13話 仲間
「せやっ!」
ググームがウェルに押し留められ、動きが止まった瞬間にクルリがググームの心臓に目掛けて突きを入れる。
肋骨の間から魔獣は急所を刺され呻き声も小さく身を捩り倒れた。
今はウェルが魔獣の正面に立ち注意を引き付け、クルリが攻撃するという分担で狩っていた。
隙を作ってくれるウェルのおかげでもあるのだが、慣れて来ると簡単とすら感じてしまう。
「なんだかあっけないですね。」
「お前はもう十分基礎が出来ている。この位の相手なら当然だ。」
「そんなものですかねえ。」
そう言われてもクルリは実感がない、周りの大人たちが強すぎるせいなのだが。
「そろそろまた一対一でやってみるか?」
「嫌です。」
出来るとしても若干トラウマになっていたクルリであった。
翌日朝、ハンターギルド。
クルリとウェルは掲示板の前に立っていた。
「うーむ、ちょうどいいのが無いな。クルリが一人で相手できるのなら選択肢が増えるんだが。」
「はい。」
「ちょっとやってみるか?一対一。」
「嫌です。」
「うーん、今日は久しぶりに訓練でもしてみるか……。」
「そうですね、そうしましょうか。」
一対一など御免なクルリが賛同した時、後ろから声がかかった。
「やあクルリ君、調子はどうだい?」
「ウィーグさん!」
クルリが後ろを振り向くと嬉しそうに声をあげた。
「久しぶりだね。」
ウェルも振り向くと短髪の大柄な男ハンターが立っている。
ウィーグと呼ばれた男は、手を差し出しながらこちらに向いてきた。
「貴方はウェルさんですね? 噂は聞いていますよ。よろしくお願いします。」
「ウーディーさんでしたか、これはどうも。よい噂だと良いのですが。」
握手しながら応える、獣耳を見るに犬の獣人であろう。
「ウェルさんこの人ですよ、剣に魔力を流すのを教えてくれたおじさんって。」
「ん? そうなのか。」
ウィーグ(三十五)は少し苦笑いした、おじさんと呼ばれるにはまだあと少し、少しだけ未練がある歳だ。
「クルリの剣への魔力は綺麗な流し方でした、ウィーグさんの教え方が良かったのでしょう。」
「いえいえ! クルリ君の才能ですよ、一日でマスターしましたからね。」
「多分初めてお会いしたと思うのですが……普段は中央ギルドの方で?」
「ええ、所属は中央ギルドなんですよ。」
「なるほど。」
そこで会話が止まる、すると一拍置いてウィーグが話を切り出してきた。
「実はクルリ君が本格的にハンターを始めたと聞いてまた手伝えないかと思いまして。」
「なるほど?」
「二人より三人の方がやりやすいでしょう、よろしければ加えさせて頂けませんか?」
突然の提案にウェルが思案を巡らす、その時不意に後ろから声が掛かってきた。
「それは良い考えですね!」
「ティーリさん!」
クルリの声の通りティーリである、また受付から抜けて来たようだ。
「ウェルさん、ウィーグさんはベテランハンターで、初心者のハンターの育成を積極的に買って出てくれるとても良い人なんですよ!」
(仕込みか?)
ウェルは反射的にそう考えた。ティーリが手を回して監視役を加えようとしてきたと思ったのだ。
「そう言って頂けるとうれしいですね。ただこれは私の仕事にもつながる事なので善行を積もうとしているわけでは無いですよ。」
だがウィーグを見ると少し動揺しているようにも見える。思わぬ援護射撃を貰った、という感じだ。
「仕事につながるとは?」
とりあえず気になった事を訊いてみる。
「私の本業はスィラーン商会なんですよ。ハンターの皆さんとの協力を円滑にすることやコネクションの為に副業でハンターをやらせてもらっているんです。」
「なるほど。」
「ですから初心者の方の成長を手助けさせて貰ってるのも、未来のベテランハンターへの投資という訳なので。」
「なるほどなるほど。」
良くある……というほどでも無いが、あまりないというほどでも無い話だ。
なんと言っても商隊の護衛はハンターが一番使いやすい。
傭兵等とちがってギルドが保証をしてくれるからだ。
コネや恩があるハンターを多く持っていればいざという時に無理がきく。
とはいえ子飼いの従業員にそんな事をさせる余裕があるということは、スーラーン商会とはかなりの大きさであろう。
ウェルはウィーグの反応を伺い、ウィーグの目的を見極めようとしていた。
クルリとコネを作るのが目的なら、前に教えた時にそのままハンターの先輩として一緒に行動するようにできたはずだ。
そして今、クルリがウェルとハンターとして色々始めた頃に丁度良くやってきた。
自分の噂も聞いていると言っていた、ウェルに不審を持ってわざわざクルリの為に?
しかしそれだけ心配するなら元から離れないはずだ。
勘だがティーリとは繋がりがないだろう、ティーリも手を回すなら商会が本業のハンターより信頼できるベテランハンターを回してくるはずだ。
第一印象は実直そうな男、である、ティーリも信頼している様子からもそれ間違いではないだろう。
ただ善人が悪事を働かない保証があるなどということは残念ながら無いが……。
いまいちわからない。
「なるほど……。」
なるほどを繰り返してるうちに会話が止まり全員がウェルを見ている。
めんどくさくなって来た。
「ふむ。どうするクルリ?」
「えっ僕ですか?」
「そりゃそうだろう、お前の事なんだから。」
「面倒になってこっちに投げてきたんじゃないんですか?」
「そんなことはないぞ。」
「えー?」
クルリが不審そうな声をあげる。
「クルリ君、お願いしたほうがいいわよ。」
「じゃあ……お願いすることにしましょうか? ウェルさん。」
ティーリの声を受けてクルリが聞いてくる、まあ予想通りである。
「ではそうするか、二人より三人の方がやれる事が増えるし、俺もこの辺には詳しくないから詳しい人間がいると頼もしい。ただ……。」
「ただ?」
「こいつを育てているんだが三人でチームを組むことになるなら、とりあえずリーダーはクルリにする。」
「え?」
いきなり話が向いたクルリが声をあげる。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、なんで僕なんですか。」
「当然だろう、お前を育てるのが目的なんだぞ。」
「そんな事言ったって、僕じゃ右も左もわかりませんよ、無理ですって!」
「基本的に今までと特に変わらん。何かあった時にお前に決定させるというだけだ、知らないことがあれば俺たちの助言を聞けばいい。別にリーダーが何でも知っている必要もない。」
「リーダーとかそういう責任ある感じのやつとか嫌なんですけど……。」
ウェルはチラリとウィーグを見た。
少しウィーグは考え込んでいるようだ、横顔からでは内心までは見通せない。
そしてウィーグは口を開いた。
「ええ、わかりました。よろしくお願いします。クルリ君リーダー頑張って。」
「ええ……リーダー決定してる……よろしくお願いします。」
「じゃあティーリさん、私の所属を西ギルドに移します。」
「えっよいのですか?」
「はい、このチームに本腰を入れてみようかと思いまして。」
「わかりました、早速手続きしましょう。」
ベテランハンターを西に引き抜く形になったのだ、ティーリにとって棚ぼたであろう。
ウィーグとティーリが受付に向かうとクルリがウェルに話しかけてきた。
「あれですか? 移るとランクが落ちるやつ。」
「いや、同じ国の中なら落ちない。ペナルティで気軽に移る奴を減らして何かやましい事があって国外逃亡する奴をわかりやすくするためだからな。」
「なるほどー。」
「まあ俺はやましいことがあった訳じゃないが。」
「別に何も言ってませんよ。」
「お待たせしました。」
ウィーグが帰ってくる。
「じゃあどうするか。」
「最初に言ってた訓練でいいんじゃないんですか?」
とクルリが言った瞬間、声が響いた。
「あーー! 見つけた!」
「ん?」
クルリが振り向くと入口にこちらを指さしている少女とその隣にに女性が立っている。
「知り合いか?」
「どっかで見た事あるような……。」




