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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
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26話 神殿騎士

「本当にすみません!」

「ボンダウニズミバゼン」

 翌日、歌う波音亭にてガーリヤはクルリを見つけるなり、ミディニと一緒に頭を下げ謝罪した。

 ミディニの声がくぐもっているのはガーリヤの手が首に食い込んでいるからだ。

「ええと……いいですよ別に、貴重な体験でしたし」

「ボラ、グルリモ、ゴウイッデ……グババババ!」

 ミディニが口答えをしたと判断したガーリヤが手から魔力を流しこむ。

「うあ……あの、ちょっとやりすぎでは」

「いえ、この子は全然反省しないんですもの……もう精神鍛錬部屋決定ね」

「ゴバ! ゾレダゲバ! グバババ!」

 なお口答えするミディニに改めて魔力を流し込むガーリヤ。

 痙攣した後、動かなくなるミディニ。


「……精神鍛錬部屋ってなんなんだ?」

 クルリと一緒にテーブルに座っていたウェルが疑問を挟む。

「……お聞きになられますか?」

 ピクリ、と動きを一瞬止めたガーリヤが、白目を向いて失神しているミディニを首で掴んで持ったまま答える。

「いえ! いいです! 何か怖いし!」

 慌ててクルリが遮る、これ以上変な事に関わりたくない。

「そうですか……いえ、部外者の方にわざわざ話す事でもありませんけどね。

 あ、いえ勿論クルリ君たちは同じチームの仲間ですけど!

 あと別に変な場所でもありませんよ!?」

 クルリとウェルの胡乱うろんげな視線に慌ててフォローするガーリヤ。

 妙な沈黙が降りたがガーリヤがわざとらしい咳払いをした。

「ではクルリ君ウェル君、今回はこの子が本当に申し訳ございませんでした」 

「別にいいんじゃないか? マフィアなんて殴るのに丁度良さそうだし」

 ウェルの発言にクルリは胡乱な視線をウェルにも向けた。

(やっぱり同類なんじゃ……)

「ん? どうした」

「いえ、なんでも」

 二人のやり取りが終えるとガーリヤは何度も頭を下げ、歌う波音亭を辞して行った。

 ミディニの首を掴んで引きずりながらだったが。




「そういえば護衛をやっていた時、相手がハンターだって言ってましたよね」

「本当にそういえばだな、ああ、ハンターに間違いないぞ。北の方からわざわざ雇ったんだろう」

 ガーリヤ達が来たので中断していた昼飯を再開しながらウェルは答えた。

「なんかウェルさんの事も知ってる風でしたしね」

「それはただの人違いだろう、俺に似た奴なんていくらでもいるだろうからな」

「はあ……まあそれは置いておいてハンターが違法な事を請け負うなんてあるんですか?」

「いっぱいあるぞ」

「でも、ハンターが罪を犯すと……」

「粛清されるな」

 あっさりと言い切るウェル。


「じゃあなんでそんな事を」

「逆だ、犯罪に手を染めるハンターが多いから見つけ次第に粛清せねばならんのだ」

「というと?」

「組織が大きすぎて末端から中核まで制御しきれないからな、必ずどこか腐っていく。

 ハンターは来るもの拒まずだからその弊害だな」

「一回徹底的に根絶させればいいんじゃないんですか?」

「大体はグレーゾーンを隠れ蓑にしているからな、どっかからどこまでというのも難しい

 マフィアだって表向きは堅気に手を出さないとかいろいろ建前を持って一線を越えないようにしている……

 が、いざとなったら手を出すし本当にヤバい連中とパイプを持ってる

 ハンターの中でもそんな感じで隠れてるのさ」

「じゃあこの国のハンターにもいるんですか?」

「もちろんいるだろうな。襲ってきたハンターが他の国からだったのは足をつかせないためだろう」


『麻薬の話だが、もちろんウチはやっとらん、そんな事をしたら国に組ごと潰されて終わりだ』

 クルリの脳内で昨日のマフィアのボスの台詞が思い出される。


「じゃあ入る人間をちゃんと審査したらいいんじゃないんですか?」

「そしたら入ってくる人数がガクンと減って組織が先細りして終わる」

「聞いてるとギルドがうまく行く要素が無いように思えるんですけど……」

「ハンターになるときハンター憲章とかいう冊子にかいてあったろ?

 ハンターは人類の発展に云々とか、そういう建前をちゃんと信じたり……

 まあ悪人になるよりはまっとうに生きたいって奴の方が多い内は、自浄作用でなんとかなるのさ」

「うーん、いまいち実感できませんね」

「まあ結果なんとなくそうなってる感じくらいに覚えておけばいい、今日はどうする?」

「今日は実家に帰るんで夜には帰らないと」

「じゃあそれまで適当に稽古でもするか」




 夜、西宮にしきゅうにて弟妹が寝た後、クルリはリベルゥに尋ねた。

「リベルゥ、神殿騎士ってどんなのなの?」

「前に一度説明は申し上げたと思いますが……」

「いや、なんというか改めて気になって」

 ミディニが標準ならとんでもないところである。

「さようですか、神殿騎士はこの国が教会が持つ騎士団です

 ギルドのハンターを武力として除けば国から独立した唯一の武力組織となります

 まあ教会が国と反目することは考えられませんが」

「うん」

「そのため厳しい選抜を経て武芸、法術、祭礼に通じた者で構成されており」

「うん」

「神殿にて実力と責任のある者として人品ともにふさわしいエリートで構成されています」

「うん……」

 人品か……クルリは遠い目になった。

 ともかくミディニが基準では無いらしい、幸か不幸かはわからないが。

「なにかあったのですか?」

「いや、何でもないよ」

 そのエリートに連れられてマフィアに殴り込みに行ったと告げたらリベルゥがどう反応するか気になったが、グッと堪えたクルリであった。

「じゃあおやすみ」

「おやすみなさいませ」






「リヤンサさん聞いてくださいよ、変な神殿騎士に連れ出されてマフィアに殴り込みに行かされたんですよ」

「うーん、困ったね」

「困るなんてもんじゃなかったですよ、順番にマフィアと殴り合いになったんですから」

「うーん、想定以上かもしれないね……」

「でもなんか意外と勝っちゃいました、僕って意外と強くなってるんですかね?」

「うーん……」

「リヤンサさん?」

 リヤンサを見るとこっちを見ておらず中空を見つめている。

 今までのも受け答えも独り言だったようだ。

「どうしたんですか?」

 しばらく待つとリヤンサが視線を落としてこちらをみてくる。

「ちょっと厄介そうだね」

 と、席を立つとこちらに近づいてきた。

「どうしたんですか?」

「ちょっと入念に念を入れようと思ってね」

「というと?」

 リヤンサはそのまま近づいて来て、風邪のときに熱を測るように額同士をくっつけた。

「?」

「ちょっと我慢してね」

「へ? アバババ!?」

 唐突に直接大量の魔術を流し込まれ、クルリは意識を失った。



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