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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
41/44

41話 闘い2

「クルリ……」

「大丈夫、下がってて」

 クルリは不安そうに自分の背中に隠れるリディリに、安心させるよう声をかけた。

 フィリィと呼ばれた女魔族ほどではないが、目の前の小剣使いのハンター──この女ももはや魔族であるが──にダルクの咆哮も気にする事が出来ない程に脅威を感じる。

 逃げられそうには無い、剣を構えるとリディリが後ろから話しかけてきた。

「クルリ、法術で守護をかけるわ。お願い、頑張って

 ──≪願わくは、守りあらんことを≫」

「ありがとう」

「すんだかしら?」

 体に加護を実感し、リディリに礼を言うと今度は相手が話しかけてくる。

「そちらも待っていてくれてどうも」

 相手はそこまで殺気立っていないが、一刻も早く倒してダルクの加勢が出来なければ恐らく全員死ぬ。

 体が恐怖に強張るのを押さえクルリが剣を握りしめると相手にじりじりと近づいて行った。


「くっ!」

 相手の小剣と打ちあい、何とかしのぐ。

「意外と粘るねえ」

 だがクルリの体にだんだんと傷が増えていく、相手は余裕を見せている。

 強い、だがウェルやリベルゥ達ほどでは無い、クルリは覚悟を決めた。

「おっと、やけっぱちになったかい?」

 互いの手が止まり、小剣使いが挑発してくるが無視して上段に構える。

「殺しちゃいけないから困るんだよね……」


 一歩、二歩。

 近づくにつれ小剣使いは真顔になっていく。

「せあぁ!」

「! ≪爆華≫!」

 クルリが全身全霊で踏み込むと小剣使いはその捨て身の迫力に思わずとっさに魔術を放つ。

 クルリに正面から猛火がぶつかる。

「しまった殺し──」

 フィリィの命に反した事を恐れ、焦るが猛火の中をクルリが突撃してくる。

「馬鹿な!」

 小剣使いは反応できたがクルリの全力の斬り下ろしに小剣で受けきれず剣を受けてしまう。

 それでも肩から腹まで浅く切り裂いただけだった。

 クルリはリディリの加護と自身の魔力で相手の魔術を相殺するのがやっとであったため、剣に魔力を込められていない。

 だが。


「ぐっ! ぐああ!」

 霊剣ツォルガンドの霊力が魔族の体を蝕み侵食──浄化していく。

「やったのか……?」

 苦しむ相手を見て、荒い息で安堵をしかけるクルリ。

 しかし小剣使いの後ろに現れたフィリィを見て背筋が凍る。

「フィリィ様、助け──」

 フィリィは頭に角を生やし、魔獣の如き手で小剣使いの頭を掴む。

「フィリィ様──? あああ!」

 頭から魔力を吸い上げられ小剣使いの体が崩壊していく。

「待たせたわね」

「ダルク!」

 後ろの壁に血だらけのダルクが魔術で束縛されている。

 フィリィは顔に垂れて来た血を拭うと舐めながら言った。

「流石に多少疲れたな、お前たちもこうやって魔力と魂を吸って殺してやろう」


 凄まじい邪気に足がすくみ震える。

「しかしよくこんな極上の魔力を持った子供どもがわざわざ現れたものよ

 嬉しいが不可解だな……」

 言葉を続けるフィリィ、リディリの所までクルリはリディリの所まで後退する。

 リディリは顔面蒼白になっているが自分も似たようなものだろう。

(どうすればいい……? 死ぬしかないのか?)

「もしやお前たちは我ら魔族を釣るための生餌だったのか?

 だとしたら哀れなものよ、その歳で」


「よくわかんないけどうるさいわね!」

 リディリが立ち上がり蒼白のまま啖呵を切る。

「なにが魔族よ──ぶっとばしてやる! クルリ! どきなさい!」

「ほう?」

 フィリィが嬉しそうに口をゆがめる。

「──来たりたまえ、あまつ満つ、が神の幸いなるかな、その息を」

「なるほど、大した魔力だ大主教の孫娘ちゃん。怖い怖い」

「! まがなり、乞い願わくば、その御力みちからもちて断たんことを!」


 怒りを込めてさらに魔力を込めるリディリに、フィリィは笑みを浮かべて片手をあげた。

「目をえぐられしデルズラの民は砂をすすり、舌をもがれしクディフの民ははらわたに泥を詰める……」

「風のよりて此処に、示し給え、さばきくだし給え!」

 リディリの法術と同時、フィリィは呟くように魔術を発動させる。

「≪ナラクトゥーヤ≫」

 爆風と呼ぶのも生易しい、魔力の奔流がリディリの手から吹きすさび、部屋を激震させる。

「うわぁあ!」

 途中から離れていたが余波で吹き飛ばされるクルリ、だがリディリの渾身の法術はフィリィには届かず、かざした手に吸い込まれてゆく。

「──なんで!?」

 驚愕するリディリ、フィリィは笑みを崩さず魔術をもう一度呟いた。

「≪ダズァラ≫」

「リディリ!」

 不可視の魔術にリディリは弾けるように崩れ落ちる、クルリが慌てて駆け寄るも意識が無い。


「なに、少し気絶しただけよ。 こんな殺し方する訳ないだろう、もったいない」

 フィリィはこともなげに言う。

「貴様……!」

 クルリは怒りに任せて剣を構える、もはや刺し違えてでも相手を殺すしかない。

「良い剣だ、流石王子」

「──!」

「なんだ、知らぬとでも思っていたか? 他の者ならいざ知らず、十数年前ツルク・ギマーラヴァ様を殺した男の子供を」

「……父さんが?」

 唐突な言葉にクルリが聞き返すがフィリィは答えず近づいてくる。

「さあゆくぞ……少しは遊ぶか」




 リベルゥは迷宮と化している館を走っていた。

 焦燥の中、必死に結界に阻まれているクルリの気配を探る。

 クルリの母、ルフラと主従契約を魔術で結んでいるリベルゥはその血縁を通じてわずかにだがクルリの存在を追う事が出来る。

(クルリ様に契約を移すべきだったか……?)

 出来るならやるべきであったがリベルゥはルフラの生家に仕える身であった為、独断ではできなかった。

 少しづつでも近づいているはずだ、そう自分に言い聞かせて集中する中、不意に立ち止まった。


(魔術の爆発……?)

 ほんの少し、館のある方向からわずかな揺れを感じたように思える。

 錯覚とも間違えるようなかすかな感覚だったが、リベルゥはそれを信じて駆け出した。


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