40話 闘い
「では皆様お取り込みになる中ですが、クルリ様を探すために少々失礼させて頂きます」
一触即発の空気の中、リベルゥがスカートを摘まみ礼をした。
「この館の結界の中で当てがあるのですか!?」
「ネコはネコの勘を信じます」
返答にはなっていなかったが、ガーリヤは頼るしかない。
「お嬢様もお願いします!」
「ついででよろしければ」
そう言ってリベルゥは気配ごと消えるように離脱する。
一方ウェルは、禍々しいオーラを放つ大男に跳躍して上段から斬りかかった。
込められた魔力により帯電している光剣の長さは二メートルを越えている。
「オォォォ!」
もはや三メートルの異形と化した大男は、頭を狙って来るウェルの剣に猛獣のような腕を十字にして受けた。
光剣と両腕──二人の膂力と魔力のぶつかりが凄まじい衝撃を放つ。
ウェルの剣は両腕の骨の半ばまで食い込んだ
ウェルと大男の両方に驚愕が走る──ウェルは断ち切れなかった事に、大男は防ぎきれなかった事に。
「隙有りィ!」
すかさずミディニががら空きになった大男の脇腹に斬撃を放つ。
完全に不意打ちとなった剣は体毛に阻まれながらも深く切り込んだ。
「ぐぅ! 手前!」
大男が腕を振るがミディニは間一髪避ける。
「うわぁ! 危な!」
距離をとったミディニに二階から矢と魔法が飛んでくるが、ガーリヤが再び防壁で防いだ。
「あっちを片付けて来る! 少し頼むぞ!」
ウェルが二階へと飛ぶように走り出す。
「あっ! 逃げるんじゃねえぞ!」
「ちょ、ちょっと無理だぞこんなの!」
「ミディニ、覚悟を決めなさい」
ガーリヤが次の魔術を準備しながらミディニに(冷たく)言う。
「ちっ、仕方ねえお前らから殺してやるよ!」
大男の両腕と脇腹の傷口は煙をあげ再生し始めている。
「の、の、望むところだ! 化け物!」
その横でウィーグは敵のリーダーと対峙していた。
相手のプレッシャーにウィーグは短槍を握る手が強張る。
(この前に会った時よりも数段強い……そしてあの剣はやばそうですね……)
すると唐突に敵のリーダーが話しかけてきた。
「どうやら俺と戦うのはあんたみたいだな」
「……そのようで」
「俺はラグル、あんたは?」
「…………ウィーグです」
名を聞くのは相手の魔術や呪術の一環かもしれない。
真意を測りかね、迷ったがウィーグは答える。
「そうか、では始めるか」
ラグルは気楽そうにすら見える調子で斬りかかってきた。
「ウェルエンがこっちに来るぞ!」
「わかってるよ!」
射手の言葉に魔術士が苛立ったように返す、だが彼らも熟練のチームである。
ランダムに飛び跳ねるように接近して来るウェルにタイミングを合わせる。
「フッ!」
「≪爆華重焔≫!」
十メートル程のところまで来ていたウェルの壁面への着地点に合わせ、牽制の矢と仕留めるための魔術の爆発がウェルを襲った。
炎と爆風に包まれるウェル。
「やったか!?」
射手が叫ぶ、がしかし爆風の下、地面すれすれをウェルがすさまじい勢いで駆けて来る。
「──!?」
断末魔の声を上げる暇も無く両断される射手。
「ダージ! クソッ! ≪業炎陣≫!」
射手の名を叫ぶ魔術士、とっさに次の魔術の準備を出来ていたのはハンターとしての経験と本能であった。
ダージを切り払って魔術士に向かおうとしていたウェルに猛火を放射する。
しかしウェルは光剣を中心に防壁を張り炎を防いでいる。
「防壁の魔術!? そんなものまで!?」
杖から猛火を放射しながら魔術士は悲鳴をあげた。
魔族となって魔力も増えていたが立て続けの強力な魔術で限界が近い。
「そんな──」
魔術士──リーグラはこの魔術が切れた時に死ぬのを悟った。
「リディニ! 二十秒稼ぎなさい!」
「ちょっ! 無理ですっ! 死ぬっ!」
ウィーグの様子を見て決断したガーリヤは大魔術の準備に入った。
ガーリヤの飛ばした命令にミディニは悲鳴のような抗議をあげたが、何とか器用に大男の攻撃をかわしている。
「クソッ! このアマ! 逃げるんじゃねえ!」
床を陥没させながら剛腕を振り下ろす大男。
反撃もままならず逃げ回っているが、命令通りミディニは必死に大男がガーリヤに向かわないようにしていた。
「遍く法相、天地に三毒有り、心身に五腐
始まりに黒く、終わりもまた玄、明慧の王に帰命す」
「あああぁぁ! 死ぬ! 死ぬ!」
「待てやぁぁ!」
ミディニの悲鳴と大男の声が響くがガーリヤは目を閉じ詠唱に集中する。
「動かざりけるを讃え、動きたるを嘆く
睨みて憤怒を湛え、振るいて慈悲を降す──」
とうとう攻撃を避けきれずに転倒するミディニ、起き上がろうとしたが巨大な鉤爪を突き付けられる。
「これで逃げ回るのも終わりだなぁ」
「くっ! やめろ!」
「死ね」
「畜生ぉぉ! ガーリヤさんの馬鹿ぁぁ!」
「≪五顕破障智剣光陣≫!」
あわやミディニが死ぬ寸前、ガーリヤの魔術が発動した。
足元に光輝く魔術陣が現れると、無数の光の筋が大男の体を貫く。
「ぐあぁあ! な、なんだこれは!?」
血を吐きながら驚愕の声を上げる大男。
魔族の力によって全身から煙が立ち、再生しようとするが貫く光の束によって身悶えもできず無効化されている。
「やれやれ間に合いましたね」
「流石ですガーリヤさん! 信じていました!」
ガーリヤが荒い息をつきながら嘆息すると、這いながら離れると立ち上がりミディニが称賛して来る。
そこに二階の敵を始末してきたウェルが現れた。
「間に合ったようだな」
「すみません、止めをお願いします」
「わかった」
ウェルは応じ、呼吸を整えると光剣を展開する。
「ウェルエン……手前そもそも俺の相手全然してねえじゃねえか」
「すまんな……せい!」
大男の怨嗟に軽く詫びると一撃を加えた。
「がぁぁ! 貴様ぁぁ!」
袈裟切りで胴体の三分の二を縦に切り裂かれたが、大男は瀕死ながらまだ生きている。
「まだ死なないのか、すごいな」
「成敗ッ!」
ウェルが生命力に驚嘆し、もう一回止めを刺そうとするとミディニが飛び上がり大男の頭を唐竹割りに両断した。
魔族といえども瀕死の所を脳を両断されては終わりである、煙を立てて体が崩れていく。
「ふっ……これでデーモンスレイヤーとなってしまった……
もはや私は神殿騎士に収まる器では無いな……聖騎士となる日も近い……」
「はいはい良かったわねミディニ、そして後は──」
「ここまでのようだな」
ガーリヤの声を遮ってウィーグの相手をしていたラグルが手を止めて言った。
相対しているウィーグは傷だらけだがラグルは無傷である。
「ビルズフルは中庭の隠し通路から地下に逃げ出そうとしているぜ」
「……お前たちを魔族にした魔族は何処だ」
「それは答えられないな……どうせこの館の結界ではたどり着けないだろうが」
気楽に教えてくるラグルにウェルは質問をしたが拒否される。
ウェルが近づいていくと自然とラグルと一対一で相対する形になった。
「ウィーグに手加減したな」
「さあな」
お互いに剣を構えながら問答を交す。
「……」
短い沈黙の後、疾風のようにお互いが交差するとウェルの剣がラグルの心臓を貫いていた。
「……何故だ?」
「……故郷に帰れないのに生きていてもしょうがないだろう?」
もう一度問うと血を吐きながらラグルが答える。
大男程の生命力は当然無く剣を抜くと倒れ、体が崩れていった。
「……さて、ビルズフルはともかくクルリとリディリだが」
「ええ」
少しラグルの痕と落ちている魔剣を見ていたが、ウェルは振り返り言うとガーリヤが応じた。
「ああーー! どうするんですかガーリヤさん! リディリ様が!」
「……わかっているわ。 私の責任よ」
ミディニに少々イラっとしながらもガーリヤは続けた。
「リベルゥさんに期待したいけれど難しいわね……恐ろしい結界だわ」
「今すぐ探しに行きましょう!」
「話を聞きなさい、下手に館を捜索しようとすれば永遠にさ迷うことになるわ」
「じゃあどうするんですかぁ!?」
肩を揺さぶってくるミディニに対しなんとかイラつきを押さえるガーリヤ。
「ここで逆陣の魔術を張って結界を内側から壊すわ」
「出来るのか?」
「……なんとしてでも成功させるわ」
ウェルの言葉に悲壮な顔でガーリヤは答えた。




