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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
19/44

19話 盗賊

「盗賊?」

「そうだ」

「どこにいるんですか?」

「前方に隠れてる」

 すると突然馬車を中心にクルリ達を囲むようにドーム状の防壁の結界が張られた。

「魔術士がいるわ~」

「どこにいるの?」

「前の方ですよ~」

「見えないわよ」

「隠れてますからね~」

 状況を理解できていないクルリとリディリ。

 だがすぐにわかった、前方の森の中から人影が三人出てきたのだ。

 ハルバードを持った大柄の男、長剣の男、小剣の女。

 全員覆面をしている。大男が近づいてきて喋りだした。

「お前ら、よくわかったなあ」

「まあな」

 気軽にウェルが応じる。


「言いたいことはわかるだろ? 積み荷を馬車ごと置いて行け、そしたら手は出さねぇでやるよ」

「そんな事するわけないじゃない!」

 リディリが叫ぶ。

「……あの嬢ちゃんが雇い主か?」

「違う、どうする?」

 ウェルがウィーグを見て訊く。

「我が商会は脅しには屈しません……というより答える必要はないって感じの顔をしてますよ」

「そうかな?」

 ウェルはウィーグの返事に満足しながら防壁を出る。

「ウェルさん!?」

 クルリが驚いた声を出す。

「そこで見ていろ」

 防壁の結界は外側からの攻撃に備えるものとはいえ全く抵抗を感じずに滑らかに出れた。

 ウェルはガーリヤの魔術士の技量に内心舌を巻く。

 大男は本気で驚いたようだ。

「おいおいおい、一人でやるってのか?」

「その通りだ」

「なんだ、この国の奴らはいかれてるのか? 抵抗するなら皆殺しだぜ?」

「ああ」


 ウェルはそう答えると長剣を抜く。

 大男は口笛を吹くと武器を構えじりじりと間合いを詰める。

 当然他の二人も左右に分かれ包囲を始めた。

 ウェルは動かず待ち構える。

 クルリのみならず他の三人も固唾かたずを呑んで見守る。

 ウェルは魔獣とではない人間との久しぶりの戦いに気持ちが昂るのを抑えていた。

(人間相手はやはり違うな)

 剣を構え対峙するが自然と口が緩む。

 それを挑発と見たか大男が仕掛ける──しかし殺気を出しただけで動かない。

 森の奥から突如無数の矢がウェルに飛来した。

 ウェルは待ち受けていたように──待ち受けていたのだが──剣で薙ぎ払う。

 魔力を纏った矢を剣が弾き魔力同士のの反発の音がばちばちと高く鳴り響く。

「ウェルさん!?」

「気付いていやがったのか!?」

 大男は驚愕するも素早くウェルに襲い掛かってきた。

 大男とウェルの武器が激しくぶつかる。

「ぐッ!」

 ウェルは大男を弾き返すと左手から来る長剣の男と剣を合わせる。

 激しい打ち込みに相手の崩れた体勢の腹に蹴りを叩きこむ。

「≪炎火三弾≫!」

 小剣の女が背を向けているウェルに魔術を放つ。

 それに対し振り向きざまにウェルは剣で魔術の炎を薙ぎ払う、剣の魔力により魔術の炎が全て爆散した。

 驚きに目を見張る女、体勢を整え直した大男が突撃する。

 ウェルは剣を構えるとすさまじい速さですれ違いかわした。

 ちょうど戦いが始まったの変わり、ウェルは三人を馬車と挟むような位置になった。

 背を向けている形になったウェルに矢がまたも飛来するが振りかえり薙ぎ払う。


「てめえ……」

「まだやるか?」

「当たり前だ! ……うおぉ?!」

 大男は驚愕し呻き声をあげる、自分の左手が切り離されている。

 仲間の男が驚愕する

「いつの間に……!?」

「てめえなにもんだ……?」

「何者と言われてもな、ウィーグ」

「はい」

 短槍を構えたウィーグが歩いてくる。

「……ウェルだと? まさかサフィーズの残光のウェルエンか?」

 長剣の男が呻くように呟く。

「そんな恰好いい通り名は知らんな。俺はただのハンターのウェルだ」

「こんな所で出くわすとはな……」

 ウェルとウィーグで三人を挟む。

 じりじりとしばし無言で対峙する。


「格好いいよな?」

 ちょっと不安にかられたウェルが誰ともなく聞く。

「引くぞ。」

「糞ッ!」

 長剣の男が言うと斬られた腕を抑えていた大男が呻く、その瞬間、森の奥から巨大な爆炎が迫った。

「伏せてください!」

 ガーリヤは叫び立ち上がると杖を向ける。

「≪豪爆旋散≫!」

「ひえええ」

 魔術がぶつかり合いすさまじい爆風が吹き荒れる。

 クルリとリディリは防壁の中で余りの迫力に動けずにいた。




「逃げられたか」

 立ち上がり呟くウェルにウィーグが近づいてくる。

「そのようで……よく無事ですね」

「ガーリヤのおかげだな」

「それでもよく……それは?」

「あいつの腕だよ、ガーリヤ、焼いてくれ」

「うぇぇぇ」

 リディリが気持ち悪そうな声を上げる。

 まあクルリも同感であったが。

「はい~」

 地面に置くとガーリヤが魔術で燃やす。

「逃げられた……が、片腕ではこの国から逃げるのも目立って難しいだろう」

「なるほど……」

「えーと、なんだったんですか今の」

 クルリが恐る恐る近づいて疑問をぶつける。

「盗賊に襲われたな、いないんじゃなかったのか?」

 ウェルはウィーグを見ながら言う。

「嫌味を言わないで下さいよ、わかってるでしょう」

「ああ、ハンターだ」

「ハンター?! ハンターが盗賊をやってたんですか?」

「誰かに雇われていたようだな、自主的に盗賊をやるような腕じゃなかった」

「なんでまた」

「さあな、割りに合わない仕事になったな」

「でも楽しそうでしたよ?」

「そんなことはない」




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