6 ハイ・エルフの青年、女王の御許までもう少し。
ハイ・エルフの青年の旅は困難を極めた。
魔法の袋にはエーテル3本、謁見用の正装、後はバンパイア女王に貢ぐ大ぶりの宝石が5個。不味くて食べにくいが栄養たっぷりの携帯食が一か月分、水は魔法で賄う。そして世界樹より渡された大ぶりな枝が一振り、そして10本入りの矢筒が10セット。街で使える金品はトラブルを避けるために最初から持たされなかった。装備は軽い皮鎧、厚めに作られた中振りのナイフ、世界樹の枝より造られた強力な短弓。この短弓は魔法を放つ事もできる伝説級の武器だがその力を見せるのは緊急事態のみとの制限を課せられていた。
そして認識阻害のマント。異世界物のご多分に漏れずこの世界でも奴隷制はあり、美形ぞろいのエルフは格好の餌食になりえるのだ。神様が現世関与しているのに自分のお気に入りの者が奴隷になったらどうするのか?まぁ負けちゃう奴が悪いと思ってるのか、それも地上の生き物の在り方としてとらえているのかもしれない。
バンパイア女王は自領から滅多に出ることはないが、自領における他勢力の敵対行動には苛烈な対応を行う事で有名であった。そのため青年は、戦闘を避けながら主要な街道には立ち入らず道に沿う形で目的地へと向かっていた。世界樹のそびえ立つ精霊森林を抜けるのに三日。(これは森を把握している一族ならでの日数である)それから遥か遠くに雄大な山脈を眺めながら草原や湿地帯を5日。そしてバンパイア女王が治めるという荒野にたどり着いた。
「あれが女王の城塞都市か。」
フライの魔法で確認するとエルフの目でも霞むような距離に城塞都市がみえる、中央辺りに白い城。あれが目的地に違いないだろう。永遠の女王の居城でありダンジョンでもある麗しき白城ムーアと城塞都市アーム。青年はここまでの行程を思い出し満足げに笑う。
精霊森林で生まれて1500年、一度も外の世界を見ることはなく、押し殺してきた夢が叶うのだ。外の世界を観たいとは願っていたが、ハイ・エルフと同じ永遠の時を生きるバンパイア種。そしてだが世界樹と閉鎖された場所で生きる事を選んだ一族とは違い、距離は置いているが世界と関わる事を選んだ者達。今回は世界樹に関わる事態である為、長期の滞在は無理であろうが少しでも何か感じ取れることもあるだろう。道中の苦難や苦労など何とも思わないほどの期待感に青年は心を躍らせた。