156 総力戦(4)
一見すると長閑な村内をアレンとアルミは歩いていく。
少し足を止めてアレンが
「最後の問題が厄介なんだ。ガジさんとも少し話したんだがどうすれば良いか分からない。。。」
アレンを少し見つめてアルミは
「何があったんだい?」
と訝しげに問う。見た感じ緊急のような緊急で無いようなアレンの態度からは何が問題なのか予想も出来ない。
地面を足で蹴りながらアレンは
「防衛中にアホやらかした奴が3人と・・・敵前逃亡じゃ無いんだが、怯えて周りに悪影響を与える奴が1人出たんだ。。。緊急時には軍規が適用されるだろ?」
苦々しい顔をしたアレンはアルミに女衆が集会所で息を潜めていた間に起きた問題を語り始める。
「最初の問題は。。。焚火を起こして燻製肉をあっためようとしやがったんだ。まぁ火を付けてすぐに兵卒上がりが気付いて消したんだ。確か3日目だったからゴブリン共はこっちの存在を知ってた可能性がでかいが。。。」
アルミも少し苦い顔をする。兵卒上がりの人間からすると信じられない行動だからだ。そして顎を突き出し続きを促す。少しため息をついてアレンが続ける。
「問題の怯えてるのが猟師のブルなんだ。。。下手に魔獣の怖さ知ってるから囲まれてから恐慌状態になってな。。。俺達は全員死ぬとか叫び出した。。。直ぐ兵卒が取り押さえて黙らせたが隣村側物見櫓の士気が低かっただろ? ブルの錯乱の影響だ。」
アルミはこめかみを揉みながら眼を瞑る。短気なゴブリン上位種を排除する為にアルミの計算の中にブルは入っていたのだ。上位種排除計画の手順を修正しないといけないと思いながらアルミは
「で、、、あんまり聞きたくないけど残りの2人はどんな馬鹿したんだい?」
と尋ねる。アレンもこめかみをさすりながら
「1人は。。。簡単に言えば休憩中に窃盗をした。食物を持って出てきたところを自警団に取り押さえられた。」
アルミはこめかみを揉んでいた手を口にやって思わず開きっぱなしになった口を隠した。そんなアルミをチラッと見たアレンは
「・・・最後の奴は、短気な上位種を放置しろと命令を出した後に石を投げやがった。その時の反撃で2人やられたんだ。」
再び歩き出しながらアレンは
「軍法に当てはめて処罰すると。。。士気が逆に落ちる可能性がデカいってガジさんと話したんだ。・・・しかしなるべく早急に罰は与えねば規律が乱れる。。。と言っても貴重な戦力でもあるから困っている。」
とアルミに何かいい考えは無いかと聞いたのであった。
「・・・あたしもいきなりそんな事言われてもいい考えなんてないよ。。。ただ軍法通り処罰するのはマズいってのは賛成だよ。。。ガジには悪いけど起こして4人で話した方がいいね。」
髪を後ろに束ねながらアルミは返事をする。そして少し前から離れて2人についてきていたジェイナに声をかける。
「その様子だとそっちの手配は終わったみたいだね?休憩中の兵卒の男衆、次に男衆、最後に兵卒の女衆の順番で飯にするよ。伝令役の女衆に伝えておいてくれないか?後、伝令役を女衆から6人増やしてジェイナの側に控えさせておいて。その女衆は優先して飯を食わせておいて。
最初の6人はそれぞれ櫓に張り付いて異常があったらガジに伝えるように頼むよ。わたしとアレンはガジと話し合いがあるんだ。女衆も炊き出しをしながら食べさせておいておくれよ。終わったらガジのところに合流しておくれ。そうだね、飯も4人分大盛りでガジの家に持ってくるように手配も頼むよ。」
うなづいたジェイナは口に手をあてると鳥の声真似を始める。それを見届けたアルミはアレンと供にガジの家を目指して歩き始めたのだった。
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大きなイビキをかきながら死んだように眠っていたガジはアルミに揺すぶられて目を覚ますが覚醒には少し時間がかかった。
「ガジ、もう少し寝かせてあげたかったんだけどどうしてもあんた抜きじゃ決めれない事があってね。別に状況が変わったわけじゃないけど顔洗って目を覚ましてきておくれよ。」
アルミの言葉にハッと我を取り戻したガジは藁を引いてシーツ被せたベッドから起き上がる。起き上がったガジの鼻腔に火を通した食べ物の匂いがまとわりつく。グゥーとなった腹を押さえながら水溜め瓶から水をとり顔を洗ったのだった。アルミだけでなくアレンとジェイナの姿もあった。
貪るように食べる4人だったが半分近く食べると木蓋を載せて潰したばかりで少し血生臭く固いが香辛料がしっかりと効いた肉、煮込んだばかりで味が薄いが香辛料と塩味は収穫祭の時のようにしっかりしているスープを覆う。焼けた石で即興で作られた平パンは全員完食している。
久しぶりの温かい料理に含まれた栄養が身体中に沁み渡っていく感覚をハッキリと感じる。そこに女衆の1人が煮出した香草の温かい飲み物を4人分持ってくる。
「ありがとう。新しく伝令役になった6人は離れで待機しておいて。ゆっくりしてていいからね。ただ、履物と服だけは何時も履いておいて。後担当の物見櫓を決めておいて」
とジェイナが喋りかけると二十歳程の娘は頭を下げて出て行ったのである。