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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
35/44

35話 収穫

「あっ息子さん浄化してあげないと」

「あっ忘れてたわ」

 そのまま帰る所だった、二人は危うく解散しかけた所を引き返す。

「そういえば麻薬に汚染された精神は浄化しても完全には治らないって聞いたけど……」

 クルリの疑問にリディリは軽く答えた。

「あーそうらしいわね」

「らしいって」

「なんか赤く染まったものをひょうはく?しても完全に色落ちしない? みたいな? ガーリヤが言ってたわ」

「人間の精神はシャツみたいなものなの?」




 翌日、波音亭。

「これは……グルズ邸ですね」

 個室で広げられた地図、得意満面のリディリに指し示された場所を見ながらウィーグが呻くように言う。

「ふふーん! やっぱりね!」

「お嬢様~お手柄ですよ~」

 ガーリヤがリディリを撫でながら言う。

「んふふふふ、さあ捕まえに行きましょう!」


「いや、駄目だろう」

 リディリが宣言すると横から止められた。

「なんでよ!」

 口出ししたウェルにリディリが食ってかかるとウェルは当然のように答えた。

「だって証拠が無いだろう」

「わたしが見たじゃない」

「お前が衛兵で現行犯だったら証拠になったろうがな」

「むむむむむ、もんどうむようで突入して証拠を見つければいいのよ!」

「名案だが、巧妙に隠してあったりして見つからなかったらその時は逆に俺たちが犯罪者だな」

「むむむむむ」


「それに……」

 ウェルはウィーグをチラリと見る。

「そもそもグルズ家が犯人なのは前からわかっていたんだろう?」

 いきなり話を振られたウィーグは狼狽うろたえながらも答えた。

「え!? ええ……はい」

「ええええ!?」

 リディリが叫ぶ。

「なんなの!? そんなこと言ってなかったじゃない!」


「ええと……わざと話していなかったというより、そもそも別に皆様に麻薬の捜査をお願いしていたわけではなくて……」

「わたしのお手柄はどこいっちゃったの!?」

「え、いやはい、いやでも売人がグルズ邸に入るのを見届けたのは凄いですよ

 我々もグルズ邸を何度も見張ったのですが何も収穫は無かったのですから」

「むーん」

 不満気に唸るリディリ、するとウェルがクルリに話しかけて来た。

「そう言えば見つかってないだろうな」

「? というと?」

「尾行してるんだから相手の仲間に逆に尾行されたり、相手が邸宅の中から広場を監視してたら見つかるだろう」

「えっ」

「えっ」

 声が揃う。


「その発想は無かったですね……」

「馬鹿者め」

「いやまあ……はい」

「まあ俺としては見つかってるかより、何でクルリが相手を認識出来てたかの方が気になるが

 ウィーグ達が今まで全く捕捉できなかったのが認識阻害の魔術だったとしたら相当の魔術だぞ」

「我々もその可能性は全く考えていなかったわけでは無く、魔術士を雇ってみた事もあったのですが無駄だったんですよ。

 どうですかガーリヤさん」

 ウィーグがガーリヤに話を振る。

「え~私ですか~」

「いや、あなたも魔術士でしょう」

「うーん売人が魔術士、というより認識阻害の魔術の道具を使ってる素人っぽいですね〜

 恐らくそんな手練れの魔術士だったら途中で尾行に気付くでしょう、

 とりあえず本拠地に戻らず仲間に何かしら連絡を取ってお二人を襲撃すると思います」

「良かったな、危ない所だったぞ」

「えええ、やらなきゃ良かった……」

 軽口を言ってくるウェルだがクルリは心底後悔していた。


「そんなの返り討ちにしてやるわ!」

「お嬢様~危ない事は駄目ですよ~」

「えええ、さっきは褒めてくれたのに~……」

 不満気にいじけるリディリ。

「で、何でクルリには阻害が効かなかったのはわかるか?」

「え~そうですね~流石に偶然は無いでしょうから、才能とか資質でしょうか~」

「適当だな…」

 当てにならない答えにウェルは落胆する、まあそもそもそんな期待していた訳でも無いが。


「まあともかく、恐らくバレてはいないだろう」

「何でですか? いやその方がいいですけど」

 ウェルの言葉にクルリが反応する。

「グルズ邸の前の広場で長時間ボケっとしてたろう、もしバレてたら襲う準備をするのに充分だ」

「あーなるほど」

「けっきょくどうするのよ!」

 焦れたリディリが口を挟んでくる。

「どうって……最初からウィーグの問題であって俺たちは関係ないだろう。」

「そんなの正義に反するわ!」

「むぅ……正義か……」

 リディリの言葉に狼狽えるウェル。


「なんで心が動きそうになってるんですか」

 乗り気になられても困る。

 クルリは強めに突っ込んだが、なにやらウェルは心が動いている様子だ。

「ちょっと聞いてますか?」

「ん? ああ、まあ今回のはお前たちのお手柄だろう。 ウィーグがなんか御馳走してくれるんじゃないか?」

「え? ああいや、勿論よろしいですよ。好きなものを頼んでください」

「やった!」

 御馳走、という言葉に素早く反応してリディリはすでにメニューを開いている。


「どうするんだ?」

「と、いいますと?」

 他の三人がメニューを見て選んでる間、ウェルの言葉にウィーグが聞き返す。

「阻害を突破できるような強力な魔術士の当てはあるのか?」

「難しいですね……この国は魔術はあまり盛んでは無いですから」

「というかガーリヤを雇えばいいんじゃないか。あれほどの魔術士はそうはいないぞ」

「最悪お願いしないといけないのですが……ガーリヤさんほどの人を雇うとなるとなかなか」

 迷ったようにチラリ、とガーリヤを見るウィーグ。

 当のガーリヤはリディリの頼もうとしている肉料理を厳しく却下している。

「よくわからんが最初会った時は神殿の居候とか言ってたし呑気に一緒にハンターもやったが……」

「ガーリヤさんは公式には神殿の居候という事になっているのですが……まあ察して下さい」


 まあ薄々というかそこら辺は大体わかってはいた。

 前にウィーグと折衝をしていたし、あの実力の魔術士が単なる居候のはずはない。

 表向きは居候だが神殿の要職か……何かしら重要な位置にいるということだ。

「まあ。ガーリヤが駄目ならクルリにもう一回やらせればいいわけだしな」

「……ええと、まあ。どうしてもという時はお願いするかもしれませんね」

 苦笑いしながらウィーグは答えた。


 

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