123 皇母の事情とエルフの怒り
取り敢えず皇母が自殺するのは止めたし皇帝が法云々言い出す根拠も全て消し去った。だがこれはほっておいて良いことでも無い。どういう経緯で奴隷を皇母が買う羽目になったのかは聞き出さないといけないのだ。もう奴隷達は必要ないので
「メルクリル様、自分達と違って陽射しの中で待つのも大変でしょうから彼らは街に帰しておいては如何でしょうか?少し3人でお話がしたいです」
と皇帝と皇母を見る。自分の手の中にある小瓶を少し唇を噛んで見ながら皇母は皇帝の顔をチラッと見る。皇帝が俺をジトッと見ながら
「そうだな。。。何故か城壁も消えた。。。奴隷の首輪も無いとなれば我が聞きたい事はそうは無い。。。だが誰彼にでも聞かれて良い話と言うわけでもないな」
と皇母に向けて言う。皇母少し後ろを振り返ると
「貴方達は今日は道具と獲物を片付けて休みなさい。私は皇帝陛下とのお話が終わってから帰るわ」
奴隷達や配下の者達に告げる。彼らが自分達を振り返りながら片付けに向かうとお茶の続きをしながらメルクリルから話を聞き出すのであった。
皇国南州の城塞港街ライオンに4ヶ月程前に大きな帆船が一艘やってきたそうだ。帆船を持っているのは帝国と聖国だけの為に港街ライオンは直ぐに臨戦態勢に入ったが帆船に掲げられていたのは王国の国旗だった為、ライオン側は臨戦態勢を維持したまま帆船を入港させる。
入港した帆船は正式な王国の書類と帝国の書類も持っていたそうだ。その為に城塞都市ライオンは混乱に陥る。なんせ奴隷を引き取るようにと言う内容の契約であった為である。対価として記載されていたのは船に満載出来る塩だったそうだ。塩はどうにでもなるが帝都からは奴隷に関する新たな法の通知は来ておらず確認の為に帝都に人を送ろうとした時に東州より王国へ向かう途中のレティシア姫が聖国兵に襲撃されたとの一報が入り東州への後詰援軍の編成をしたり、皇都とライオンを繋ぐ街道にゴブリンの師団クラスの群れのスタンピートが現れたりそのゴブリンを狙ってオーガや小型の竜種が現れたりと難に襲われる。
早急な皇都への確認が不明となり痺れを切らし始めた王国の帆船の取引に仕方無く応じる事にするが万が一の事を考えて帝国としてでは無く皇母メルクリルの名前で契約をする事にしたそうだ。54名のしかも殆ど老人の奴隷達の主人となったメルクリルは城塞港街カルメと城塞港街ライオンに奴隷達を分散しておく事を決意する。なにせ50名以上首輪をつけたものがいると非常に目立つ上に新たに作る奴隷達が住まう住居を囲う城壁も大掛かりになり過ぎる為だった。城壁を作る予算も二つの城塞港街に分ければ負担も減ると言う思惑もあったようだ。
港街ライオンから港街カルメに早馬で8世帯分の住居と城壁の拡張を命じ第一皇女にライオンや南州の統治を任せてカルメに奴隷達と到着したのが2週間前だったそうだ。奴隷達に十分な仕事や住居があるのを視察し、カルメの責任者に彼らの保護を頼み明日皇都に向けて出発しようとしていた折に自分達と皇帝が現れたと言う次第のようだ。
「その帆船って聖国の偽装のような気がしますね。。。」
と言った自分に皇母は悔しそうに少し下を向いて
「えぇ。。。ですが書類は完璧な物だったのです。ですので皇国ではなく私との取引としたのですわ」
と答える。その彼女に皇帝が
「いや。。。恐らくは書類は正式な物だったのであろう、母上。副宰相が聖国と通じておったのでな。。。」
と答え二人とも黙ってしまった。ここは自分の出番であろう。
「いや!しかしこれでもう安心ですね。聖国との国境は全て封鎖しましたし。・・・後、海ですか!はい!いま封鎖したので聖国の人間はこちらに来れませんし王国と皇国の人間も聖国にはいけないですよ。無理に通ろうとすると身体が動かなくなります。あと皇帝陛下とメルクリル様の間の誤解が解けて良かったです」
と言った自分に皇帝が
「しかし此度の件、、、多数の者がすでに見ておる。。帝国法は皇族とあれどーーーー」
「母上から好きにして良いって言われたんです。国も・・・国なんて勝手に誰かが作るから壊しても構わないとも言われてます。ただ折角出来ているものを壊すのも勿体無いなとも思っているんです」
意識して牙が生えるように考えると牙がにょきにょきっと伸びてくるのが分かる。なんか高揚感が溢れてくるな!!皇帝はイマイチ自分の力を知らないし見せておこう!王国はアビスの元配下らしいからほって置いても良いだろう。おそらく牙が生えて目がアリアみたいに真っ赤になっている自分を見て皇帝と皇母が息を呑む。タニヤとティファニーは ‘ あ!ディーもこうなるんだね!だけどアリア姉様に比べたら可愛いの!(わ!) ’ とかお互いに話をしている。
機動要塞改に命じて夕陽に照らされている海めがけて巨大(半径10メートル)火球を30連発ほどぶち込み雷を撒き散らす。浮かんできた来た魚達は勿体無いので回収する。チラッと流し目で皇帝と皇母を見て
「街、国、人を破壊するなど容易すぎて楽しく無いのです」
と電磁砲を5発海に向けてぶち込む。雲に丸い穴を開けながら ‘ ヒュン ’ と音が聞こえた時には海面に大きな水柱が5つたち衝撃波もくる。まぁ衝撃吸収、物理障壁、時を止めた空層で直後に街と海岸を覆ったので大した事は無いが面白いのは今からだ。急速に引いていく波と沖合で盛り上がり始める波!やったぞ!!!自力で津波を再現できた!!今度は白ヒゲをつけてからやってみよう!!と思った瞬間に
ガツンッガツンッと衝撃が頭のてっぺん辺りにくる。いったぁー!!誰だ!!!と振り向くとヒヒイロカネの剣で鞘は着いていたがそれで自分の脳天に一撃を食らわしてくれただろうタニヤとティファニーがいた。目が怒っている。。。え?!なんで?と思うがティファニーが
「ディー!そこに座りなさい。前に反省している時の座り方が有ると言っていたでしょう?その格好でよ?あれをなんとか出来るからしたんでしょうけど皇帝陛下もメルクリル様もびっくりしてるわ!!街の方なんか大騒ぎよ??貴方も聞こえるでしょう??」
いつも最後に ‘ の ’ って付ける喋り方じゃない。。。ハッと我を取り戻すと街の方から悲鳴や怒鳴り声が聞こえてくる。。。すぐさま椅子から降りてタニヤとティファニーの前で正座をする。皇帝とかに見られているとか考えている暇はない。そして恐る恐る顔をあげるとそこにはエルフの顔をした鬼がいた。。。
「今朝もディーは私達を置いて勝手に聖国に行ったわよね?どれだけ心配したか分かっているのかしら??」
ティファニーが自分に話しかけている間タニヤもウンウンうなづきながら自分を見下ろしている。海岸には結界に阻まれて盛り上がって結界を飛び越えようとしている津波が見える。慌てて結界を飛び越える海水を遠くに転移させる術式を新たに組み込む。正座をしながら思った事は久し振りの正座は足が痺れるという事とこの角度ならまだパンツが見えると言う事だった。いや。。。ちゃんと反省はしながらである。
もう陽は沈むと言う時になってやっと二人から許して貰えたのであった。。。まぁ良いんだ。途中で我を忘れたが皇帝は帝国法云々とかその後一切言わなくなったから。。。