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イヌの国のネコの王子  作者: べしみ仁和
16/44

16話 夕食

「とても美味しかったわ! お爺様にも食べさせてあげたいわね!」

「そうだね。」

 夕食の終わり、ルフラの言葉にクルリは水を取りながら相槌を打った。

 昨日いきなりチームのメンバーが増えたりなんだので気苦労に疲れたのだ、今日はゆっくりできて満足である。

 次に会うのは三日後だ、今から気が重い。

 それはともかく西宮ではたまにシェフを呼んで西の国の料理を食べる。

 母の故郷に興味の薄い子供たちにさりげなく故郷の料理を食べさせようとするルフラの親心であった。


 勿論子供たちはいつもと違う料理を食べる位にしか思っていない。

 西の国の料理と意識しているのは、よく歌う波音亭で食事をしているクルリだけであろう。

 弟妹はデザートをチビチビと食べている、クルリはそれを見ながら水を口に含む。

「今日は前の方と違うみたいね! どなたが作ったのかしら?」

「今日はいつものグラズフルのダズラフ様ではなくお弟子様のフラバナ様がお作りになりました。」

 控えていたリベルゥが答える。

「まあ新しい人なのね! お話を聞きたいわ、お連れしてきてちょうだい!」

「はい、王妃様。」

「~~ッ! ッンゴフ!」


 突然の名前に水を吹き出しそうになるクルリ。

 勿論そんなことは許されないので必死に耐えたが逆に気管に水が入ってむせた。

「なにやってんの?」

 妹の冷たい言葉が響く、が、それどころでは無い。

 以前のフラバナとの会話が脳内によみがえる、急いでメニューを見る。食材までキッチリ書いてあるが不審なものは無い。

 安堵の息を吐くがフラバナとこんなところで会う訳には行かない。

「……ちょっと急用を思い出した! ダルク! 行くぞ!」

 フラバナにはダルクも見られている。

 ダルクにも隅で食事が与えられてい横になっていたが食後の散歩と思ったのか頭をあげ付いてきた。

「どうしたの?」

 ルフラの声、クルリの無作法に対し若干圧があったが無視する他ない。

 リベルゥは無表情に追い越したクルリに注意をかけてきた。

「クルリ様、走らぬよう。」

「えーと、フラバナって人に美味しかったって伝えておいて!」

「かしこまりました。」

「行くぞダルク!」


「お呼び頂き光栄です。王妃様、王子様、王女様。」

「大変美味しかったわ、フラバナさん。」

「お褒めにあずかり恐縮です。」

「ふふふ、そんなかしこまらなくてもいいわ。息子のクルリも大変美味しかったと言っていたわ。」

「クルリ様ですか?」

 フラバナはちらりと見まわす、確かに一人卓にいないようだ。

「ええ、どうかしましたか?」

「あ、ああいえ。最近同じ名前の知人が出来たもので。そういえば王妃様と同じ獅子族の方でした。」

「まあ、それは偶然ね。その人も西の方みたいね、西の名前だから。」

「なるほど。」


 まあネコなのだから西だろう、フラバナは納得した。

「リーム鳥の味付けが不思議だったわ、何をお使いになったの?」

「はい、西の流儀とは少々外れますが北のスパイスを隠し味に使いました。」

「ダズラフさんもすごかったけれど、フラバナさんもすごいわね。西の国でもこんな美味しいものを作れる人は滅多にいないわ。」

「ありがとう御座います。」

 滅多にいない、フラバナは胸中で繰り返した。

 師の言葉を思い出す。歴史に残る。

 滅多にいない、では駄目だろう。ならばどうすれば?

「フラバナさんはこの国の生まれなのかしら?」

 一瞬思考に入りかけたフラバナはルフラの声で現実に戻ってきた。

 王族の前で自分は大した心臓だ、内心冷や汗をかきながらフラバナは答える。

「はい、私はこの国の小さな店の生まれで───」




 月が薄く差す森の中、ウェルに巨大な魔獣が唸り声をあげる。

 立ち上がると6メートルを越える熊の魔獣──グエティームという──が襲って来る。

 ウェルはあえて挑発しながら相手の攻撃を(さば)いていた。

(やはり戦っている時はどこか落ち着くな。)

 チームが増えたのなんやかんやで色々面倒になったウェルは急募の依頼を受け、夜の森で魔獣と戦っていたのだ。

 いくら攻撃しても当たらない事に魔獣が激昂し、その身に宿った強力な魔力を咆哮と共に放出する。

 爆裂する大気、直撃しなかったようだが近くの木にもたれている人間を発見した。

 人間は動かない。

 グエティームは歓喜を吠えると、巨大な体躯で圧殺せんばかりに迫り人間を咬み殺そうとした。

 が、噛み砕いたのは木だけでその口中には人間はいない。

 驚愕する魔獣。


「魔獣にもこれは効くんだな。」

 その声がグエティームに聞こえた時には、ウェルにその首を剣に纏わせた魔力の刃で切断されていた。

 光刃──魔力で刃を形成し剣から光の刃を展開する魔術である。

 ウェルが息をつき、魔獣の死体を見下ろす。

 首が切り離されているのに心臓がまだ動き首から血が(あふ)れている。

 すると後ろから案内役の猟師の声がかかった。

「すごいもんだな。」

「終わったぞ。」

「ああ、もう呼んである。」

「ん? どうやったんだ?」

「犬笛だよ、ヒトのあんたにゃ聞こえんだろうがな。夜は他の魔獣を刺激したくない。」

「なるほど。」

 猟師は感心したように魔獣の死体を見つめている。


「それにしても助かったぜ、その日の内に一人で来て夜の内に連れてけと言われた時はびっくりしたが。」

「むしゃくしゃしてたもんでな。」

「むしゃくしゃしてたで殺されたらコイツも浮かばれねえな……しかし綺麗に殺したな、悪いがコイツの体の代金は一度に払えねえぜ。」

 死体を見聞しながら猟師が言う。

「その内ギルドに払い込んでくれればいい。」

「もしかして狙って首だけ落としたのか?」

「まあな。」

 猟師が軽く口笛を吹く。

「おいおいおいすげえな、一人で倒すだけですげえのに。こんだけ綺麗な毛皮ならあんたに代金払ってもお釣りがたんまりくるぜ。ありがとうよ。」

「一人の方が戦いやすい。……ここら辺ではコイツが一番強い魔獣なのか?」

「うん? まあ大体そうだな。コイツより強いのはそうそう出てこない。もっと森の奥に行けば別だがな。」

「ふむ……案内人を雇って森の奥に行くのは可能か?」

 魔獣を見ながらウェルが聞く。


「もっと強いのと戦いたいのか? どうかしてるぞ。」

「まあ……そうだな。」

「俺じゃコイツが出てくるところがせいぜいだな……。コイツだって今日はずいぶん近くに来たんだぜ? だから急募だったんだ。」

「じゃあ無理か。」

「まあもっとベテランか……王都の南に居る連中ならいけるだろうが。」

「南?」

「知らないのか? 南の聖地にいる奴らさ、祖神おやがみの加護が深く単なるオオカミじゃない。後は王族や貴族だな、まあ王様はともかくお貴族様共に森に入って魔獣を狩るなんて無理だろうがな。」

「ふうん。」

「基本的に強い奴ほど森の奥が居心地がいいらしくてな、だいたいこっちに出てくる時は他のさらに強い魔獣に追い出されたとか迷い出たかだ。」

「ふーむ。」

「おっと皆がきたようだ、今日はありがとよ。」






「聞いてくださいよリヤンサさん、なんか変な女の子が無理矢理仲間に入ってきて……。」

「おやおや大変だね、ちゃんと守ってあげないと行けないよ。男の子なんだから。」

「ええー、だって大主教の孫とか言って偉そうなんですよ。」

「子供ならしょうがないよ、暖かく見守ってあげないと。」

「僕もまだ子供ですよ。」

「子供同士でも、年上が年下を守らないと。大人が子供を守るように、それは大事なことだよ。」

「ええー。」

「だいじょうぶ、クルリならすぐわかるよ。」

「しかし今日はびっくりしたな。王宮にフラバナさんが来るなんて。」

「意外な事は良い事だよ。」

「後で思いっきり説教くらいましたよ……。」

「その位なら何もないより、断然いいものだよ。」

「怒られたくなんて無いですよ。」

「ふふふ、そうだね。」

「しかしどうなるんだろう……。」

「なにがあっても、クルリなら大丈夫だよ。」

「無責任な……。」

「何事も気楽に、でも全力を出すんだよ。じゃあクルリ、また良い夢の続きが見れますように。」

「はい、おやすみなさいリヤンサさん。」




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