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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
17/44

17話 チーム

「──あまつものよ、来たりて結び」

「おい! やめろ!」


 チームを組んだし、とりあえずまあ魔獣でも狩るか──

 軽い気持ちで依頼を受けたが失敗だった、後ろで何もするなと何度も念押ししたリディリがいきなり詠唱を始めたのだ。

 ウェルは胸中で舌打ちする暇もなく、今度はリディリの護衛に、近くに控えさせていたウィーグに叫んだ。

「ウィーグ! やめさせろ!」

「ええ!? え、あのリディリさん、やめたほうが」

「だいじょうぶよ! 私の法術で一発だわ! ──禍つ分けて断ち」

「ちっ!」

 本人が言うだけの事はある。

 強力な魔力を充溢じゅういつさせ放射しはじめている。

 ただどう見ても狙いが大雑把で適当である、それでいて法術の構築も速い。

 三匹の魔獣達は反応し引きながらこちらを盾にするような動きになった。


「あなたたち! 避けなさい!」

(くそっ!)

 法術がもうすぐに発動する、明らかに乱雑だが効果範囲は広く、もろに前に出ていたウェルとクルリが入っている。

「クルリ!」

「え? 何です?うべぇ」

 クルリの後襟うしろえりを引っ掴んで離脱する。

 それに反応して魔獣は逃げ出そうとするが法術の方が速い。

「風のよりて分け、まが分けて断て!」

 大きな風の刃がいくつも乱舞してゆく。

 だがめちゃくちゃな制御では、場を撹拌する刃が当たったのは魔獣の三匹の内、運の悪かった一匹であった。

「あー! 何で一匹しか当たらないのよ!」

 残りの魔獣は一目散に逃げてゆく。


「当たり前だこの馬鹿!」

 ウェルはクルリを引きずりながらリディリの頭をはたいた。

「痛! 何するのよ! お爺ちゃんにもぶたれたことないのに! 避けれたんだからいいでしょ!」

「俺とクルリがあのままあそこにいたら怪我じゃすまなかったかもしれんぞ! クルリ、大丈夫か?」

「ふぇるさんにふぃっふぁられてひたをはみました。」

「なに! 口から血が出てるぞ! 大丈夫か!?」

「え……わたしのせいで……そんなつもりじゃ……。」

 ウェルに思いっきり引っ張られて舌を噛んだのだが、とりあえずウェルはリディリの誤解に乗っかった。

「大丈夫か! ウィーグ! なんでちゃんと止めなかったんだ!」

「え……あの、すみません。」

「申し訳ありません~こんな事になるとは……クルリ君大丈夫ですか?」

 ガーリヤも止められ……止めなかった事を謝りクルリに声をかけた。

「ひたひへす。」

「そ、そうだ! わたしが癒すわ! ちょっと屈みなさい!」

「ふぇ?」

 リディリの言葉に従いクルリが屈む、リディリが手をかざし癒しの法術をかける。

「≪癒したまえ≫」

「ふぇ? あ、おお、すごい! 治った!」

 びっくりして声を上げるクルリ、詠唱も行わず攻撃とは打って変わって鮮やかな手並みの癒しにウェルも感心した。


「何だ。回復の法術は見事じゃないか。」

「ま、まあね! ちいさいころからおじいちゃんにひたすら修行させられたし……。」

「お嬢様の回復は一級品ですよ~。」

「で、でもわたしはこう法術でばぁーんと敵をやっつけたいの!」

「チームで戦っててあんな雑な攻撃で連携できるわけないだろう。」

「で、でも!」

「今、死にそうになったクルリを見てもそう言えるのか。」

「っ!」

「え、いやそこまでは──」

 クルリは話が大きくなってる事に突っ込もうとしたが、リディリの死角からウィーグとガーリヤが小さく首を振っている。

 たとえ誤解でも有用ならそのまま使うのだ。

 大人とは汚い。

 ただまあ流れ弾が当たっていたら本当に危なかったかもしれない。

「とはいえまず動かない敵だったり、好戦的な相手ならまず法術で先制をしたりすることもできる。制御がうまくなれば連携もいずれできるかもしれん。」

「うう……。」

「それまではしっかり鍛えるんだ。お前の癒しの法術はかなりのものだ、これだけでチームにいてお釣りが来るほどの価値がある。」

「むむむ……。わかったわよ。」

 渋々了承するリディリ、クルリに怪我をさせたのがよほどこたえたらしい。

「困りましたね~。」

 他人事ひとごとのように言うガーリヤに、ウェルは恨みがましい目を向けた。



「とはいえ困ったな。」

 とりあえずギルドに帰り、ウェルは溜息を付いた。

 さいわい追い払ったので依頼自体は一応達成とはなってはいる。

「なにがですか?」

 ジュースを飲みながらクルリが聞く、全員が何となく食堂で卓を囲んでいる。

「メンバーが揃ったが歪だから戦いにくい。」

「というと?」

「格下には楽に勝てるが、格上相手だとお前たちが危ない。」

 と、クルリとリディリを見る。

「なによ!」

「どうしたもんかな。」

「そうですね。」

 今晩の夕食を考えながらクルリは相槌を打つ。


 するとウィーグが提案をした。

「護衛をしてみたらどうでしょうか?」

「護衛、ですか?」

「はい、荷馬車の護衛ならすぐにできますし、気分転換にも良いのではないでしょうか。」

 ウィーグの提案に皆が一拍置く。

 するといつの間にか輪に入っていたティーリが口を開いた。

 最近はクルリ達がいると受付は他の人に任せっぱなしである。

「いいですね! 魔獣退治よりよっぽど平和で文明的ですよ!」

「あ、ティーリさんこんにちは。」

「こんにちは皆さん、どうですか? おすすめですよ?」

 するとウェルが口を開いた。

「いや、こいつらには殺しはまだ早いだろう。」

「え?」

「うん? 盗賊が出たら殺すことになるだろ?」

「この辺には盗賊はいませんよ~。」

 ガーリヤが口を挟む。

「この国の大体は魔獣が多いので盗賊が根城を張ろうとしても魔獣に殺されてしまうからいないんですよ~。王都から離れた、北とか西の国境辺りだとまた別なんですが~。」

「じゃあ……ああ、魔獣から護衛するのか。」

「はい、その通りです。道沿いなら強い魔獣も出ませんしね。私としてはここから北西のアラグスヌへを考えているのですが。」

「アラグスヌ……あーアラグスヌね。」

 全然わかってない風に繰り返すウェル。


「この国の大体中央に位置する街で、西の国境から北の国境へ直接向かおうとすると大体真ん中にあるので商都として栄えています。」

「この王都は国の右下にありますからね~。」

「なるほどなるほど、そういやなんで端っこにあるんだ?」

「狼族の聖地がそこからさらに南にあるからと言われてますね~。」

 東側は森の向こうに山脈があり、南側に国境は無い……というより森が人跡未踏の奥まで続いているので引きようが無いのだ。

「なるほどなるほど。」

「おすすめですよ。むしろハンターなのにどうしてやっていなかったていうくらいの定番ですからね。」

 ティーリがぐいぐいと勧める。


「まあ、俺もこっちに来る前はやってた事もあるが……そもそもハンターって魔物を殺し尽くすのが目的だしな。」

「ええ……何ですかそれ。」

「違いますよ! あなたハンター憲章読んで無いんですか?! 人類全体の助け合いと発展に寄与するのがハンターギルドの目的ですよ!」

「そんなの建前だろう。」

 駄目だこいつ……という目でティーリはウェルを見たが口にはしなかった。

 替わりにウィーグが口を開いた。

「ええと……どうですか? うちの商会の仕事を回せるのですぐできますよ?」

「丁度いいですね~。」

「うーん、じゃあやるか。」

「よし! 決まりですね! これからはこういう依頼を増やして行きましょう!」

 思い通りの展開に喜びの声を上げるティーリ。

「じゃあ僕はアラグスヌへ往復するなら一回実家に帰って許可を貰ってこないと。」

「お嬢様もおじい様に許可を取らないといけませんね~。うーん出ないかもしれませんが。」

「そしたら家出して出発するわよ!」




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