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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
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37話 夜逃げ

「ん、どうしたんだ?」

 夜、ウェルはギルドの食堂で、暗い顔をして座っているイヌ族のハンターの若者に声をかけた。

 というのも彼が前に一緒に仕事をした時に、麻薬中毒者とわかっていたからだが。

 何やら勘が働いたのもある。


「悩み事でもあるのか? 良かったら聞こう」

「……ウェルさん」

 よどんだ瞳で言葉を返して来る。

 明らかに思いつめた様子で迷っている。

「……でも」

 周囲をちらちらと気にしている

「大丈夫、君の神に誓って全て秘密する。ここじゃ不味いのなら場所を変えようか?」

 しばらく考え込んでいたが、意を決したようにうなずいた。

「お願いします、実は──」




「今日が集まる日で助かった」

 翌日の朝、歌う波音亭の個室でウェルはチームを集めて言った、ウィーグもいる。

「どうしたんですか、わざわざこっちまでどうして」

「そうよ、めんどくさい」

 ギルドに集まった所でこちらまで歩いてきたのだ、クルリの言葉にリディリが同調する。

「簡単に言えば、今夜グルズ邸に突入する」

「はい?」

 ウィーグが聞き返すがリディリの声にかき消された。

「やった! とうとう悪をたおすのね!」

「あの、なんで僕たちが」

「うるさいわよクルリ!」

 クルリの疑問もリディリに一喝される。


「あの、ですねもう少し説明を」

「説明なんていいじゃない! むしろいまから行きましょう!」

 またもウィーグの言葉が遮られたがウェルはリディリを無視した。

「説明すると今夜ビルズフルがハンターを雇って逃げ出すようだ、そこを押さえる」

「あの、もう少し」

 ウィーグの言葉にウェルが頷く。

「詳しく説明するのはめんどくさいんだが……

 昨夜あるハンターに会ったんだが、そいつは麻薬をやってて一昨日売人に今夜働くよう脅された」

「あなた知り合いに中毒者がいたの?」

「そいつには中毒はなんとかしてやるから絶対に行くなと言っておいた」

 リディリの声を無視してウェルは続ける。

「ティーリに確認したところ今日の依頼を不自然にキャンセルする若手チーム達や……

 裏仕事を請け負っている疑いのあるチーム達があるとの事だ」


「つまり?」

「よくわからんが麻薬の売人──グルズ家がそんなハンターを集めてする事と言えば夜逃げ──恐らく国外逃亡しかない」

「あのーちょっと強引過ぎませんか」

 クルリの言葉にウェルは首を振る。

「そもそもハンターがギルドを通さず依頼を受けるのは禁じられているんだ」

「そうなんですか」

「まあギルドは主に依頼の手数料で運営してるからな、それに私的な依頼は放置すると裏仕事の温床になる

 ただでさえハンターギルドは内側に裏仕事をする組織を抱え込んでしまっていると言っていい

 俺達を襲撃したハンター達みたいな奴らが所属しているわけだ、勿論ギルドはそんなモノ許す事は出来ないがいたちごっこだな」

「はあ……」


「もちろん緊急だったりなんなりで私的に依頼を受けても一筆書いてもらって、後から手数料を納めれば問題無いんだが」

「しかし待って下さい、いくらハンターを集めたって夜逃げなんて無理でしょう」

「うーんそれはわからないんだが、門番を買収してとかか……何か抜け道があるんじゃないか?」

 ウィーグの疑問には今まで黙っていたガーリヤが口を開いた。

「グルズ家は建国当時からある家……恐らく外につながるこの国の古い地下道の出入り口が邸宅にあるのかもしれません~」

「そんなものが……?」

 ウィーグは疑わし気である。

 むしろ横でクルリが驚いた。

 クルリは王族だから知っているが、有事の為にある王都地下道は一部の人間しか知らない機密である。


「そんなのよく知ってましたね」

「ええ~まあたまたま知ってまして~」

 気になって聞いたみたがはぐらかされた。

「じゃあそれだな、それで夜というのもわかる

 夜九時の閉門の後で街道から人気が無くたったら脱出して、国境の街まで強行軍して発覚する前に隣国に逃げる気だろう」


「というかウィーグさんの商会に伝えて任せておけば……」

「ウィーグもハンターではあるが、今のところ証拠の無いグルズ家をハンターを無許可で集めてるというだけで商会は動けないだろう

 俺たちのチームならハンター規則違反を押さえるという口実で突入してもまあおおむね言い分が立たないことも無い、ティーリに伝えてあるしな

 そこでたまたま商会所属のウィーグが逃げようとしているビルズフルから麻薬関係の証拠を掴む

 うん、完璧だ」

「よくわかんないけどかんぺきね!」

「……上手くいけば一気に解決できますね、商会の人間を周囲に配置しておきましょう」

 リディリとウィーグも賛同する。


「うーん……なんでいきなり夜逃げなんですか?

 しかもいままで完璧に証拠を掴ませなかったのに」

 もはや流れ的に逃げられそうにないので諦めたクルリだがなんとなく言った言葉に一同が止まる。

「うーん、最初から逃げる事前提で期限を決めていたとか、もしくはこの間のお前たちの尾行がやっぱりバレてたんじゃないか」

「この間はバレてないって言ってたのに……ハンターを雇うなんてバレやすい事をしたのは?」

「それは……うーむ」

「誘われている……のかもしれませんね」

 呟いた言葉でガーリヤに視線が集まる。


「ふむ……俺達を?」

 ウェルが聞き返すとガーリヤはいつもの調子で両手を振る。

「いえ~なんとなくそう思っただけです、なんにせよ館には雇われたハンターが沢山いる筈です

 大丈夫ですか?」

「まあ数は多そうだが……大したことはないだろう、用心するに越したことは無いが」

「お嬢様、用心ですよ~」

「だいじょうぶ! 正義は勝つのよ!」

「なんか特に疑問は解けてないような……」

 乗り気ではない呟きをするクルリにウェルが声をかける。

「クルリもちゃんと準備するんだぞ、闘いになるかもしれないからな」

「ええと……はい」

「よし! じゃあ一旦解散して準備をしてから八時にグルズ邸に突入できるよう集合しよう」

「おー!」

 話をまとめたウェルに元気に返事をするリディリ。

 クルリは何か嫌な予感がしていたが結局流された。






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