38話 突入前
「そういえばさリベルゥ」
「はい」
とうわけでクルリは一旦王宮に帰って準備をしている。
ポーチにポーションを入れながらふと気になった事を丁度居たリベルゥに尋ねた。
「他人に自分を認識できなくする魔術とかって王族紋章で効かなくなったりするの?」
「種類によります」
リベルゥは無愛想……というかいつもの無感情な声で答えた。
「他人の認識を改竄し自分を認識できなくする──
これは幻術に類するものですが、相手の意識に干渉して来るので紋章が反応し無効化ないし抵抗します
もしくはいわゆる気配等を消して相手に自分がいないと誤解させる──
隠形ともいわれますがこちらは相手が勝手に認識の齟齬を起こして、自分の事を相手が『いない』と認識してしまうので紋章は反応しません」
「? なるほど?」
全然わかってない様子のクルリにリベルゥは溜息をわざとらしく漏らすと、リンゴを取り出した。
「全てのものには『存在する力』のようなものがあり、それはまあ気配等と適当に呼ばれています」
「うん」
「生物にも無生物にも関係なく存在し……我々はそれを受け取って認識の頼りにしています」
と、テーブルにリンゴを置く。
「逆にそれを受け取れないと、人は見えていても、ものがそこに『存在しないはずだ』と思い込んでしまい意識内で齟齬を起こした結果、
そこには何も無いと認識してしまいます」
「ふむ」
「逆もまたしかりです。そこに何もなくてもそれを感じてしまうと意識が『ある』と判断してしまいます」
「うん」
「こんな風に」
「うわぁ!」
目の前にいたはずのリベルゥに後ろから肩を叩かれクルリが悲鳴を上げる。
「今のは私がリンゴに自分の気配を移し、私自身は気配を消して後ろに回り込みました
王子はリンゴから発する私の気配を受け取って私がリンゴの傍にいると誤認していたのです」
「うーん わかるようなわからないような……」
「第一私との訓練の時、気配を消されても紋章は反応していないでしょう」
「それもそうだね」
「王族紋章は強力ですが、決して万能ではありません、お気を付けください」
「うんうん」
クルリは気を取り直してポーチを閉めると剣帯を身に着けようとする。
するとリベルゥはどこからともなく剣を取り出し差し出してきた。
「うん?」
「今夜はこれをお使い下さい」
「お使い下さいって言われても……」
剣からは抜かなくても霊気が漂って来る、受け取って抜くと魔術文字が刻まれた刀身が光った。
聞かずともわかる相当の業物である。
「どうしたのコレ?」
「霊剣ツォルガンドです
それと今夜の討ち入りには少々危険が多いと判断し、私も同行させて頂きます」
「へ!?」
唐突に告げられた内容にクルリが目を丸くする。
「それとダルクも」
部屋の隅にいたダルクが名前に反応してクルリに近寄ってきた。
「いやいやいやそうじゃなくて、何で知ってるの?」
動揺するクルリの質問に対しリベルゥはしれっと返した。
「逆にお聞きいたしますが、一国の王子の動向が何故把握されていないとお考えになるのですか?」
「……そうだね」
「ではお判りいただけたでしょうか」
「いや、でもダルクはともかくリベルゥが来ると保護者同伴みたいでちょっと恥ずかしいというか……」
「お判りいただけましたでしょうか」
「できればダルクだけで……」
「お判りいただけましたでしょうか」
「えーと」
「お判りいただけましたでしょうか」
「……」
「お判りいただけましたでしょうか」
「あーもうわかったよ!」
「ご了承いただき、ありがとうございます」
半分やけになって答えたクルリにリベルゥは慇懃に礼を述べた。
「うちの商会の者が見張っていましたが、多数のハンターが入っていくのを確認できています、間違いないでしょう」
「正解だったようだな、だがこうも簡単に行くと確かに怪しいな──それでクルリ」
グルズ邸の近くに集合したクルリ達。
部下から報告を聞いたウィーグと話していたウェルがクルリに向いた。
「その人は?」
「……うちのメイドです」
「リベルゥと申します、足手まといにはならないよう気をつけますので今夜はよろしくお願いします」
「これどうもご丁寧に……クルリ君とチームをやらせていただいているウェルです」
「クルリ様からお話はかねがね聞いております、いつもお世話になりましてありがとうございます。」
(話してないよ!)
クルリは恥ずかしくてたまらなかったがリディリが面白がって追い打ちをかける。
「ぷぷぷ、クルリのくせにメイド付きなんてなまいきねぇ」
「……リディリも珍しく一緒に来てる人がいるね」
なんとか感情的になるのをこらえるクルリ、その言葉にはリディリの下──つまりリディリを肩車している人物が答えた。
「違う、そもそも私がリディリ様と一緒にいないのが不正常なのだ」
「……そうですか」
この前会った神殿騎士──ミディニは無駄に自信たっぷりに言い切った。
ちなみに鎧も着て完全武装である。
鎧が珍しいわけでもなかろうにダルクが鎧の匂いを嗅いでいる。
「ごめんなさいね~、お嬢様が口を滑らせて」
ガーリヤがいつもの調子で言う。
「まあ闘いの役には立つから今回は加えてあげてね」
「ガーリヤさん、ありがとうございます! てっきり反対されるかと……」
「ミディニ、皆の言うことはしっかり聞くのよ~」
「はい! ありがとうございます!」
リディリを肩車したまま器用にミディニは敬礼する。
「なんだか大事になったな……」
「まあ麻薬をさばいてる元締めをしばきに行くわけだからな」
クルリの呟きをウェルが拾った。
「どうしてこんなことになったんですかね?」
だいたいウェルのせいでクルリまで巻き込まれているのだ。
恨みがましい目を無視し、向こうでリベルゥらが自己紹介しているのを眺めながらウェルは気楽に答えた。
「まあいいじゃないか、終わったら周りに自慢できるぞ」
「……そうですね」
話せる相手はあんまりいないな……とクルリは思う、間違いなく家族に話すのは無理だ。
母が聞いたら卒倒するかもしれない。
「じゃあそろそろ行くか、頃合いだろう」
「……そうですね」
心中で溜息をしながらクルリは答えた。




