154 総力戦(2)
ガジが束の間の休息をとっている間、ガジの右腕であるアレンは女衆の頭であるアルミと合流して物見櫓を見て回っていた。
兵卒の女衆は一言も喋らず防衛についており、女衆が加わった事で兵卒の男衆がまとまって休みに入り、と言っても櫓の周りで寝そべるだけだ。若い男衆が自警団のメンバーに指示されながら代わりに女衆と共に立つ。
「ガジにはあと一刻ほど休んで貰ってその後、アレンも休んだ方がいい。ただ今のうちに細かい事を話し合っておきたい。」
なるべくゴブリン達に気付かれないように櫓を登りながら周りの確認をしていたアルミがアレンに話しかける。
「見ての通り上位種は二箇所に分かれてやがるんだ。。。見ていた感じだと上位種の間に上下関係は無いみたいだ。ただ1匹気の短いのがいてな。。そいつの投石で兵卒が1人、自警団上がりと男衆5人が重傷を負った。あの短気野郎が不味いってガジさんとは話をしてたんだ。」
と1匹だけ柵の周りを徘徊しながら周りのゴブリンからも距離を置かれている上位種を指差す。
そのゴブリンが行く先に蠢いているゴブリン達がサーっと散るので分かりやすい。
「・・・その重傷者達は・・・やる気はあるのかい?」
とゴブリンの上位種を一通り観察し終えたアルミがアレンの方を窺いもせずに尋ねる。
「ゴブリン相手に女衆が出てくる意味はみんな知ってる。ただどう考えているかは分からないな。。。」
「私もあの短気野郎は。。。危ないと思う。こっちから仕掛けるべきじゃないけどあいつだけは仕留めておきたいね。。。じゃないとあいつがきっかけで一気にゴブリン共が襲ってきかねないね。。。」
口を閉じたアルミだがアレンに一緒にくるように目で促しながら短気な上位種を観察していた物見櫓から降り負傷者達が置かれている場所へ向かう。
「・・・生贄の、、、いや、、防衛志願の女衆は何人いた?」
と話しかけたアルミにアレンは無表情で
「・・・6人だ。お前の娘もいた。。」
と答える。一見何気ないように見えるアミルは少し目線を落とすと
「そう。。。」
と短い返事をしたのだった。
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負傷者達がいる家にたどり着いたアレンとアルミは横たわる彼らを見て回る。
傷口はおおよそ塞がって居るが再生などはしておらず一様に負傷者達の顔色は青い。出血した分の血液がまだ戻っていないのだ。完治していない傷の痛みも顔色の悪さの原因でもある。
「単刀直入に聞くけどお前達をやった上位種を排除したい。志願したい者はいる?」
話しかけたアルミを6対の目が見つめる中、彼女は続けて
「志願者の家族を1人だけ代わりに貯蔵庫に入れる。女衆からは6人でる。」
と話したアルミに1人が返事をする。
「俺に身内はいない。。。この村でも世話になった。・・・心残りが一つだけある。・・・子供を残したいんだ。家族では無いけど俺の許嫁を貯蔵庫に入れてくれるなら。。。あと、子を成す時間が欲しい。」
左肘の先を失い巻かれた包帯は血で滲んでいる若い男の言葉をきっかけに男達が話し始める。
志願者の女衆の1人が重傷を負った男の妻であった為、男が代わりに妻を貯蔵庫に入れる事になった。
こうして女衆から5人、男衆から6人の志願者達が危険な上位種を排除するための生贄と決まったのである。
村の中央あたりにうっすらと立ち昇る淡い煙を見つけたアルミにアレンが
「女衆は流石だな。俺達もそろそろ飯が食いたいと思ってた所だった。」
と汚れた顔を腕で拭う。そして
「美味い飯を食う前にあと二つケジメをつけておかないといけない事があるんだ。」
とアルミについてくるように話したのだった。