10 カイト方針を定める
正装を取り出し、入浴の準備をする。脱いだ鎧、マントや弓を替わりに魔法の袋に入れる。残すのは中振りのナイフのみ。下手に武装するよりも良いだろう。湯舟に入るとぬるいぐらいでちょうどいい。目を閉じ何も考えないように花の香りに意識を向ける。30分は過ぎただろう、かなりいい感じにリラックスできた。
湯から上がり、正装に着替える。純白と若草色の入り混じった柄でマントには世界樹と実の刺繍が施されている。このマントに施されている刺繍は一族の中での立場も示している。世界樹と実の刺繍は次期族長候補の物だ。ちなみに族長のマントには世界樹のみだ。大部屋のソファーの一つに座り考えをまとめる。
まず、一番時間がかかりそうであった女王への謁見の申請がこんなにも早く片付いたのは僥倖であった。次に宝石だが、、、、友好の証として献上する形が良いだろう。一つはこの城塞都市に滞在する可能性もある為、換金用に取っておくべきか、、。世界樹の枝も一緒に出しても構わない。自分も馬鹿であったが、族長や長老たちともっと交渉の為の対価を真剣に考えるべきだったのだ。外の世界、しかもバンパイア種に会えると舞い上がりすぎていた。まさかこれほどの城塞都市とは思いもしなかったのだ。
謁見が叶えば先ずは友好の証として献上品を渡す。次に世界樹様からの神託を話し、女王陛下には素直に対価として何も思い浮かばない為、無礼を承知で直接尋ねる。これが一番成功しそうな気がする。自分に差し出せるのはもう自分の身体以外にないのだから。
目を閉じながら数分で考えがまとまる。ふとテーブルを見ると見事な彫刻ばかりに気を取られていたが、バスケットが置いてありフルーツやクッキーが鎮座していた。小さな水差しとカップも4つある。一旦考えがまとまり、後は相手の都合次第という状況になると食欲を意識してしまう。昼夜を問わず気配がない限りフライで飛んだり、街道を外れ、道なき道を駆け抜けてきたのだ。
「確か自由に使って構わないという話だったな。」
湯に浸かり身体が水分を欲している。水差しをとり、カップに注ぐとひんやりとした感触がカップ越しに伝わってくる。一気に1杯をあおり、二杯目を注ぐ。
「これは魔道具か。カップに冷却と水差しには自動補填の魔法陣が組まれているのか。面白い使い方をするんだな。」
フルーツとクッキーも試してみたいがアリアさんがお茶の準備をするといっていたな。それまで待つとしよう。確認しないといけない事もあるしな。