女だけの部屋
「だったら…、うちに来る?」
女の名前は、澤入のぞみと言った。
三八歳。
サキでさえ名前を知っているような有名企業のOLだった。
やはり地方出身で、渋谷で賃貸マンションを借りて一人暮らしをしているそうだ。
一泊して出て行こうとしたら、「居たいだけ居続けてくれればいい」と言ってくれた。
相手が女性であり、危ないところを助けてもらったということもあり、のぞみを信じていいと思った。いられるだけ、ここにいてみよう。
のぞみの休日に、携帯ショップに行った。
未成年で契約ができないため、のぞみが毎月のスマホ代を払うと言って契約した。
正直、有り難かった。
のぞみが仕事に出ている間、ひとりで待っているのが退屈だったのだ。
のぞみが帰ってくると、二人で夕飯を食べに外に出る。帰ってきたら、のぞみのベッドに二人で寝る。
サキが目を覚ました時には、すでにのぞみは仕事に出ていていない。
のぞみが残していったお金で、朝食と昼食を摂る。
そんな毎日が二週間ほど続いた。
ほとんど生まれて初めてのような、安穏とした日々だった。
しかし今夜、いつものように二人でベッドで寝ていると
「サキちゃん、ごめんね…」
のぞみの声がする。
何を謝られているのかわからないでいると、いきなり唇をふさがれた。
驚きのあまり声が出ない。
舌が侵入してきた。
仰向けに寝ていたサキの両肩をつかんで、全身をのしかからせてきた。
「いやっ!」
自分でも驚くほど鋭い声が出た。
のぞみは少しひるんだようだったが、猫撫で声でこう言った。
「そんなこと言わないでよ…」
その声が耐えがたいほどに気持ちが悪く、思わずのぞみの体を突き飛ばしてしまった。
突き飛ばされたのぞみはバランスを崩し、頭を箪笥の角にぶつけた。
パッと電灯が点いた。
のぞみが、その醜い顔を歪ませてこちらをにらんでいるのが見える。
充電器に挿してあったスマホを引き抜くと、いきなり投げつけてきた。
「何が嫌だ! 何様だ、おまえは! それだってわたしが買ってやったんじゃないか!」
その他いろんなものを投げつけてきた。おもわず顔をおおった。
「あー? きれいな顔だけは守りたいのか? おまえ、顔だけで生きていくつもりか? わたしはご覧の通りのお顔だから、そんな生き方はできないけどな! だけどおまえはわたしと違って、ちゃんと勉強して、ちゃんと就職したんだ! ちゃんと働いて、会社に行けば部下もいるんだ! エンコー女のくせに! 男のお情けにぶら下がって生きてるくせに! 男には何でもやらせるくせに! 何が嫌だ! 一人前の女みたいな口をきくんじゃねえ!」
のぞみの一言一言が、ナイフのように突き刺さる。
本当に胸が痛くなった。
「出てけ! おまえに食わせた飯だってタダじゃないし、おまえを寝かせた部屋を借りるのだって、カネがかかってるんだ! それだけのカネを稼ぐのに、わたしがどれだけ嫌な思いをしてると思ってるんだ! それを何だ! 一晩泊めただけの男には何でもやらせるくせに! 無学歴無学力無収入! エンコー女! バイタ! 売春オンナ! 」
とにかく、一秒でも早く、のぞみの悪口雑言から逃げたかった。
サキはベッドから起き上がると、そのまま靴もはかずに部屋の外に飛び出した。




