリが声をあげる。

「なんだこのガキは! ガキまでつれてなんのままごとだ!」

「なによ! あんたわたしのこと知らないの!? このザコ商人!」

「なんだとこのガキ!」

 ハンター達の内、特に中央ギルドの人間はリディリに気が付きざわついている。


「ここはもう包囲もされています、抵抗は無意味です」

「そんなガキも混ざった数で偉そうに……、知っているぞ、お前らは下らん面子で自分たちしか動いていないんだろう

 この場にこれしかいない時点でたいして動いておるまい、この人数差でなんとかなるとおもっているのか?」

 ハンター達がビルズフルの言葉で入り口を包囲するように動く。

「何だ結局やるのか」

 ウェルが無造作に入り口の高くなっている所から降りて行き前に出る。

 すると西ギルドの人間が今度はざわついた、いきなり現れて暇な時は一人で高難度の魔獣を狩っていたウェルは有名人であった。

「さっさと始末しろ!」


 ビルズフルの檄が飛ぶ。

 ウェルは獰猛な笑みを笑みを浮かべ剣を光らせ始めた。

 前に出ていたハンター達は殺気に気圧されるが違法な依頼を受けている身である、退路は無い。

 そして人数では圧倒的に勝っている、ハンター達も覚悟を決めた。

 じりじりとウェルを囲むように動く。

〈ウェルさん! 抑えて下さい!〉

 一触即発の雰囲気の中、唐突にクルリ達全員の脳内にウィーグの声が響く。


(え、なになに?)

 クルリがびっくりして周りを見回すが同じように動揺しているのはリディリだけである。

〈念話も使えたのか、器用だな〉

〈驚きました~〉

〈魔道具を使っています、とりあえず皆さん話を聞いてください。ウェルさんここを血の海にする気ですか!?〉

〈いや、まあ。流れ的に〉

〈魔族の手下になっていた者たちですし問題は無いのではないでしょうか〉

〈同感です〉


〈麻薬に手を出してしまった以外はハンター達は無実ですよ! いやハンターとしては違法な依頼を受けているのですが〉

 大人たちは勝手に念話をしている、クルリが一方的に流れ込んでくる会話に若干うんざりしていると隣でリディリはつまらなさそうにしている。

 会話に混ざれないのが不満なようだ。

(まあ、どうでもいいか)

 大量に死人が出るのはアレだがもう事件は解決したも同然である。

〈……クルリ君、申し訳ないのですがお願いをしていいですか?〉


 クルリはもう他人事になっていたが唐突にウィーグに話を振られる。

 と言っても念話では返事が出来ない。

 ウィーグを見ると真剣な目でこっちを見ている。

(この状況で僕が出来る事なんて無いと思うけど……?)

 疑念を持って見返す、がウィーグの目は変わらない。

〈血を流さない為にも必要なのです、頼んでよろしいでしょうか?〉

 なんか嫌な予感がしたが断れる雰囲気ではない、クルリは軽く頷いた。


〈ありがとうございます、クルリ君。今から私が言うことに皆さんも合わせてください〉

〈なんだなんだ? 別にいいが〉

〈わかりました~〉

〈承りました〉

〈何をするんだ?〉

〈ありがとうございます、クルリ君少し前に出て下さい〉

(……?)


 訳も分からず前に出る、入り口周辺は少し高いので降りて行ったウェルとビルズフル一味を見下ろす形になる。

 自然と全員が注目する形になった。

〈背筋を伸ばして前を見ていてください〉

 嫌な予感がどんどん強くなってきた。

 クルリは振り返ろうとしたがその前にウィーグの大声が響いた。

「お前たち、直ちに剣を下げよ! ここにおられるは国王陛下の御長子!

 ルフラフィラアル王妃陛下の御長男、クルリアラウ・アルド・リーディータ殿下であらせられる!」


(は? バレて? え?)


此度こたびの国民が麻薬に汚染されている事について心を痛めた王子は、御自おんみずから動いていらっしゃったのだ!

 いまお前たちがしている事は王権反逆罪である!」

「ば、馬鹿な!」 

 ビルズフルが叫ぶ。

「ここにいる者で十三年前を覚えている者は、獅子族のルフラフィラアル王妃陛下の御子の生まれた祝祭を忘れていないだろう!

 今ここにお前達の前におられる方がその方である

 これを疑うものは続けるがいい、吟味の沙汰は必要ない、この場で極刑である!」

 ざわめきの止まらないハンター達とビルズフルの使用人達。


 ビルズフルががもう一度叫ぶ。

「お、お前たち! 何をしている! あんな妄言を信じるのか!?」

 ハンター達の動揺は深かった。

「そんな事があるのか……!?」

「だがあそこにいるのは大主教の孫娘だ……一緒のチームだったのは王子を隠すカモフラージュだったのか?」

「殺獣狂のウェル……いくら何でも強すぎると思ったぜ……近衛か特務の騎士だったのか」


「何をしている! 王子を待たせる気か!」

 ざわめくハンター達にウィーグが追い打ちをかける。

〈クルリ君は王子様だったんですね~びっくりです~〉

〈クルリ様、背筋をちゃんと伸ばして下さい〉

〈王子……だと……?〉

〈なんか俺にひどいあだ名がつけられてたんだが〉

 後ろから気楽な言葉を念話でかけて来るがクルリはあまりの事に固まっている。

 何とか後ろを(背筋を伸ばしたまま)振り向くとまず大口をあけてポカンととしているリディリが目に入った。

「おうじさま……?」

 リディリが呆然と呟く。


〈クルリ様はやく前を向いてください、ちゃんと威厳を保った表情で〉

 リベルゥの念話に憎々しげな目を向けるが平然としている。

 しょうがないので前を向いたが威厳を持った表情などわかるはずもない。

 とりあえず険しい顔になった。

「だが王子は慈悲深くあらっしゃる! ハンター達よ、今すぐ投降するならすべて許す!

 麻薬の罪もだ、神殿で治療を受けさせてやる!」

 ウィーグがそう言うとハンター達は次々と剣を投げ捨てて膝をついていく。


「お、お前たちあんなものを信じるのか!」

「今なら許してくれるっていうんなら投降するしかねえ……

 言葉が本当なら包囲してるっていうのは騎士団だ、逆らったらどうやっても死ぬ」

 ハンター達の中で歳を取った者が返した、ビルズフルの顔が絶望に染まっていく。

「馬鹿な! 馬鹿な!」


(あーもー早く終わらないかな……)

 クルリがめんどくさくなって来たになってきた所に、またウィーグから念話が飛んでくる。

〈クルリ君、ビルズフルに諦めるよう言葉をお願いします〉

(はい!?)


 無茶振りも良い所である、王太子では無く帝王学を受けていないクルリは特に一般人に対する王子としての振る舞いがよくわからない。

 だがそもそも念話が出来ないクルリは反論しようがない。

(そもそも王子ってどんなんなんだよ!)

 王子なのに王子らしいとは何か、哲学的命題に悩むクルリ、不意に思い出したのはリディリと見た劇であった。

(普通の人の王子のイメージってあんなんなのか!? あーもうどうにでもなれ!)

 クルリは自棄やけになって咳ばらいをするとひざまずくハンター達の向こう、ビルズフルに言い放った。

「お前の企みは全て承知であった! この期に及んでまだ抵抗するか!」

「ぐ……! あ……!」


 効き目はあったらしい。

 ビルズフルは蒼白を通り越した表情になると膝から崩れ落ち、額を地面につけると絞り出すように言う。

「王子殿下を疑ってしまって申し訳ありません……どうか御寛恕をお願い申し上げます……!」

 使用人たちもそれにならい平伏する。

 別にこの商人に個人的な恨みも無い、魔族に操られ麻薬に手を染めた哀れな犯罪者であるが……これで終わった。

(終わった……)

 場は静まり返り無言の間が流れる。


 せめて文句の表情を付けようと後ろを振り返ると何やらリディリがガーリヤに耳打ちしている。

(うん?)

 また嫌な予感が背筋を走ると同時にガーリヤからの念話が飛んできた。

〈クルリ様~リディリお嬢様がクルリ様に締めの言葉をかっこよく言って欲しいって~〉

(はい?)


 思わず顔が歪みそうになる。

〈おーいいぞいいぞ言ってやれ〉

〈クルリ様、期待させて頂きます〉

〈さあ王子様! 悪人共にびしりと言ってやるのです!〉

〈えーと、あの……ではお願いします〉

 もう苦笑いではすまない心境とこれで終わりならもうどうでもいいやという心境でクルリはもう諦めた。

 前を向くと宣言する。


「こ、これにて一件落着である!」

「ははーっ!!」

 クルリの言葉にビルズフル達とハンター達が大きく斉唱する。

(死にたい……)

 羞恥心の極限を越えクルリが固まっているとウィーグが応援を呼び、ハンター達とビルズフル達が連行されていく。

(早く帰って寝たい……)

 遠い目でクルリは溜息をついた。


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