14 女王勘付く
コツコツ コツコツと玉座のひじ掛けを指で軽く叩きながらシルビアは目前の男の相手をしている風を装いつつアリアについて考えていた。
(あの娘が謁見中の私から離れるなんて久しくなかったわ。。。何か面白い事でも見つけたのかしら。取り合えずここから離れないといけないわね。)
300年程前に、アリアが人族のメイドという職業にハマってから警護、接待、諜報、料理等々をシルビアの傍らに侍りながら率先してこなしてきたアリア。謁見相手が例え城下の子供であろうと側に控えていたのだ。絶対に何かあるとシルビアは確信していた。
「永遠の女王陛下、我々は陛下、ひいてはこの城塞都市アームの更なる繁栄の為に恐れながら具申させて頂いているのです。我らが提供する奴隷たちは主にたいする忠誠、教養も、ダンジョンに潜むいかなる敵にも恐れず立ち向かう技術も兼ね備えております。陛下がご要望とあれば何百、何千とご用意する難題も厭わない所存ですぞ。」
と上等な衣類に身を包み平伏した男が早口で口上を述べる。商人とは思えないほど体は鍛えられている。
シルビアの盟友でありダンジョンマスター〈賢竜アビス〉、アリアと共にこの荒れ果てた地に居を構えてから3000年程。街が今の規模になった2000年程前から数年、数十年おきに同じ要求をしてくるのだ。言い回しや口上を述べに来る者たちの立場は面白いほどバラバラだが要求してくる中身は一緒であった。奴隷を買い取れ。ダンジョンからのアイテムを優先して売れ、と。
「余がこの世に存在してから一万年近く経つが、一度世界全てを予の物とした事があった。余は永遠の名を持つものではあるが、闇を統べる者でもあるのだ。故に、奴隷など要らぬ。今日、余は機嫌がよい。定命の者にも分かりやすいように余の記憶を見せてやろう。・・・リコールメモリー。」
徐にシルビアが唱えると商人とシルビアの間に透き通った画像が現れる。そこには豪華な輿に優雅に寝そべるシルビアの姿。画像が天に向かって離れていくと輿の周りにオーガ、ゴブリン、普人間、獣人ありとあらゆる種族で整然と構成された軍勢が映し出される。10万は下らないだろう。空にはマンティコア、ユニコーン、グリフォン等の飛行部隊が編隊を組み地上部隊を先導している。少数だがドラゴン種も見える。
目指す先を映像が映し出す。そこには巨人族を中核にこれまた色々な種族が入り混じった軍勢がみえる。この軍勢も巨大だ。15万はいるだろう。映像が相手の軍勢に近づきづつ敵兵の首元を映し出す。一人残らず奴隷紋がうかびあがっていた。
あまりの映像に商人が玉座をみるとすでに女王の姿はなかった。青白い顔をした人族が商人に退室を促す。項垂れながら退室する商人はアームに持ち込む商品から奴隷を完全に消去したのであった。