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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
31/44

31話 朝2

「で、なにするの?」

 リディリに急かされて外に出たもののクルリには目的も何もわからない。

 まあガーリヤが面倒をみてくれとかなんとか言っていたから、適当にリディリの我儘に付き合っていればいいのだろう。

「ふっふっふ、今日はうるさいガーリヤもいないわ……」

 リディリは何やら胸を張り宣言した。

「私たちで麻薬の捜査をするのよ!」

「ええー」


「私たちで悪を倒し正義を広めるのよ……今日はうるさいガーリヤもいないわ!」

「別に僕たちがしなくても他の皆が頑張ってるしいんじゃないかなー」

 クルリがやる気なさげに言っても食い下がってくる。

「なに言ってるの! 誰かが頑張ってるなんて駄目よ! 正しいことは全ての人間がなすことを神さまはお示しなされているわ!」

 さすが大主教の孫娘だけあって正義感も強いようだ。

「うーん、具体的にはどうするの?」

「ぐたいてき……?」

「うん」

「……捜査をするのよ!」

「いや、もっと具体的に」

「……正しいものには悪はかならず立ちふさがってくるわ!」

「つまり?」

「ともかくとりあえず捜査をするのよ!」




 スルフナン西通り、文字通り王都の西門から西区を突っ切って中央区へ続く大通りである。

 内乱で焼けた西地区は戦後の復興と拡張をほぼ白紙からできた結果、通りは道幅も広く区画も整然としている。

 結果、西通りは丁度真ん中にある中央広場を中心に、王都全体の中でも賑わっている方といっていい。

 西通りは広く直線であるため西門から中央区への門まで直線で一望できるのは壮観である。

 戦火により農地を失った農民、西の国から来た移民のネコ達、新しい場所に商機や居場所を見つけて移り住んできた王都の他の住民……。

 それらはいまだお互い層として固まりきってはいないが、それゆえ雑多に混じり合っているがゆえの活気を見せている。



「クルリ! あれは何!?」

「ルクル鳥の肉まんだよ」

「買って!」

「はいはい」

 当然のように通りを食い歩きになっている、そして当然のようにクルリが全部金を払っている。

 聞いてみると小遣いも少なく、ハンターの収入もガーリヤに全部管理されているらしい。

 神殿が清貧を旨とするにしても、大主教の孫が想像以上に厳格なのにクルリは驚いた。

 それに比べたらクルリは城から出て遊び歩いていると言っていい。

 というかまあ事実その通りなのだが。


 と、いう訳で年下の少女に若干の気まずさを覚えているクルリは好きに買ってあげた。

 クルリはハンターの収入を全部財布に入れているし、子供が飲み食いする程度、歌う波音亭を根城にするのに比べたら大した事ではない。

「ふふひ! はれほふぉふぃたいは!」

「はいはいジュースね。 ブドウとリンゴどっち?」

「ひんほ!」

 リディリは口に肉まんをほうばらせながらジュースを流し込む。

「ぷはー! 最高ね!」

「それは良かった」

 通りの散策を満喫するリディリを眺めながらクルリは自分が何をしてるのか少し疑問に思ったが、まあ考えない事にして肉まんをかじった。

 今日は良い天気だ。




「お前たちの企みは全て承知である!」

 舞台の上で役者が声を張り上げて悪人役達に決め台詞を言い放つ。

 何故か劇場で芝居を見ている。

 それはともかくクルリは家族でボックスの特別席でしか観劇をしたことが無いので、一般席で見るのは新鮮だった。

「ええい、このような所に王子がいるわけがない! ものども出会え出会え!」

 劇の内容はどこかの国の王子が市井に潜り込んで世直しをするという陳腐なものだが、リディリは食い入るように目を輝かせて見ている。

 食事もそうだが娯楽にも飢えているのだろう。


(世直しねえ……)

 なんで王子がそんな事をしているのかはクルリには謎だが、世を正す使命に駆られている王子は舞台の上で悪人たちをバッタバッタと華麗に斬り倒している。

 リディリは興奮して手に汗を握っている。

(あれ殺してるのかな……?)

 どうでもいい所が気になるクルリ。

 西地区の劇場はスルフナンの王立劇場ほどでは無いが大きく立派である。

 もしかしたら役者は王立劇場から出張してきているのかもしれない。


 クルリが取り留めのない事を考えると劇が終わった。

 悪の首謀者はひれ伏して命乞いをし、手下たちもそれにならっている(殺してはいなかったらしい)。

「これにて一件落着!」

 王子役が締めの言葉を発し観衆の拍手の中、幕が下りる。

 リディリは感動の余り涙を流して拍手をしている。

(そんなに……!?)



 劇場を出ると日が高くなって来ている。

 そろそろ昼食の時間である。

「どうする? 早いけど歌う波音亭でお昼にする?」

 クルリの提案にリディリは真剣に首を捻って悩んでいる。

「波音亭はこのあいだ御馳走してもらったばかりなのよねぇ……」

「そういやそうだった、あそこであんな高い料理食べたの初めてだったよ」

「じゃあしばらくはいいかしら、また今度クルリにおごってもらえばいいし」

「うん?」

「中央区まで歩いてお昼にしましょう。

 中央ギルドの近くに行きたかったレストランがあるの、ガーリヤはもちろん連れてってくれなかったけど。

 ちょっと歩くけど時間的にはちょうどいいわ」

「そうだね、じゃあそうしようか」

 そのレストランがあまり高くないことを願いながらクルリは歩き出す……が、後ろを見るとリディリが立ち止まっている。

「どうしたの?」

「いや……なにか忘れているような……?」

「何かって?」

「うーんまあいいわ、早く食べに行きましょう」



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