25話 マフィア
沈黙の中、ミディニは堂々と言った。
「騎士に二言は無い」
「いや、理由を聞いてるんだけど……」
「しかもなんでお前が保証する側なんだよ」
クルリとマフィアに突っ込まれても悠然としているミディニ。
クルリが諦めに近い心境の中、動いたのは手近のマフィアだった。
「つまりこの坊主を俺達が逆に倒せば、お前は帰るんだな?」
「いいだろう。闘いとは神聖なもの、私は手を出さなと約束しよう」
「むしゃくしゃしてる時に殴りに来てるくせに……」
クルリは呟いて向かって来るマフィアの一人に向き直った。
「坊主、恨みは無いがこいつの仲間なのを後悔しな」
「すごいしてます」
間合いに入るとマフィアは無言で殴りかかってきた。
マフィアらしく暴力には慣れているらしい、鋭い。
しかし。
(遅い……)
クルリにはゆっくりと言ってよかった。
そもそも無駄に強い大人たちにしごかれて来て、ハンターとして研鑽を詰んだクルリにマフィア風情では敵う訳がない。
「くっ! この!」
マフィアはクルリに全く攻撃が当たらない事に焦り始める、動きが雑になったところでクルリは軽く顎にストレートを決めた。
顎を打たれ倒れるマフィア。
「チッ! 次!」
ミディニが鋭く次を促す。
「いまチッって……」
「手前に言われるまでもねえ! 坊主! 覚悟しな!」
「ベッグ! 気をつけろ……ただのガキじゃねえぞ」
「ジーヴォ、言われるまでもねえ、あいつがわざわざ連れてきたんだからな……」
ベッグとやらは格闘の心得があるようでガードをあげながらジリジリと近づいて来る。
ジャブを打ってくるが結局は先のジーヴォとやらとあまり変わらなかった。
焦れて打ってきたストレートをクルリにカウンターを決められて崩れ落ちる。
「ベッグゥ!」
倒れるベッグにジーヴォが叫ぶ。
(僕って意外と強いのかな?)
クルリは自分の拳を見ながら疑問を覚える。
今まで周りの比較対象が強すぎたため強くなっても実感が無かったのだ。
「クソッ! 次だ!」
「グォッ!?」
ミディニの八つ当たりの蹴りが腹に入り悶絶するジーヴォ。
ベッグはこの中でもそこそこ強かったらしい、マフィア達の中で動揺が広がる。
互いに目配せするなか奥で腕組みをしていた巨漢が前に出て来る。
「俺がやろう」
それを見てミディニがニヤリとする。
「ビラッヅか……期待しているぞ」
「さっきからなんかおかしくないですか?」
もちろんミディニが答える筈もない。
「行くぞ坊主」
ビラッズは確かに先の二人とは動きが違った。
動きもよく巨体からのパワーもある。
が、ウェル達ほどの鋭さもなく、魔獣ほどの力も無い。
攻撃を捌き切り、フックが来たところでアッパーを顎に決めて終わった。
「やるな坊主……」
ビラッズが顎を揺さぶられ膝から崩れ落ちる。
やはりビラッズが一番強かったらしく、マフィアたちに改めて動揺が走る。
そこにミディニがつかつかと歩いてくる。
「役立たずがッ!」
倒れたビラッズをげしげしと蹴る。
「ぐっ! おい、手前! やめろ!」
ビラッズが抗議の声をあげるもミディニは蹴りながら怒りの声をあげた。
「そいつがピンチになったら! 颯爽と助けて! こいつがそれをお嬢様に話せば私の株が上がる作戦だったのに! この役立たずどもが!」
「……そんなことを考えていたんですか」
「……手は出さないとか闘いは神聖とかなんとか言ってなかったか」
ビラッズが蹴られる中、なんとなくしらけたムードが漂う。
一通り蹴り終えて満足したミディニが見回して、ふぅと一息つく。
「さてどうするかな」
「知らねえよ……」
その場の全員の気持ちを誰かが代弁した。
「貴様ら何をしている」
「ボス!」
扉から恰幅のよい、そして眼光の鋭い犬の中年が出て来る。
ボス(というからにはマフィアのボスなのだろう)は周りをジロリと見回すとミディニを睨んだ。
「また貴様か、少しは神殿騎士の自覚を持ったらどうだ」
「ふん、マフィアに言われずとも十分持っているつもりだ」
「貴様にはつける薬が無いな」
ボスは言い放つと今度はクルリを見た。
「麻薬を追っているんだろう、話してやる。来い。」
「いいんですか?」
「そいつに暴れられるよりかは全然だ」
建物の三階、クルリとミディニは恐らくマフィアのボスの部屋なのであろう一室に通されてお茶を出されていた。
まあいかにもマフィアのボスの部屋と言った感じである。
窓からは通りがよく見える、つまり騒ぎは全てここから見られていたのだろう。
クルリがお茶に手をつけてよいものか迷っていると向かいに座っているボスが話しかけてきた。
「毒なんぞ入ってないぞ」
「え、いえ」
「気付かれん程度の量ではそいつの騎士紋章が勝手に解毒する。どこまでも厄介な奴だ。」
隣でお茶をお代わりしているミディニを指しぶっきらぼうに言う。
クルリは愛想笑いをしながら自分の背中を意識した。
クルリには王族用の魔術紋章が背中に刻まれている、ミディニの紋章よりずっと高度なはずで並大抵の毒では大丈夫であろう。
もとより暗殺の危険のある王侯貴族の紋章はその機能が高い。
クルリがお茶をすすり始めるとボスが話し出した。
「で、麻薬の話だが」
「はい」
「もちろんウチはやっとらん、そんな事をしたら国に組ごと潰されて終わりだ」
「はあ……」
「だが最近になって麻薬の噂を聞くようになった……マフィアの下っ端にも少しづつ広まっているようだ」
「マフィアの人にも?」
「ああ、厄介な麻薬だ。中毒者か中々判断がつかん、そして本題だ」
ジロリとクルリ見て来る、ミディニは完全に無視している。
「うちらでも少し追ってみたことがある。売人はスラムのガキや食い詰めた浮浪者だ」
「はい」
「だがそこからはさっぱりだ、煙を追うように何も見つからん。」
「というと?」
「そのままだ。そいつらに薬を卸してる奴らがどうやっても見つからないんだよ」
初めて聞く話である、が目の前のボスが嘘を言っているようにも見えない。
「以上だ」
「へ?」
「これで終わりだと言っているんだ、とっととそいつを連れて帰れ」
ボスは立ち上がると奥の豪華なテーブルと椅子に向かっていった。
クルリは慌ててお茶を飲み干すと立ち上がって礼を言った。
「え、ええとありがとうございました。 ほらミディニさん、帰りますよ」
「ん? ああ、ちゃんと聞けたか? 全く手間をかかせるなお前は」
「……ミディニさんが無理やり連れてきたんですよ?」
言っても無駄である、だがクルリはわかってても言うしかなかった。




