157 総力戦(5)
ガジはルハァと護衛達と交わした契約書を認めながらアレン、アルミそしてジェイナから自分が寝ていた間の報告を受けていた。
ルハァと護衛達が追加で出した条件は特に問題なかった。生き残る可能性はほぼ無かったからである。ただ指揮を取るものとして戦力向上や士気維持の判断をくだしたのである。
話題は問題を起こした村人4人に移って行った。
「ゴブリンの討伐数を決めてそれが達成されれば罰の免除が1番効果的かと。。。」
基本黙っているジェイナがポツリと発言する。聴いた3人は少し黙りガジが
「・・・それが一番無難な選択だろうな。」
と同意する。アルミとアレンも黙って頷く。
「では後で4人で牢に行って宣告をしよう。ブルの奴め、正気に戻っていればいいが。」
とガジがこの話題の終わりを告げる。
そこからは防衛方針について話し合いをしたが結局はもともとの方針で行く事となった。
1、1箇所壁が崩された場合、そこに一番近い櫓の守りは広場まで後退し侵入してくるゴブリン達を押し留め左右の防衛も加わり袋叩きにする。
2、2箇所以上壁が崩れた場合、その2箇所と間にある防衛は広場まで撤退して前線を再構築する。
それだけであった。馬だけは騎乗突撃をする為に隣村からも動かされて広場に全部で8頭いる。大した広さは無いが突撃力は維持しておかなければならない。
改めて防衛方針を認めた指令書を離れで待機していた女衆に持たせて各物見櫓に持って行かせるとガジの代わりにアレンが束の間の休息を取る事になった。アルミはルハァと護衛達に契約書と何振りかの剣を持ち広場で待機をするのであった。
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皇居の執務室でアガト村がゴブリンの暴走に襲われ援軍を求めているという報を皇帝と一緒に聞いていた紫玉騎士団のサイラス団長は思わず声をあげそうになるのを必死に堪えていた。サイラスはアガト村の出身であった。
そんなサイラスをメナー皇帝は急を告げにきた騎士が執務室から出ていくまで黙って見ていた。
「これより会議を執り行う。場所は蒼乃広間で良い。皇后及び各大臣を召集してくれぬか。あとザイル学院の3学年から最高学年までの事務系以外の生徒も全員召集しておいてくれ。・・・そうだのぅ。。。該当する学生達は皇居前の広場にて武装を整えて待つように勅命を出してくれぬか?」
と皇帝はそばに控えていた執事に告げる。執事は素早く礼をすると部屋から出て行く。
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蒼乃広間とは皇居にある大きな池を一望できる部屋である。そこは召集されたもの達で半分以上が埋まっていた。池を見渡せる側が一段と高くなっておりそこにはメナー皇帝と後宮の主人である皇后キサラが並んで座っていた。キサラは肩まで伸びた栗毛色の髪が少し飛び出た華奢なハーフエルフであった。
彼らの背後にはサイラス団長が控えている、が少し顔色が悪い。片膝をつき壇上の主人に服従の姿勢を取る者たちを眺めメナー皇帝が口を開く。
「皆のもの。顔をあげて良い。」
と声をかけた皇帝は皆が顔を上げるのを待ち、続けて言葉かける。
「急な召集に応じてくれてうれしいかぎりである。そなた達も聴いたかもしれぬが聖国の代名詞であろう奴隷首輪の破壊に城塞都市アームの太子であるディエゴ殿が成功した。」
続きを待つ配下をゆっくりと見渡すと
「我等帝国は近いうちに王国と城塞都市アームと共に聖国討伐に乗り出す。・・・早ければ半年以内、遅くとも一年以内の事と心得よ。」
一旦口を閉ざした皇帝に室内の皆がハッと答える。
「頼もしいの。では指示を下す故聞き逃すで無いぞ!
ひとつ! 東州を除く全ての州及び帝都にて魔物討伐を行う。討伐した魔物の肉は可能な限り保存食にせよ。獣は放置せよ。
ふたつ! 南州においての塩の供給量を可能な限りあげよ!
みっつ! 西州において可能な限り麦と芋の畑を増やすように!開拓を支援する為に他州及び帝都は人材、資金において可能な限り支援せよ。
以上が聖国討伐の為に行う勅命である。異存はないか?」
誰からも発言が無いことを確認した皇帝は
「ザナル宰相よ、各州の責任者との折衝はそなたがとれ。ナブ副宰相よ、そなたはザナル宰相の手助けするのだ。」
横にある小さなテーブルから茶をとり飲んだ皇帝は思い出したように
「おぉそうであった。何やら帝都と南州の間にゴブリンの群れがおるらしいな。。。此度の聖国討伐前の勝ち戦としたいの。サイラス騎士団長よ、余の側を離れる事、そして加護の使用を許可する。確かアガト村であったか?そこをゴブリン討伐の拠点にしたい故、そなたの加護で動かせる人員を持って直ぐに急行せよ。そうであるな。。。10日程で行く故それまではお前の采配で動いて良い。」
と背後に控えるサイラスに伝える。サイラスはその場で膝間つくとハッと返事をする。床には幾つか滴の跡が落ちていた。
騎士団長が膝間づいたのを雰囲気で感じた皇帝は横に向き直ると
「我が妻キサラよ。。。久しぶりの長い戦になるやもしれぬ。後宮を封じて皇居及び皇都の守りを命ずる。第二皇后及び第三皇后を頼む。」
勅命を言い渡されたキサラは椅子から立ち上がり段下に下がると一礼をし
「はい。皇帝陛下、仰せのままに」
とドレスの端を両手で持ち上げる。
帝国が総力を上げて動き出したのである。