14話 仲間2
「あなたもう忘れたの!? ていうかわたしのこと知らないの!?」
そこでようやくクルリは思い出した。
「あーゼリーで……」
「そこはいいから!」
力強く邪魔をされる。
「知っているのか?」
ウェルはウィーグに聞いた……少女の口振り、というより明らかにウィーグとティーリの反応が知っているようであったからだ。
「ええ、大主教様のお孫さんです。」
「ふむ、大主教。」
「あ、ウィーグさんお久しぶり。」
と少女はウィーグに挨拶してから。
「そうよ! おじいちゃんは大主教なのよ!」
「へー。」
「何で反応が薄いのよ!」
反応の薄かったクルリに食ってかかっている、ウェルはまあ大主教が相当偉いであろうのはわかっていたがもう一度聞いた。
「この国では大主教はどの位偉いんだ?」
「え、まじ?」
少女がちょっとショックを受けたように反応する。
「知らないのですか……大主教はこの国の宗教のトップでスルフナン神殿長でいらっしゃいます。」
「ええと、スルフナン大主教ディガロ宗法侯さま……だったかな。」
クルリが補足する、するとやはり少女が食ってかかる。
「あんたなんでそこまでわかってて、わたしのこと知らないのよ!」
「顔を知らないのは前会った時からわかるだろ……。」
「ほう、しゅうほう候。神官が侯爵なのか、相当だな。」
「ええ、通常は神官に爵位を与えられるのは伯爵までなのですが先の戦争で大変活躍なされた為、特例として侯爵となられました。」
「爵位は世襲なのか?」
「いえ、位と実績のある神官に一代爵として与えられます。」
「そりゃそうか、聖職者が爵位を世襲なんて世も末だ。」
「ええとまあ、そして大主教様のお孫のリディリさんです。」
「私はガーリヤと申します~。」
ついでに隣の女性も自己紹介した。
獣の耳も生えた茶色い長髪をしている。
「なるほど、俺はウィルだ、こっちがクルリ。」
取りあえずこっちも自己紹介した。
「クルリね! 助けられた恩返しをしてあげるわ!」
「いや別にいいよ。」
「恩返しをしてあげるわ!」
「いや別に……。」
「わたしとガーリヤがあなたたちのチームに入ってあげるわ!」
「いや別にいいよ。」
「なんで!?」
「なんでと言われても……。」
理由は面倒くさそう以外に無いのだが。
「子守りをする気は無いぞ。」
ウェルが口を挟む。
「なによ! わたしは強いのよ!」
「そうか、じゃあ他のチームにいくらでも入れるだろう。」
「ぬぬぬ……。」
「まあまあウェルさん。」
ウィーグ(とティーリ)はウェルの大主教の孫への対応で若干苦笑いしている。
「そこは私が説明しましょう~。」
と、ガーリヤが語りだした。
「大主教さまはもともとお嬢様がハンターをするのに勿論反対だったので、理典法術を修めないといけないと条件を出していたのですが。」
「わたしは天才だから習得したのよ! それなのにおじいちゃんはさらに条件つけてきて。」
「ふむ。」
ウェルは驚いた、この国の法術の分類が北と同じなら理典を修めるはなかなかのものである。
まあ修めた──恐らく発動は出来たという意味だろう──だけと、実践で使えるのには大きな差があるが。
口を挟まれてもガーディラの説明は続く。
「私が~まあ保護者としてついて、ゼリー狩りなら安全だろうと許可を仕方なく出したのです。あ、私は大主教様に恩があって居候してて丁度良かったので選ばれた魔術士です。」
「なるほど。」
この国では神殿が魔術士を居候させるほどおおらかなのか、ウェルはちょっと驚いたがまあ面倒なのでスルーした。
「とう訳でハンターになれたもののウィーグさんにゼリー狩りを習った後、お嬢様は私とゼリー狩りにいそしむ毎日だったのです。」
「それでおじいちゃんに文句言ったら『ちゃんとしたチームと組めるならいい』って条件付けて来て。」
「それでお嬢様は入れるチームを探したのですが。」
「おじいちゃんの手が回っててどこも入れてくれなかったのよ!」
「というよりそもそも大主教さまの孫娘をいれる度胸のあるチームが無かったんですね~。」
「まあ、そりゃそうだろうな。」
ハンターをやってるなら自己責任、なんて建前で国の宗教のトップの孫娘を危険にさらす事ができる奴は相当のアホだろう。
「そこで! 助けてくれたあなたに特別にわたしをチームにいれる権利をあげるわ!」
「ええ……。」
クルリは呻く。
「いつの間に助けたんだ?」
ウェルが疑問を挟んだ。
「あーほらウェルさんと出会った直前ですよ。この子を助けた帰りにウェルさんに会ったんです」
「一日に二人助けた訳か。そうだとすると時間が空いてるな。」
「そっ! それはあの後いろいろあったのよ! しかもこんな所にギルドがあるなんて知らなかったし!」
「そうか。」
「だからわたしをチームに入れなさいよ!」
「駄目だ。」
「ぐぬぬ……。」
ウェルを睨みつけて来るリディリ、だが知った事ではない。
会話が止まる、だが後ろから何か聞こえてきた。
「───大主教の孫娘を引き入れられれば一気にこっちが有利に……これがうまく行けば私がギルド長になりゆくゆくは大陸本部への栄転も……」
後ろを見るとティーリが中空を見ながら独り言を漏らしている。
どうやら大主教の孫娘を手中に収めるチャンスに我を忘れているようだ
「見ろクルリ、あれが欲と野心に駆られた人間の顔だ。」
「はあ……。」
「頭がいかれてるけどウェルさんは腕が立つしウィーグさんが何とかフォローを……行けるか……行けるか……?」
会話が止まったところにクルリとウェルが見てたので、何となく皆ぶつぶつと呟くティーリに視線が集まっている。
そしてぐるんとクルリとウェルに振り向いた、いつもの微笑みだが若干目が血走っている。
「リディリちゃん達を入れてあげてくれないかしら?」
「そしてこれがギャンブルに身を投じる人間の目だ。」
「はあ……。」
「あなたわかってるじゃない!」
リディリが歓声を上げる、ウェルはまた水を差した。
「そもそも入ったとしても安全な仕事をわざわざ選んでやるつもりもないぞ。俺達とハンターをやってれば命の危険がある。子供のやることじゃない。」
ウェルは保護者であろうガーリヤに向けて言ったつもりだったのだがガーリヤはニコニコとしているだけである。
「なによ! クルリだって子供じゃない!」
「僕はもう十三歳だし……あと二年で成人だよ。君は九歳?」
「十歳よ!」
「大丈夫です! こう見えてウェルさんもウィーグさんの実力も折り紙付きですし、ウェルさんもあまり危険な事をしないとこの間約束してくれました!」
「捏造するな。」
だんだんなりふり構わなくなってきたティーリ。
「ガーリヤさん、貴女はいいのですか?」
ウェルはとうとうガーリヤに話を振った、いくら何でもリディリの行動の決定権はこの保護者にあるはずである。
普通に考えれば許すはずもない、どうせクルリ達が断ると思っていたのだろう。
だが。
「私は良いと思います~、ウィーグさんも勿論、ウェル君もクルリ君も信頼できそうですし~。」
「流石! お目が高い!」
野望の実現にぐっと近づいたティーリが歓声をあげる。
(正気か? ここで俺たちが受けたらどうするつもりなんだ?)
大主教とやらが選んだ人物である、まさかリディリを謀殺しようとしている訳でもあるまい。
今日は突然現れたウィーグもあわせて不可解なことばかりである。
やはりだんだん面倒になってきた。
「繰り返すぞ。俺達は十歳で大主教の孫娘だろうと危険性を考慮するつもりは無い。最悪の場合でも責任を取るつもりは無いし、ハンターである限り俺たちに責任を取らす方法も無いぞ。勿論こっちの指示に従っても貰う。」
「わかったわよ!」
「大丈夫です~。」
「そうか、そしてこのチームはクルリの育成が目的だ。だからクルリが一応リーダーになってる。」
「はい?」
クルリが声をあげるが無視してウェルは続けた。
「あなた達を入れるかどうかはクルリが決める。」
「絶対面倒になって丸投げしてますよね?」
「そんな事は無い。後はお前次第だ。」
「ええー嘘だー。」
いきなり丸投げされて動揺するクルリ。
「さっさと入れなさいよ!」
せかして来るリディリ。クルリはウィーグに助けを求めた。
「ええと……ウィーグさんはどう思いますか?」
「私ですか……。」
ずっと成り行きを見守っていたウィーグも困った声を出した。
当然である、クルリやウェルと違って責任が違いすぎる。
いくらハンターの建前があっても大主教の孫娘に何かあればスィラーン商会はこの国で商売できまい。
全員が見守るしばしの黙考の上、結論を出した。
「クルリ君、君の思った通りにしなさい。どんな結論でも私は支持するよ。」
「えええ。」
「ほら! はやく!」
とうとう逃げ場が無くなったクルリ。
全員の視線の中、クルリはなんかもうどうでも良くなってきた。
「あーじゃあもういいですよ、わかりました、みんなでハンターしましょう。」
「やった!」
「よろしくお願いします~。」
喜びの声をあげるリディリとのんびりと応えたガーリヤ。
「っ良し!」
ティーリは後ろで小さくガッツポーズをしていた。
「なんか一気に面倒なことに……。」
クルリがぼやくが反応するものは誰もいなかった。




