39話 突入
「よし入るぞ」
ウェルが立派な門扉の隙間を撫でるように剣を振るうと、門は呆気なく開いた。
「……慣れてますね」
「結構簡単だぞ」
「はい」
ずれた返しにクルリが諦めた様に返す。
中に入ると鋭い声でウェルが皆を制止した。
「皆止まれ」
クルリ何の事かわからず周りを見ると、険しい顔のウェルとガーリヤ、戸惑っている顔のリディリとミディニ。
ウィーグは怪訝な顔をしていてダルクはいまにも唸りそうな顔をしている、リベルゥはいつもの無表情である。
「邪気が漂ってますね~……」
「ガーリヤさん、これは?」
ミディニがおそるおそる質問する。
「憶えておきなさい、これは魔族の気配よ」
「魔族!?」
ガーリヤの答えに小声で驚く。
「魔族か……通りでおかしな事件なはずだ」
「あの、間違いないのですか?」
ウェルの言葉にウィーグが半信半疑で聞く。
「ああ、この感じならかなりの大物だな」
「……どうしますか?」
「麻薬の商人や違法ハンターなんてもう二の次だ、今ここで突入して魔族を討つかどうかだな」
「魔族なんて我々の動く領分を越えているのでは……?
騎士団と神殿に動いてもらわないと」
「いや、明らかに俺達を狙って待ち構えている。俺達が撤退して騎士団やらが来た時には逃げている可能性が高い」
「我々が突入しない場合はどうします?」
「今すぐ撤退して国境の街や途中の街へ早馬を走らせればビルズフル達に先んじれるだろう
相手は大人数で恐らく大荷物だ、確実に捕まえられるはずだ……その時には恐らくもう魔族の支援も無いだろうしな」
「……麻薬を解決するだけならそれやればよかったですね」
「……そうだな、だが逆にそのおかげで我々は魔族を討つ機会を得られた、という訳だ
どうするウィーグ? この件はお前が決める権利がある」
身も蓋もないクルリの言葉にウェルが返す、そしてウィーグに問いかけた。
ウィーグは目を閉じ少し考えたが周りに質問をした。
「皆さんはどうするべきだと思いますか? もう私だけの問題ではありません」
「私は突入するべきだと思います、神殿の者として魔族を逃すわけにもいけましんし、待ち構えられたとしても……
恐らく相手の想定よりこちらの戦力は多いでしょう」
まずガーリヤがチラリと周りをみながら答えた。
「もちろん魔族なんてたおすべきよ!」
「リディリ様と同じです、魔族は一匹残らず殲滅すべきです」
リディリとミディニが続く。
「俺も同意見だ、魔族を討つ機会を逃す手はない」
ウェルも意見を言い……自然と視線がクルリに集まった。
(ええ……皆ノリノリすぎない? 魔族でしょ?)
内心では引いたがもう多数が突入派である、クルリだけ逃げるわけにもいかないだろう。
諦めた。
「あーはい、僕も皆さんに賛成です」
「私はクルリ様のとおりに」
リベルゥが続き、ついでにダルクも小さく吠えた。
「……わかりました、突入しましょう」
ウィーグが覚悟を決め決断を下す。
全員で頷き合うと、館へ警戒しながら近づいて行った。
近づくにつれクルリにも発せられる瘴気が感じられてきた。
邪気とガーリヤが言ったのもよくわかる、本能的に恐怖を感じる圧迫感だ。
扉の前まで来た時に、ウェルがクルリ達に言った。
「館自体に強力な結界が張られている、異界化していると言っていい。
中では感覚を狂わされたり様々な異常を起こされる可能性が高い、警戒を絶対に怠るな。」
「はい」
「では行くぞ」
全員が臨戦態勢に入ったのを確認してウェルは扉を開けた。
扉の向こう、広く豪奢なエントランスホールで待っていたのは以前クルリ達を襲撃したハンター達であった。
正面に二人、吹き抜けの二階に二人。
一人足りない。
(伏兵か?)
ウェルが不審に思った矢先、向こうから話しかけてきた。
「久しぶりだな」
「魔族に知り合いはいない、全て殺してきた」
「物騒だな」
話しかけてきたリーダーらしき男が苦笑する。
するとハンター達の眼が赤く光る、白目は黒に黒目は赤に。
息を吞むクルリとリディリ、それとミディニ。
「人を辞めたか、広きツゥアラスティオーラにお前たちの帰る場所はない」
「そうだな」
「とうとう手前を殺せる日が来たぜ……ウェルエン」
正面のリーダーと一緒にいた大男は眼の変貌だけでなくみるみるうちに体が毛むくじゃらになり、体が巨大化していく。
「ひぃぃぃ」
思わずリディリがミディニにしがみつく。
(こいつだけ妙に変異が進んでるな……?)
ウェルは他の相手も警戒したが、あからさまに変わったのは大男だけである。
「まあいい相手してやる」
「偉そうな顔もこれまでだぜ……!」
ウェルが剣に光刃を展開していくと、大男も巨大な鉤爪を伸ばした。
「≪炎業六華震≫!」
闘いはすでに魔術の準備を完了していた二階にいる魔術士が魔術を放つ事で始まった。
「≪三定南壁≫」
こちらも準備していたガーリヤが防壁を展開する。
魔術の炎の爆発と防壁とのぶつかりがエントランスホールを轟かせる。
まず魔術を撃ち合うのは定石の一つである、しかし。
「!?」
クルリ達の真下に巨大な魔術陣が展開し輝く。
「しまった!」
目をくらます光にガーリヤが悲鳴のように声を上げる。
「ちぃ!」
ウェルが光剣を地面の魔術陣に突き立てる、陣は粉々に砕けたが──。
「クルリ!?」
「お嬢様!?」
クルリとリディリ、そしてダルクが消えている。
「転送陣!?──なんて迂闊な!」
してやられた事に己を責めるガーリヤ。
「おいおい、じゃまなガキ共がいなくなっただけだろ? とっととかかって来いよ」
大男が挑発する。
「……一刻も早く貴様らを殺さなければならなくなったからな!」
ウェルの光剣が強く光りさらに巨大化した。
「あれ?」
クルリは目を開けると違う場所にいるのに気付いた。
広い部屋ではあるが今までいたエントランスホールほどでは無い。
「あれ?」
まったく同じ事を呟くリディリが隣にいる。
そして臨戦態勢で唸るダルク。
「うん?」
ダルクの視線の先に窓を背にして女が二人いる。
黒い長髪の一人は上等そうな椅子に座っていたが立ち上がった。
その瞬間クルリの全身を怖気が走る。
「ひぃぃぃ!」
リディリが悲鳴をあげしがみ付いてくる。
さっき出会ったハンター達とは違う、あまりにも恐ろしいオーラを漂わせている。
「魔族……!」
「月狼か。守護契約の為に一緒に転送してしまったとはな」
クルリの声を無視し女魔族はダルクに視線を向けた。
ダルクはクルリの今まで聞いたことの無いほどの攻撃的な唸り声をあげ、いつでも飛び掛かれる体勢である。
「狼は私がやる。お前は二人をやれ、殺しはするな」
「はい、フィリィ様」
見覚えがある、前に襲ってきたハンターの一人だ。
目を赤く光らせ小剣を携えて近づいてくる。
ハンターが近づいて来てなお、ダルクはフィリィと呼ばれた女魔族から視線を外さない。
フィリィは横に移動して行き、ダルクに呼び掛けた。
「かかって来い飼い犬よ。動けなくした後にお前の主人の死に様を見せてやろう」
いつの間にかダルクは唸るのを辞めている。
一瞬こちらを見るとダルクは静かにフィリィに近づいていく。
そして一瞬止まった後、咆哮をあげ飛び掛かった。




