12 アリアとの会話
他愛もない会話をカイトとアリアは小一時間程楽しんだ。城塞都市の歴史、城やダンジョンについて軽くではあったがアリアはカイトに面白可笑しく聞かせて、時折カイトが口にする質問や疑問には簡潔にかつ要点を盛り込んだ返答で答えていた。バンパイア種についても聞いて見たかったのだが女王を姉と呼ぶ存在、バンパイア種でも上位の存在に間違いない。つい聞くのを戸惑ってしまう。
「アリアさん、この城塞都市が世界でも有数の都市とは疑う余地もないです。門前の広場で色々な種族の者を見かけましたが正直、、、目を疑いました。他種族が共存している街は他にもあるのでしょうか?」
とカイトは問う。アリアにメイド服を着ている時の自分に遠慮は要らないと言われた為だ。
カイトの一族が住まう精霊森林はどの国にも属さず世界樹の神域として扱われている。色々な国、種族の者達が精霊森林から得られる希少な植物、動物や魔物を目的にやってくる。そして互いに争う事も頻繁であった。カイトの一族は精霊森林を領地としているがそれは世界樹の側に控えるためであり、世界樹の側はともかく精霊森林自体に関しては行き過ぎた採取、村への侵攻をしてこない限りある程度黙認するスタンスであったのだ。
「カイト様のいう共存がどのような物かは分かりませんが、奴隷という形をとった共存が一般的と思いますわ。この城塞都市アームでは奴隷は禁止されていますし種族間での優劣もないですわ。ただシルビア姉さまの膝元で無用の争いを起こすものは厳罰に処していますわ。ですからこの街では滅多に表立ってそういう争いをする者はいないのですわ。それに精霊森林と一緒でここもどこの国にも属していませんわ。」
とアリアが続けてカイトに言う。
「そうそう、姉さまよりこの街に滞在中はこの部屋を使って欲しいとの事でしたわ。他の領地からいらした重要なお客様をおもてなしする役目もこの建物にはございますわ。次期族長様。」
とアリアがウィンクをしながら告げる。
「カイト様はお食事にご希望や食べられないもの等ございますか?」
「いえ、この街やバンパイアの方々の食事に非常に興味を持っています。食べられないものは無いので是非そういった物をこの機会に試してみたいものです。」
食い気味にカイトは返事をする。少し遠慮をするべきだったかと恥ずかしい思いがするがせっかくのチャンスなのだ。顔が赤らむのを感じながらもカイトは後悔はしなかった。
クスリと笑うとアリアは
「ではカイト様、今宵の晩餐をお楽しみにお待ちくださいませ。私、一回失礼をいたしますわ。晩餐のお時間は日の入りより一刻後でよろしいでしょうか?」
それでお願いしますとカイトは頷く。
「それではそれまでお部屋でお寛ぎ頂いてもよろしいですし、外へ出られても大丈夫ですわ。」
そうだ!宝石を一つ換金しておいた方がいいだろう。滞在場所はできたが、ずっとお世話になりっぱなしも問題である。アリアに宝石を換金したい旨を伝えると、換金場所を教えるのは構わないが物を見せてほしいと進言された。魔法の袋から一つ取り出して見せると、
「カイト様、この宝石を換金するのでしたらこの建物の隣にある換金所をお勧めしますわ。このネックレスを宝石と一緒に出してください。」
と胸元から黒い犬歯のネックレスを渡される。服の上からも分かっていたが大きい。村の女たちと違うサイズにカイトは僅かに動揺するも隠し通せたと一息をついた。