22話 散歩
ギルドの依頼を受けるのに、共同受注というものがある。
ウィーグがクルリやリディリにゼリー狩りを教えていたのも入るが、文字通り複数のチームや個人が共同で依頼を受けるシステムである。
これにより一つのチームでは力不足になる依頼を達成できるようになるわけだ。
ハンター同士が相談して組むこともあるが、大抵はギルドの受付に頼めば適当な相手を斡旋して組ませてくれる。
「ああ、ウェルさん今日はクルリ君がいない日ですね。どの依頼を受けるんですか?」
「いいや、これからは一人の時は共同を受けようと思う」
「……?」
ティーリは動きを止めてウェルを見ている。
「食堂にいるから適当なチームの手が足りなかったら呼んでくれ」
「……?」
「どうした?」
「いえ……何故? ウェルさんは一人で出来る実力もありますし報酬は人数で分配になってしまいますが……」
「何故って」
ウィーグ達スィラーン商会が麻薬を追っている。
ウェルも最近一人で狩るのも飽きてきたし、何かしらしようと考えて思いついたのがこの共同受注である。
大抵ハンターはその日暮らしであぶく銭がある上にモラルの高い集団でもない、麻薬にも手を出しやすい。
ここのハンターにも手を出してる人間がいるかもしれない、一緒に仕事をしていけば調査になるだろう。
ただティーリに言う訳にもいかない。
「いや、他のハンターとも仕事をするのもいいと思ってな」
「大きな依頼も無いですし、正直一人でやるよりかなり報酬も目減りしますよ?」
「大丈夫だ」
「正直、新人のお世話や中堅のヘルプになりますよ?」
「構わない」
「……慈善活動に目覚めたんですか?」
「……別にそういう訳でもないが。ウィーグもやってただろう」
「……? はい、わかりました」
数日後。
「ウェルさん、最近は他のチームを助けて依頼受けてるんですか?」
「ああ、まあそんなところだ」
今日はクルリとリディリがいるのでウィーグを抜いた四人(と一匹)で魔獣を狩り、帰る途中である。
最近は魔獣を見つけたらリディリが攻撃の法術を最初に撃ち、そこから流れで魔獣を狩っている。
当然当たらないがリディリは思い切り法術を撃てるだけで最近は満足しているようだ。
最初の法術に驚いて魔獣が逃げる場合もあるが追い払えば依頼は一応達成になるので構ってはいない。
当然報酬は減るが全員報酬の為にハンターをやってるわけでもないので特にこだわってない。
というかウィーグがいないせいか何となく全員大雑把になっている。
「ティーリさんが喜んでいましたよ」
「そうなのか?」
「なんか人の心が芽生えたとか私の薫陶がとうとう通じたとか言ってました」
「……あの女」
まあ豹変したと思われても仕方がないが。
「それはよい事ですね~」
ガーリヤが適当な事を言う。
事情を知ってるのだから理由は推測できているはずだが。
「なんか変なモノ食べたんじゃないの?」
リディリがダルクをしつこく撫でながら言う。
「……まあそんなところだ」
街に着き、ギルドで手続きを終えるとリディリとガーリヤは神殿に帰るので別れた。
ギルドの前、クルリは歌う波音亭に向かおうとするとウェルがなにやら動かない。
「どうしたんですか」
「いや、少し散歩をしてから帰ろう」
「散歩ですか?」
ダルクが散歩という単語にピクリと反応する。
「ああ」
歌う波音亭に大回りをして城壁の内側に面した通りを歩く。
街の外周に沿ってあるこの道は人通りも人家もほとんどない。
まあ当然と言えば当然である、もし戦争で籠城戦になればこの外壁が前線になるのだから。
内戦がほんの十数年前にあったこの国ではなおさらである。
人々がそれを忘れ、城壁の近くまで家を建てるようになるまでは数世代かかるかもしれない。
ダルクが二人から走って離れては近づいてきてまた離れるのを繰り返している。
雑談をしながら歩いていると急にウェルが止まった。
「どうしました?」
「ふむ。クルリ、左に二十歩歩いてみろ」
「はあ……」
突然に妙な事を言われクルリは面食らったが素直に二十歩横に歩く。
ダルクもこちらについてくる。
離れてみたがわからない、道を挟んでウェルにもう一度聞いた。
「で、どうしたんですか?」
ウェルはこちらには応えず、じっとしていたかと思うと急に後ろを振りかえった。
「こっちか」
クルリも釣られて振りかえると数十メートルの所に女性がいた。
いかにも街娘といった風体だが女性にしては背が高くしっかりとした体つきである。
もう夕方というのに帽子を深く被っている。
そして明らかにこちらが振り向いたことに狼狽して足を止めている。
「?」
何が起こっているのかわからず固まっているクルリ。
ウェルは相手の反応を待っているようだ。
しばしの沈黙が過ぎると女性は意を決したようにこちらに歩き出す。
そして歩きながら背中から長剣を取り出した。
「へ?」
クルリは思わず後ずさるが女性はこっちを見ていない、まっすぐにウェルに向かっていく。
目標はウェルのようだ。
そして歩きながら剣を上段に構え二十メートル程の近さに来た時にウェルに向かって全速力で突進した!
「え、なになに!?」
全速力の動きの風にあおられ帽子が取れ、中で巻いてあったのか長い金髪が広がる。
ウェルを見るともう剣を抜いてだらりと構えていた。
何を考えているかはいつもの無表情からは読み取れない。
残り五メートル、女性はウェルへ剣を振りかぶり絶叫する。
「いえぇぁ!」
クルリの前で二人の剣が激突した。




