28話 フラバナ2
「さあじゃんじゃん食べてくださいね」
「いただきますっ!」
歌う波音亭の個室、フラバナの声にリディリが真っ先に反応して豪勢に並べられた料理に飛びついた。
料理の前に機嫌はすっかり治っている。
主に肉を取り皿に懸命に運ぶが、隣のガーリヤに野菜を無理やり追加させられてなんとか除けようとしているがガーリヤ相手には無駄な努力のようだ。
他のメンツはおもむろに食べ始めている。
「おいしいですねー、高いだけあります」
高いものから順に頼んだのだ、半分ここに住んでいるクルリでも見た事のない料理ばかりである。
「うん、美味いな」
普段は食べる事に無頓着なウェルも上機嫌で食を進めている。
一方フラバナは一品一品を慎重に味わいながらぶつぶつと呟いている。
「うーん、世界を旅して来ただけありますねえ」
「世界?」
フラバナの独り言に反応してクルリに聞いた。
「ここの店主は兄弟子なんですよ、まあ修行時代が被ったことは無いんですが」
「しかし世界とは広いですね」
「噂では東の果ての海まで行ったとか……料理のためとはいえご苦労な事ですねぇ」
「はあ……」
世界を旅とは、クルリには想像もつかない。
知識としては世界の地図というものを見て教えらたことはあるが、
せいぜい実感があるのは西にネコの国があり北は人間の国があるという位だ。
「まあちょうどこの国が内戦だった頃に外国にいたのは運がよかったですかね。
うーん私も旅に出ますかねぇ、めんどくさそうですが
この国だけで腕を極めるというのも難しいんでしょかねえ、
結構私も認められてきた感はあるんですが」
フラバナは一通り喋った後、食事に戻ろうとしてふと手を止め、クルリを見て来る。
「そういえばクルリ君はこの国の王子様と名前もライオンというのも一緒ですね」
「っ?!」
唐突に振られた話題にクルリがむせそうになる。
「なんでこの国にライオンの王子様がいるのよ」
リディリが話に加わってくる。
「お嬢様……この国の第一王子様はライオンなんですよ」
ガーリヤが説明を始める。
「なんで?」
「王様の最初のお妃さまが西の国のライオンの方だからです。
それで最初の王子はライオンにお生まれになったので、もう一人お妃がこの国のオオカミの方から選ばれ、
その方からオオカミの王子が生まれたためその王子様が王太子となられたのです」
「ふーん?」
「前に勉強しましたよね?」
「そうだったっけ? それにしてはクルリが王子様と名前が一緒ねぇ。贅沢だわ」
リディリは話しながらも肉料理を食べるのに余念がないので上の空である。
「まああ偶然だねえ、まあ西のネコではよくある名前なんじゃないかな?」
クルリは平静を装いながらサラダをよそった、苦しい言い訳なのかもしれないがまさかバレはしまい。
そもそも名前を全部変えてギルドに登録すればよかったのだが、
違う名で呼ばれても分かりにくいしまさか繋げる人間もいないだろうとたかをくくっていたのだ。
「そもそも最初からオオカミの嫁を貰えばいいんじゃないか?」
早くこの話題を切り上げたいがウェルが話題を突っ込んでくる。
「まあ……男女の事ですし、いろいろあったらしいのですが、基本は母方の獣族になるとはいえ父方の獣族になることもありましね
先のライオンの王妃…ルフラ王妃の第二子、第三子の双子の王子様王女様達はオオカミですし」
すっかり説明役となっているガーリヤ、妙に詳しい。
そして余計な一言を言ってきた。
「クルリ君と年頃も一緒だし、もしかしたらクルリ君が王子様だったりね」
「はははは、そんなまさか」
若干乾いた声で引きつりながらもなんとか対応するクルリ。
「あはは! そんなわけないじゃない! こんなどんくさいのが!」
リディリの散々な言い様だが今のクルリにはありがたかった。
「まあーハンターには詮索はご法度らしいですからねえ、身分を隠してる人もいるかもしれませんねー
最近皆さんはどうなされてるんですか?
なんかブラブラしてる事が多いですけど」
フラバナがどうでも良さそうに話題を変える。
「まあ一人、都合があって殆ど抜けてるからな」
「私たちは麻薬を追ってるのよ!」
「おい」
ウェルがせっかくぼかした所をリディリがそのまま言った。
「麻薬?」
「そうよ……恐ろしい麻薬なのよ、それは恐ろしい麻薬なのよ」
「情報が少ないぞ、じゃなくて余計な事を部外者に話すな
一応内密の話なんだぞ、そもそもお前は何もしてないだろう」
忙しく突っ込むウェル、フラバナは他人事だけあって気楽に答えた。
「麻薬ですか……大変な話ですねえ」
「フラバナは何か知らない?」
リディリの唐突な話題にフラバナが首を捻る。
「麻薬……麻薬には興味はありませんしねぇ
麻薬じゃなくて麻薬みたいな料理を作れるなら興味はありますが」
「それって結局麻薬と一緒なんじゃないか?」
ウェルが突っ込む。
「まあ医食同源とも薬毒同源とも言いますからね、究極的には不可分かもしれませんが……
栄養のある食事で体調を整えたり味や満腹感で幸福を覚えるのも、
麻薬で多幸感を得るのも機序的にはまあ似てると言えなくもないですかね
ですけど実際的には麻薬は所詮麻薬ですしねー、まあ中毒性依存性が一番の──」
なにやら小難しい事をぶつぶつ言うフラバナ。
リディリがしびれをきらして声をあげる。
「そんなのどうでもいいから役に立つことはないの?!」
「え? うーん、そうですね……」
言われて考え込むフラバナ。
「ふむ、一つ心当たりがあるかもしれません」
「ええっあるの!?」
リディリは自分で聞いておいて逆に驚いた。




